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映画 ふたりはプリキュア Splash☆Star チクタク危機一髪!

映画ふたりはプリキュア Splash ☆ Star チクタク危機一髪 (初回限定版) [DVD]

監督:志水淳児 脚本:成田良美
日本映画 2006年
☆☆★

 

プリキュア映画3作目で、公開時は「デジモンセイバーズ THE MOVIE」とセットでの上映。2020年現在、他の作品との同時上映形式はこの作品のみとなっており、約50分(デジモンは約20分)と、他の映画と比べても尺が短い。前作と同じく12月公開の冬映画という形です。

 

ここはまずTVシリーズの「Splash☆Star」の説明から行きます。
シリーズ中、商業成績の面でワーストなのもあって、人気投票的なものでも下位になりがちで、心無い方々には叩かれ気味の作品なのですが、実際の所、他のシリーズよりも劣る部分の多い作品なのかと言えば、全然そんな事は無いし、商業的にあまり上手く行かなかったのには、それなりの理由もありますので、全てのシリーズを愛でたい私は、そこをフォローしてみたいと思います。

 

初代の無印「ふたりはプリキュア」とその続編の「ふたりはプリキュア MaxHeart」に続くTVシリーズ3作目が「ふたりはプリキュア Splash☆Star」になります。ストーリーや世界観は一新、前作までとは直接的な繋がりは無い作品になっています。

 

ふ~んそうなんだ、と流したあなた。そこ流しちゃいけません。
確かプリキュアって戦隊とか仮面ライダーみたいに、毎年新しいのやるんでしょ?そこは知ってるよ、と簡単に言ってしまってはいけないのです。戦隊、ライダーのようなコンテンツにしたいという意図があったのは確かですし、今でこそニチアサとして、そういうものと当たり前になっていますが、「映画 ふたりはプリキュア Max Heart」の記事にも書きました「あたりまえ」はあたりまえになる前はそれは決して「あたりまえじゃない」のです。

 

じゃあ一体、何が当たり前じゃないのかと言えば、キャラクターや世界観を継続しないで一新した最初のプリキュア、どころじゃなく、女児向けアニメで初めてそれをやったのがこの「スプラッシュスター」という事です。女児アニメ初の試み。

 

同じ東映であればそれこそ「セーラームーン」や「おじゃ魔女どれみ」が4~5年くらい続きました。他の女児向けコンテンツでも人気があるものはそれぐらいやってるものはあるようです。でも、キャラクターや話を継続してやるものは、いくら人気が出てもやっぱりそれくらいが限度です。

 

メインキャラクターの数が単純に増えてくる、ドラマの複雑化、そもそものメインターゲットの成長によるコンテンツ離れと、長くなればなるほど逆に途中から新規が入るハードルが高くなる等々、考えられる理由はいくつもあります。勿論、初代の3年目も検討はされていたようです。が、そういった過去を踏まえて全てを一新。それが「スプラッシュ☆スター」という作品です。

 

若干話はずれますが、スーパー戦隊シリーズも毎年新しいものに変わりますが、それの海外輸出版である「パワーレンジャー」シリーズ。向こうの制作側からは「せっかく人気が出たのになんですぐ変えちゃうんだ?」と今でもなかなか理解されないそうです。なので、元が1年の作品を2年に引き伸ばしたり、過去シリーズのキャラを継続して出してたりするようです。アメリカのドラマって、人気が出ないと伏線も回収せずにすぐに打ち切ったり、人気が出れば延々とシーズンを重ねたりしますよね。他にもスーパーマンバットマンスパイダーマンだって同じキャラクターで50年以上続いています。その辺りの文化や感覚の差って面白いですよね。

 

でもってプリキュアに話を戻すと、「S☆S」で全て一新すると決断はした。で、じゃあタイトルだけを継続する中で何をどこまで変えて、何を残すのか?という事になります。男児向けの戦隊・ライダーの文法が果たして女児にも全く同じで通用するのか?初の試みなのでそれは未知数です。女児向けでは前例が無いのです。

 

結果、大成功を果たした初代の雰囲気を残した、新しいふたりを作りだします。ちゃんと見ていけば違いはわかるのですが、プリキュアにガッツリハマる前の私もそうでした。このスプラッシュスターってのは初代の二人とは違うの?細部はちょっと違うっぽいけど、デザインを少しだけリニューアルした続きの話?なんて観る前は思ってました。良く言えば「初代の雰囲気を引き継いだ」ですけど、悪く言えば「あまり変わり映えしない感じ」に見えてしまいます。プリキュア初心者の皆様、これ、初代とは別物です。

 

キャラデザの稲上さんも初代の妹分的な感じを意識してデザインしたと仰られています。今でこそシリーズ16作も作られてますが、この時点では何しろ初の試みですし、まだプリキュアというタイトルもブランド化はしていないわけですから、「全くの別物」には変えずに、「前のイメージを残した新しいキャラクター」という選択に至ったという事。その辺りの葛藤が逆に今見ると面白い部分だなと、後追いの私は思った所でした。

 

女児向けと男児向けの違いでもう一つ面白い話があります。スーパー戦隊のメイン商品はロボです。そして仮面ライダーは変身ベルトです。毎年、ギミックを変えたロボとベルトを売っていますし、それが売れます。ギミックを変えただけで、売ってるものは同じ「ロボ」であり「ベルト」なのです。

 

さあ、これがプリキュアになるとどうでしょう。プリキュアは変身アイテムが一番のメイン商品です。商品開発部の人がインタビューで言ってました。女児向けはコンパクト型が人気があって実際に売れるものの、2年続けて出すと売れない。なのでコンパクトタイプのおもちゃは間隔を開けて出していると。男児向けはギミックの部分にアイデアを集中させられて、売るものは毎年同じでちょっとうらやましい、的な事を仰ってました。それ面白くないですか?私は、へぇ男女でそんな違いがあるんだと。とても興味深く読みました。女児物は同じようなものを続けるとあまり受けないようです。

 

まあ「S☆S」にコンパクトタイプのアイテムは無いのですが(前作のルミナスの変身アイテム「タッチコミューン」がプリキュアでは初コンパクト)、他のプリキュアにはないアイテムがあります。それはプリキュアシリーズ絶対無二、仮面ライダーに唯一対抗できるベルトがあったりします。「スパイラルリング」とゆー、変身ベルトじゃなくパワーアップアイテムなのですが、そこはとてもユニークです。

 

さて、変身と言えば「S☆S」が商業的に苦戦したもう一つの理由があります。前年のMHの後半くらいから、女児向けコンテンツでは意外な所から予想外の大ヒットが生まれます。それがセガの「オシャレ魔女 ラブandベリー」です。2005年~2006年くらいがピークのようで、実際のアパレル展開にまで発展。私は詳しい事まではわかりませんが、要は後の「アイカツ」とか「プリパラ」の原型みたいな奴で、筐体を使って服とかアクセサリーとかカードを読み込ませておしゃれを楽しむ奴ですよね。データカードダスで後にプリキュア版もありました。

 

実は初代プリキュアにもカード収集要素があって、おしゃれを楽しむってのではないのですが、妖精をお世話するのにカードを使うのですが(変身でもカード使ってます)初代のムック本には、果たして女児向けでカード収集要素が受け入れられるのかどうかも未知数で、的な事が語られてたりします。実際、その要素自体はシリーズの特色とはならなかったわけですが、他社がそれを違う形で大ヒットさせたと。

 

プリキュアのメインターゲットは未就学の女児です。初代とか、この頃くらいまではそこまで狭くマーケティングはしておらず、小学校低学年か、あわよくば作中の登場人物と同じく中学生ぐらいまで共感出来る要素を入れてそこもターゲットにしたいと思ってたんじゃないかと思われます。まあ中学生は私の勝手な想像ですが、初代のキャラリート(子供向けのキャラクターなりきり衣装)は、今のキッズサイズよりもう少し大きかったらしいので、その辺りから察するに小学生はターゲットにしていた事は伺えます。

 

今回の映画の併映作品の方の「デジモンセイバーズ」のプロデューサーであり、後にフレッシュ~スマイルまでのプリキュアのプロデュサーも担当する梅澤Pがデジモン側からプリキュアを見た時、メインターゲットの年齢層が予想していたよりもずっと低かったって言ってるんですよね。

 

プリキュアは小学校に入ったら卒業する物、という流れが自然に出来てしまって、それが「未就学児」がメイン層になってる今の現状なのですが、プリティーシリーズやアイカツプリキュアを卒業した所を拾う、という形になっています。(厳密にはプリテイーシリーズは年齢層の幅を多めにとっているのですが)

 

プリキュアの制作は東映アニメーションアイカツサンライズ制作で、アニメ制作会社は違うのですが、スポンサーはどちらもバンダイ東映的にはもう少し裾野を広げたいものの、バンダイ的にはプリキュア卒業してもアイカツで拾えばいいという話なので、そのあたりの制作とスポンサーの若干の見方の違いも何気なく面白い部分だったりはします。

 

ただ、それ以上に面白いのが、そもそもプリキュアを卒業する理由って何なのでしょう?私は女児ではありませんし、子供も居ませんので想像でしか書けませんが、以前に実際小さいお子さんを育てている親や、当然もうプリキュアをとっくに卒業した知人の中学生の女の子とかと話をした際に、プリキュア卒業して普通に月9のドラマとかを見ていた的な話を聞いた事がありました。う~ん、現実的。

 

男の子でも、戦隊やライダーを早めに卒業する子は、あれは子供向けだからとか、変身とか現実の話じゃないからとか言ったりします。プリキュアだってきっと同じで、変身とかファンタジー絵空事、という大人ぶって言いたくなってしまう部分もあるのかもしれません。
そう、彼女らにとって変身とはスーパーヒーロー、スーパーヒロインになる事では無く、オシャレやお化粧をして可愛く、綺麗になる事こそが「変身」と言う事なのです。

 

「S☆S」が「オシャレ魔女 ラブandベリー」に大敗を喫したのは、そんな背景があるからだと考えると、それはそれで面白い部分だな、と思います。

 

プリキュアを卒業した女の子が、いつか大人になった時に、ふと何かのきっかけで再度プリキュアに触れた時、自分が卒業したと思っていたそこには何が描かれていたのか気付く事も、もしかしたらあるかもしれません。

 

そんな話があれば是非聞いてみたいし、逆に言えば常に傍観者である男性、私のようなプリキュアおじさんにとっては自身の経験則には基づかないからこそ、普通に面白いコンテンツの一つとして素直に、或いは別の角度からプリキュアを見る事が出来るのかも、なんて風にも思います。

 

ライバルコンテンツの登場と、初代からあまり印象を変えなかった事がマイナスイメージに働いた、ぐらいまではたまに語られますが、何故そうなったのかと、そこに至るまでの背景や過程はあまり語られない印象なので、長々と説明させていただきました。シリーズコンテンツとして見た時に、簡単にはスルー出来ない「S☆S」の挑戦とその価値はとても重要な意味を持つ作品なのです。

 

ここからようやく「チクタク危機一髪!」の話。(毎回なげーよ!)

確か、TVシリーズ通しての唯一のケンカ回がこの映画だったと記憶しています。そう、基本的に最初から仲良くなる咲と舞はお互いの気持ちがわからない、みたいな話があまり無い。すれ違いがあれば当然和解もあるわけで、勿論それを描く為のドラマ。

 

敵のサーロインがやたらと「完璧」に拘るのに対して、私達は確かに完璧なんかじゃない、でもお互いに出来ない事を補い合う、だからプリキュアは二人なの!と言い放つシーンは、次回作からチーム物になるプリキュアの「ふたりは」時代の締めとしては相応しいシーンになっております。
例によって全てを言葉で言ってしまうのはプリキュアからしょうがない。あ、未来への扉を二人で開けるってのは演出のみでやってたかも?

 

アクションは前作と同じく最初のウザイナー戦がやたらと高いクオリティ。精霊の力を使ってブーストがかけられるからなのか、初代と比べて立体的な攻撃の組み立て方が特徴。

 

そしてラストはこの映画でしか見れない十二干支砲。
時間がテーマと関係してるから?十二支なんて年賀状書くときくらいしか気にした事が無かったので、改めて調べてみると、方位学でも使われてるようで、牛のような角を生やして虎のふんどしを締めた「鬼」のモチーフもここから来ている様子。ああ、だからサーロインさん牛っぽかったのね。今回初めて知った。

 

「S☆S」は自然がテーマになっていて「全てのものに命は宿る」的な事が描かれます。ただ、そこに収束するとは言え色々なモチーフがありすぎて、ぱっと見のわかりやすさという面ではやっぱりちょっと難があるのも事実かなと思います。

 

だってプリキュアのモチーフが花鳥風月(女児物で何故これ!?って感じしますよね)
敵が五行思想の木火土金水(でもボスキャラは何故か悪代官と家老)
そして世界観が世界樹と七つの海(泉)。
その上、映画で十二支とか使われても、正直ピンとは来ません。

 

他の物は全て世界の在り方、この世界を構成しているもの的に繋げられなくもないですが、流石にアクダイカーン様はよくわからぬ。

 

でもそんな事はどうでもいい。
花が咲き、鳥は空を舞い、風は薫り、月は満ちる
ただもうそれだけで全てにおつりが来る作品ですので、SSをあまりいじめないで下さい。


Futari wa Precure Splash☆Star Movie OP

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