僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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恐怖の報酬 【オリジナル完全版】

恐怖の報酬【オリジナル完全版】 [DVD]

原題:Sorcerer
監督・制作:ウィリアム・フリードキン
アメリカ映画 1977年
☆☆☆☆★

 

<ストーリー>
南米奥地の油井で大火災が発生。祖国を追われ、その地に流れてきた4人の犯罪者は、ひとり1万ドルという「報酬」と引き換えに、わずかな衝撃でも大爆発を起こす消火用ニトログリセリン運搬を引き受ける。2台のトラックに分乗した男たちは、火災現場まで道なき道を300キロ、ジャングルの奥へと進んでいくが、その先に待ち受ける彼らの運命とは―。


昨年くらいに劇場公開されていて気になってたものの、タイミングが合わずにスルーしてしまいました。映画やゲームでたまにある、ちょっとした衝撃を与えるだけで爆発してしまうものをおそるおそる運ぶ、みたいなシチュエーションの元祖的な作品というぐらいの知識しか無かったのですが、そもそもこれ、リメイク作品のようです。

 

元は1953年の同名フランス映画。いつ爆発するかわからないニトログリセリンをトラックで運ぶ、というシチュエーションサスペンスで、それを砂漠からジャングルに変えるなどしてリメイク作品として作った、という形。これは是非原作の方も見てみたくなりました。

 

莫大な予算をかけて作ったものの、77年の公開時には「スターウォーズ」とぶつかってしまい、興行成績も振るわず、その結果海外での公開は映画会社の方の意図で120分から30分カットの90分短縮版にされてしまってやはり興行成績も批評も惨敗。

 

そういう所は先日見た「新幹線大爆破」とちょっと似てますね。日本では受けなかったものの、ドラマ部分をバッサリとカットして、サスペンス娯楽作として海外ではヒットしたというこの作品とは逆な感じの背景がありました。

 

権利関係もあって、日本でも短縮版しか無かったものの、監督のフリードキンが40年越しにその権利関係をクリアして、こちらの完全版が世界的に世に出る事になり、一気に再評価されるようになったと。

 

なかなか複雑な作品背景があるようですが、ウィリアム・フリードキンと言えばやはり「エクソシスト」です。エクソシストは私のフェイバリット作品の一つ。エクソシストの方も完全版で有名なスパイダーウォークが追加されたりした事が有名だったりしますが、個人的にそこはどうでもいい部分だと思ってます。あの作品の恐怖はそういう表面的な部分じゃないし、そもそも怖いか怖くないかとかそんな所で評価するような作品じゃない。

 

先日の「遊星からの物体X」の時にも書きましたけど、私はホラー映画大好きです。でもホラー映画を怖い怖くないを評価の基準にするのがとても嫌。お化け屋敷や怪談話じゃないんですよ。ホラー映画だろうと何だろうと、ホラーである以前にまず映画なのです。

 

「物体X」だって「エクソシスト」だって「ゾンビ」だってそりゃ怖いですよ。でもそれってクリーチャーの怖さとかじゃない。世の中の怖さじゃないですか。現実を風刺して、その現実こそが一番の恐怖。ホラー映画以上に疫病も怖ければ政治も怖いし、世の中の動きだってこんなに異常で怖い事ばかりじゃないですか。そんなのと比べたらモンスターなんて映画の中の作りものですから怖くないと思いません?オリンピックとかの為にどんどん人を殺してる今の政治の方がよっぽど怖いし、何も考えずそれに倣うだけの人間の方がもう全然ホラーですよ。

 

とまあ、「恐怖の報酬」から外れた話をしちゃいましたが、そんな風に物事を見てる人なので、この作品もそういう視点で見てこれが物凄く面白かった。

 

53年のオリジナル版を見てない私が言うのもどうかとは思いますが、フリードキン的にはそっちの方は核のメタファーとして見たらしい。今にも爆発してしまうどうにもならない「力」を核のメタファーと想定して、思想や立場の違う人間が協力してなんとかその危機に立ち向かう映画だったので、それなら自分は違う形でリメイク出来ると感じでこの映画を作ったという事のようです。

 

エクソシスト」を見てるからというのもあるとは思いますけど、この作品で襲いかかってくる困難や危機って、自然の脅威でありながらも、ものすごくそこに人間が関与できない神(あるいは悪魔の)の意志のように感じられました。

 

今なら「ファイナルディスティネーション」とか「イットフォローズ」でやってた「死」が人の逃れられない運命みたいなもので、それが襲いかかってくる感じというか。


4人のメインキャラ、全員何かしらの「罪人」ですよね。彼らが挑む密林は「地獄の黙示録」と同じく、その深層心理そのものだと思います。恐怖のつり橋も、まさしく崩れかかっている所を綱渡り的に進んでいく心象風景なわけです。

そこを確信したのって、原作からあったのかはわかりませんが、その少し前にあるY字路です。

矢印が落ちてしまっているので彼等はどちらを選ぶべきか選択を迫られます。地図にあるのは左の道だ、右はのっていないぞ。そして落ちている矢印も一応は左向きに落ちていたかと思います(記憶違いだったらゴメンなさい)

 

この時点では4人は2組に分かれていますが、どちらも左を選ぶ。確か序盤の方でもありましたよね。回り道をしていった方がいい、みたいなセリフがありつつ、結局は近い方を選んでしまう。

 

そう、彼等は安易な道を選ぼうとするのです。他人なんかどうなったっていい、犯罪だろうが何だろうが楽して金もうけ出来る方が良いじゃないか。そんな考えの人達なのです。それが地獄へと続いている道なのだと知る由もなく。

 

そんな地獄の中でも彼等はもがき、時には協力して困難に立ち向かう。ある意味ではそこは人間の強さとも受け取れる。刹那的な美しさに見えて、それでもその希望はあっさり打ち砕かれる。ラストも含め、所詮は因果応報なのだと。

 

そんな風にこの作品を見ると、いやこれは凄い作品だなと。ただのサスペンスだけが見所の作品では決して無い。

 

いや、サスペンスだけでも十二分にハラハラさせられて、ホントに息がつまるくらい面白かったのですが、それ以上の深みがこの作品にはあったんじゃないかと思います。

 

ちなみに原題が、53年版から変えて「ソーサラー」(魔術師)になってます。前半「殺し屋を派遣しろ」「高いぞ」「かまわん」という話のやりとりがあって、表層的には最後に出てきたあの殺し屋の事なんでしょうけど、個人的な超解釈としてはそこで雇ったのは実は殺し屋ではなく、それが魔術師・・・いや呪術師と言いかえても良いのかもしれない、そういう超常的なものだったんじゃないのかなぁと。(半分ネタで言ってるのであまり本気にしないで下さい)

 

まるで呪われたかのように自然や困難が主人公へ牙をむき、罪の意識に苛まれて半ば精神的におかしくなりかけていくのは、そういう呪いを魔術師にかけられていたんじゃないかと思えるくらい、恐怖が襲いかかってくる姿は圧巻でした。

 

フリードキン版「恐怖の報酬 オリジナル完全版」まさに名作と呼ぶにふさわしい作品でした。


映画『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』予告編