僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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ウォッチメン

ウォッチメン 無修正版 ブルーレイ コンプリート・ボックス (1~9話・3枚組) [Blu-ray]

原題:WATCHMEN
原案・脚本・製作総指揮:デイモン・リンデロフ
アメリカ テレビドラマ 2019 全9話
☆☆☆☆

 

HBO制作・スターチャンネルで放送されたTVシリーズ版「ウォッチメン」です。私はネット配信チャンネルみたいなのには入って無いのでレンタルで鑑賞。アラン・ムーアデイブ・ギボンズの手による原作「ウォッチメン」は発表から30年経とうが、私にとっては今でもこの世の中の漫画の全ての頂点です。

 

ザック・スナイダーにより映画化もされましたが、割と原作再現度は高いものの、ラストが改変されてるのと、あそこまでやっても原作の密度の10分の1も伝わって無いと思いますので、まずは黙って原作を読もう。(可能であればでいいですが、なるべくなら解説がついてる電撃版の方をオススメ)

 

ドラマ版はその再現ではなく、原作から34年後の現代(2019年)を舞台にした続編的な位置付け。主人公は原作には出ていないシスターナイトというキャラですが、原作のキャラのその後が出てきますので、原作を知っているのが前提。アメコミの世界でもウォッチメン以前と以降と分けられるくらい歴史的な作品ですので、
の辺りのハードルの高さは仕方ない所かも。

 

ニコニコチャンネル&youtubeでやってるマクガイヤーチャンネルで特集を組むという事でしたので、急いで鑑賞。見てからだとそっちの解説に引っ張られちゃうと思うので、事前に自分の感想もあげておきます。

 


思いっきりネタバレありきでの感想ですので、その点はご注意を。

 


一人の殺人事件から始まり、各話でキャラクターの一人づつをピックアップして描き、最後は大きな事件の陰謀が明らかになっていく、という構成はオリジナル原作の構成とほぼ同じですので、その辺りからも原作リスペクトである事と、2時間の映画でなくドラマの複数話という形式の相性の良さもあって、まずそこが良い。

 

で、序盤の過去の時間軸で描かれる黒人虐殺事件。1921年に実際にあった出来事だそうで、黒人差別を語る上では重要になる事件だそうですが、それらを扱った映画やドラマがあまりないのは、リアルでもアメリカ人にとってはあまり触れたくない歴史であるから、という事らしい。そんな黒歴史を掘り起こしてきたわけです。

 

偶然か必然か、2020年6月現在、ミネアポリスで白人警官が黒人を虐殺、それを発端に世界的な抗議デモ(とそれに伴う暴動)が発生中。あまりにも現実とのリンクに驚かされます。

 

元々の原作ウォッチメンがリアルタイムの冷戦下の現実を舞台に、世界終末時計の針が進む様をスーパーヒーローコミックという寓話を用いて、その風刺を描いた作品。

 

HWO WATCHES WATCHMEN(誰が見張りを見張るのか)という意味でのウォッチと終末時計の針という、時計のウォッチのダブルミーニングになっていたわけです。原子の超人Dr.マンハッタンが元は時計職人だったというのも、当然意図したもので、ヒロシマでの原子力爆弾の威力を観たアインシュタインが残した「こんなことになるのなら科学者では無く自分は時計職人になるべきだった」という言葉に基づいています。そういうありとあらゆるものを多層的に重ね、それこそ精密な懐中時計のように組み上げられた作品がウォッチメンであると。

 

なのでもうドラマ版の序盤、この現実とのリンクで、これわかってるやつじゃん。ヤバイ、凄い、そうそうこういうのが見たかったと、一気に引き込まれます。

 

人種差別うんぬんは、私は全然詳しく無いし、正直な所は身近な問題として捉えた事は無いと思います。(政治思想は左翼よりなので日本人の優位性みたいな事を言うのも他国へのヘイトスピーチも大嫌いですけど、あくまでなんとなく程度)

 

でも白人至上主義と言えばのKKK。白頭巾のあれは映画なんかでよく見ますよね。そこを古のミニッツメンのフーデッドジャスティスの黒ずきんと重ねてくる辺り、ああなるほど、これは確かに似ているし、スーパーヒーロー物のお約束、マスクをかぶったヒーローとは何か?マスクをつける事で何が変わるのか?マスクでは無くその仮面の下にはそもそも何が潜んでいるのか?この作品はそこを掘り下げてくる。ヤバイ、面白い。

 

この作品の世界では、警察官やその家族への復習を防ぐため、警察官は全てマスクで顔を隠すという形になっている。かつてのロールシャッハを模したマスクのテロリスト集団。そしてその監視者、法の執行者もまたマスクで顔を隠す。なんというビジュアルと構図。ここもまた面白い。

 

テーマとして掘り下げるという形では無かった気はするものの、インターネットの匿名性にも通じる部分があるような感じですよね。(作中ではマンハッタンやオジマンディアスの技術更新によって文化の進み方が違っているので、SNSの類は無い世界のようですが)それこそ、これもまた現実で起きてしまった悲劇、リアリティショーの出演をきっかけにSNSでの誹謗中傷を気に病み、自らこの世を去ってしまったプロレスラーの木村花さんの居たたまれない事件がありました。

 

匿名、あるいはマスクで自分の正体を隠す事によって、人は自分では無い何かになったと錯覚する。それはヒーロー?悪人?むしろその逆かもしれない。素顔という偽りの仮面から解放された時に、その心の奥底に潜んでいた本当の自分が露呈する。怒りや憎しみ、妬み、それが本当のお前なのだと。マスクの描写一つでそういう所にまで踏み込んでくる描写が抜群に面白い。

 

序盤からそんな感じで、こりゃすげぇと思ってる所に登場してくるのが、何とあのローリー。(オジマンディアスは最初から出てるけど、序盤では何をやってるのかがさっぱりわからない)そうかつてのシルクスペクター。しかもジュスペクツ姓でなく、あの忌まわしきブレイク性を名乗る。

 

いやもうこれ最高。すっかりオバサン化してあの頃の面影も無く、父親のようにヤサグレ感たっぷりなものの超優秀なFBI捜査官。オリジナル「ウォッチメン」において、ロールシャッハ、ナイトオウル、Drマンハッタン、オジマンディアス、コメディアンと男性キャラは好きか嫌いかはともかくとして、理解はできるキャラだったんですけど、ローリーだけはどうも私は理解しにくいキャラで、ストーリー上の役割はあるんだけど・・・という感じだったんですよね。今回のローリー最高でした。めちゃめちゃ好きになれた。これだけでも今回のドラマ版観た価値はあったと思えるくらい。

 

そう、良くも悪くも人は変わるものです。幼い少女だったローリーは酸いも甘いも経験してすっかり大人になりました。原作ウォッチメンにおける私が一番好きなシーンで、作品そのものの白眉とも言える「熱力学的奇跡」(映画版にはこれがない!)ですらギャグにしてしまえるこのやさぐれ感。ホントにもう最高です。人として魅力がある。それでいて火星ホットラインに電話してしまうノスタルジックさも含め、ローリーの描写でこの作品を肯定する事に決定。

 

主人公のシスターナイトも抜群に面白かったし良かったのですが、それ以上に私はローリーがメチャメチャ良かった。

 

新キャラで言えば、ミラーボーイことルッキングラスも面白かった。こいつオリジン最高ですよね。あのイカ大虐殺のシーンが見れたのもさることながら、童貞を応援したくなる事請け合い。

 

新キャラと言えばあのヌルヌルマンは一体何だったのか?インパクトは絶大で爆笑しましたが、その後出てこなかったよね?気になる・・・。

 

さらに新キャラで言えば、ルッキングラス以外の警察の仲間はさほど描写の掘り下げも無くイマイチでしたが、何とアジア人メガネっ娘の萌えキャラまで登場。お母さんのレディ・トリューも含め、その背景は色々と凄い事になってましたが、娘ちゃんかわいくって好きです。

 

そしてその背景に関わってくる、旧キャラ勢。人類最高の天才であるオジマンディアスのその後。半分コメディリリーフみたいになっちゃってましたけど、その存在感は抜群。天才は何考えてるかわからん、っていうのを上手く生かしてありました。しかもふきかえだと池田秀一がやってて、前半はおじいちゃんの哀愁みたいなものまで感じられて良かった。なあそうだろうフィリップス君、クルックシャンクス嬢。

 

でもってもう一人、孤高の存在Dr.マンハッタン。こじらせすぎてオジマンディアスを訪ねてくる辺りが泣かせる。マンハッタンにとってはオジマンディアスだって原子の塊にしかすぎず、同等の存在でもなければ友人ですら無いと思ってるのでしょう、でもそれでも創造物、人間の頂点として少なくとも自分を多少なりとも理解できていて、話ができるのは彼しかいない。

 

そして彼が孤独の先でたどり着いたのが・・・愛だったと。愛がほしかった。

 

正直を言えば、マンハッタンとオジマンディアスがでしゃばりすぎて、ラスト2話くらいで面白い半面、ああ~結局は旧キャラに頼ってしまったのかとそこまでMAXに盛り上がっていた気持ちが萎えてしまった部分もあるのですが、人類と人知を超えた者の二人の存在の後継者の話というのがオチなわけですよね。それはコミックの頂点を極めた「ウォッチメン」という作品の後継作品というこの作品のメタ構造にも繋がるわけで、そこを描きたくなる気持ちはわからなくもない。

 


う~ん、前半の人種差別とマスクの下りで全編通してたら100点だったんだけども。フーデッドジャスティスまでで終わらせておけばなぁとちょっと思ってしまいました。最高に面白かったけど、最後はちょっと惜しい。

 

話は完結していますが、一応<シーズン1>となっていて、今回の中心デイモン・リンデロフは自分はやんないよ。やるなら毎回他のクリエイターが作るオムニバス形式が良いのでは?と言ってるようですので、次がどうなるかはわかりません。

 

原作キャラだとナイオオウルが触れられてませんが(技術が引き継がれたとしてあの飛行船は出てくる)キャラとしては弱くとも、現実の社会とのリンクありきがウォッチメンの本質。そこは脚本しだいなのかなぁとは思います。

 

そうそう、ロールシャッハは多分あの日誌が公開されたものの、おそらくはただの与太話として世間には信じてもらえなかったんだと思います。(それかオジマンディアスが結局もみ消したか)シーモアはあの後に頑張ったんでしょうかね?お前みたいなクズでも一生に一度くらいは価値のある仕事をやってみろ!って言われたその後とか、マスメディアの問題とかに絡めてちょっと見たいかもしれない。

 

と言う事でHBOドラマ版「ウォッチメン」でした。

アメコミ翻訳でお馴染みの御代しおり先生も登場のマクガイヤーゼミ、楽しみです。
そして映画は観たけど原作読んで無い人は原作読みましょう。ウォッチメン、本当に凄い作品ですので。


BD/DVD/デジタル【予告編】「ウォッチメン」6.3リリース / 4.22デジタル配信開始

 

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