僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実


【公式】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』3.20(金)公開/本予告

監督:豊島圭介
日本映画 2020年
☆☆☆☆☆

 

<ストーリー>
1969年5月に東京大学駒場キャンパスで行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会の様子を軸に、三島の生き様を映したドキュメンタリー。1968年に大学の不正運営などに異を唱えた学生が団結し、全国的な盛り上がりを見せた学生運動。中でももっとも武闘派とうたわれた東大全共闘をはじめとする1000人を超える学生が集まる討論会が、69年に行われた。文学者・三島由紀夫は警視庁の警護の申し出を断り、単身で討論会に臨み、2時間半にわたり学生たちと議論を戦わせた。伝説とも言われる「三島由紀夫 VS 東大全共闘」のフィルム原盤をリストアした映像を中心に当時の関係者や現代の識者たちの証言とともに構成し、討論会の全貌、そして三島の人物像を検証していく。

 

という事でこちらのドキュメンタリー映画を見て来ました。日曜日の昼過ぎの回で、箱は100人くらいの小さい箱だったのですが、なんと満席。満席の映画館なんて10年ぶりとかくらいかも。確かマトリックスロードオブザリングのどれかだったっけかな?(全然違うかも?)満席で急遽出されたパイプ椅子で見た事が一度だけある気がします。むしろ逆の一人鑑賞なんか両手でおさまらないくらいあるんですがね。

 

ええと、まず前提条件。私はおっさんですが流石に全共闘とか自分が生まれる前の話ですし、あの時代は経験してません。ただ、フィクションも含めた映画なり本なりでも直接的なその話ではなくともその影響が語られる物は少なくないですし、押井守も露骨にそうだし、ガンダムだって富野も安彦もあの時代ありきで作品を作ってるわけで、興味のある題材ではありました。ゲッターロボでさえ石川賢の漫画版は学生運動の話から始まりますしね。

 

山下敦弘の「マイ・バック・ページ」とかメチャメチャ好きな作品で、あの作品の好きなとこは作中はあの時代そのものを描いてはいるんですけど、実際はあの時代を経験していない人から見たあの時代への憧れ、あるいはあれって一体何だったの?を描いた映画だと感じたし、だからこそすごくグッと来る作品になりえました。

 

三島由紀夫の著作も読んだ事無いですし、深い知識も無い人が観た前提での感想として読んでいただけると助かります。

 

ええもう、これがメチャメチャ面白かった。
用語解説のテロップも要所要所で出してくれましたし、原題の視点から見た解説者のコメントなんかも結構な頻度で出てくれますので、かなりわかりやすい作りになってると思います。(逆に言えばあの時代に生きておらず、詳しい事は知らない初心者向けなのかも)

 

まずは前提として、個の捉え方から聞きます、みたいな所から始まりますが、うん、そうそういかにもインテリっぽいし、自分がインテリというわけではないですが、私も「面白かった」とか書きつつ、そもそも自分の「面白い」の定義はと言うと、みたいなとこから本当は書きたかったりします。お互いの言葉の定義についてとか知っておかないと、やっぱどこかに齟齬が生じますよね、なるべくならそういう所は無くしたいなって思います。

 

話の内容ではなく、全体の印象として面白いなと思ったのは、三島はこの時、40過ぎくらいで、学生は20そこそこくらいなわけですよね。東大生なので基本はインテリ気質な人が大半だと思うのですが、基本的にはやっぱりまだ若いので、血気盛んな感じです。右と左で思想が対極に居る存在。三島がそこに単身乗り込むっていう構図がまず面白いし、互いに暴力沙汰にはならないようにと最前列には互いの私兵を潜りこませて居る辺りは緊張感があって面白い。

 

で、血気盛んな学生の中には多分、三島とか目の上のたんこぶみたいな奴はこの機会に暴力なり論破なりでケチョンケチョンにしてやろうぜ、みたいないかにもな若い感覚が見てとれる。

 

対する三島の方なんだけど、これがただ若造に説教してやろう的な上からの目線で無く、もしかしたら最初はそういう気持ちも多少はあったりするのかもしれないけれど、まず学生の話を真剣に聞くのね。そしてそれに真剣に答える。

 

学生運動を「大人はわかってくれない」なんてほどには単純化出来ないんだろうけど、古い価値観に縛られてる老害に対して自分達の力や考え方で革命を起こすんだ、みたいな部分で言えば、話も聞いてくれない大人達の中で、三島は真剣に自分達の話を聞いてくれる、自分と真剣に向き合ってくれる、右と左で思想は違うのかもしれないけど、三島は他の話も聞いてくれない大人とは違うんだ、的な感覚に段々となっていくのが目に見えて、もうそこがメチャメチャ面白い。

 

三島もね、大人としての余裕と言うよりは、大人としての立場として皮肉や挑発をただ感情に任せるだけでなく、上手くいなしつつ、まず真剣に向き合おう、みたいな姿勢が凄く良い。

 

そうそう、これコミュニケーションの基本ですよ。まずむやみに相手を否定したりバカにしたりしないで、話をちゃんと聞いて、ちゃんと真剣に相手と向き合う。それだけでも印象って全然変わってくるものですよね。

 

そしてその中で異質なのが全共闘側の「論客」としての芥氏。三島と同じくらいこの人もまた面白くってね、ふてぶてしい態度で三島をガンガン挑発していく。三島の言う事より自分達の言う事の方が理にかなってる、世界を変えるのはお前じゃなくて俺たちなんだ、と半ば確信しているんだけど(でなきゃここまで出来ないだろうしそこはね)実際はまだただの学生の身分でしかなく、作家としてきちんと実績も評価も受けている三島と比べると明らかに青臭い理想と理屈だけで空虚な感じが透けて見えてしまう。

 

個人的には「生まれた時に国とか関係ないでしょ」みたいな事を言い出した時が、あっ、この人薄いなって感じがしたし、飽きちゃったからもう帰るわと退場した時は。これはちょっと分が悪いなと自分で察していたんだろうし、このまま続けたら三島を説得させるどころか、逆に感化される部分が出てしまうと、あからさまな逃亡にしか見えませんでした。

 

作品の作りとして、当時あの場に居た人達の半世紀も過ぎた今現在の気持ちなんかも入ってくるのですが、そこには当の芥氏の姿も。劇団を立ち上げて、今も創作活動を続けている芥氏。見た目は勿論、それなりにお歳を召されておじいちゃんなんですけど、ふてぶてしい態度は相変わらずで、うわこの人変わってねぇ!と嬉しくなってしまいました。

 

この人にとっての革命とは、個の内面の改革であって、自決した三島と違って、自分は今でも生きてこちら側で革命を続けているよ、果たして本当に勝利したのはどっちだったのかな、的な感じでニヤリとする姿はもう最高でした。ヤバい、面白すぎる。

 

まるで「真剣10代しゃべり場」のような、お互いに話し合いの中で解きほぐされていく三島と全共闘。あの後、盾の会に入らないかとか誘われちゃったんですよね、と嬉しそうに語る司会の人。まるで劇映画のような大団円。
それだけでも十分すぎるほどに面白いのに、その和やかな場からは離脱した芥氏のその後の達観ぶり。お前はアントニオ猪木か!と言いたくなるくらいの「どうってことねぇよ」感が面白すぎて、終始ニヤニヤしながら見てしまいました。

 

討論会という事で、スポーツ的な面白さから、今度は腹の探り合いから一撃を叩き込むガチの格闘技へ、かと思ったら終わりはプロレスだった!
あるいは学生の青春物かと思ったら老成した姿を描く人生ドラマだった!
その上、勉強がてらに見ようと思った社会派ドキュメンタリーが極上のエンタテイメントだった!いやもう面白すぎました。

 

あとは三島が拘る「天皇」が解説者によって微妙に違う辺りもまた面白くって、藪の中みたいに何が本当かわからない、とかではなくそれぞれちょっとづづ違う解釈をしてるんだけど、その中で共通する何かが本質、みたいな所もまた面白い。アイコン化した三島の再定義からの再解釈、みたいなもんですよね。それはこの映画そのものにも通じる話だし、この討論の様子を見ながら、さらに討論も出来る、みたいな入れ子構造。

 

この映画を見て三島や学生運動により興味を持った、とかより、単純に映画として物凄く面白い物を観た、という感じでした。

 

 


ああ、そうそう映画見て、ブログで何書こうかな~って考えてる時に、ふと思い出したんですけど、何かの映画で三島の自決シーンを私は観た事があったような気がするのです。
市ヶ谷の駐屯地に立てこもって、そこの責任者を人質にして演説をする。で、演説終わった後に自決するのは普通に史実通りだし今回の映画でも少し出てましたが、部屋の中を自分の血で汚さないようにする為、ビニールシートみたいなので部屋を覆って、自決。
その後に警察だかそこの自衛官だかが部屋を片付けようとするんだけど、介錯されて生首の状態になった頭を汚いものを扱うように片付けようとしたら、人質になってた責任者か何かが、三島は立派だったよ、それをぞんざいには扱わないでほしいとか言うセリフがあった気がする。
若松孝二の映画でそんなシーンありますかね?若松の奴は見てない気がしたんだけど、「キャタピラー」は観た記憶があるので、その流れで見たんだっけかな?作品を観た記憶は無いんだけど、なんかそのシーンだけが頭の中に急に蘇ってきました。誰か上記のシーンに似たようなの知ってたら情報いただけたらありがたいです。

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