僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

ブラックパンサー(MCUその18)

ブラックパンサー MCU ART COLLECTION (Blu-ray)

原題:BLACK PANTHER
監督・脚本:ライアン・クーグラー
原作:MARVEL COMICS
アメリカ映画 2018年
☆☆☆☆☆

 

順番的には「ソー:ラグナロク」の予定でしたが、急遽予定を変更してその次の「ブラックパンサー」を見る。勿論、急遽亡くなられた、チャドウィック・ボーズマンさんへ追悼を込めて。

 

ブラックパンサー/ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンが43歳の若さでお亡くなりになられました。原因はがんで2016年から闘病生活をされていたそうな。周りにも隠していて、監督のライアン・クーグラーですら知らなかったそうです。このブラックパンサーも治療を受けながら演じていたって事ですよね。

 

スーパーヒーロー映画で初めてアカデミー賞作品賞にもノミネートされた作品ですし、アメリカ国内ではアベンジャーズよりも興行成績良かったりしたんだったかな?「クリード」のライアン・クーグラーとそこで主演を務めたマイケル・B・ジョーダンが演じたキルモンガーの方に注目が行きがちな作品ですが、それでもやっぱり単純なヒーロー映画として見た場合、子供達にとってはブラックパンサーこそが自分達のヒーローなんだと思った子は多いんじゃないかなぁと思います。

 

今後制作される「2」では他の方が代役を務める事になるのかな?原作だとシュリがブラックパンサーになるストーリーラインもあるけど、いきなりそこに行くのも唐突な感じがするし、また新しい才能にバトンタッチして3部作とかはやりたいはず。ただそれでもチャドウィック・ボーズマンさんも歴史に名を残し、永遠に語り継がれるヒーローである事は間違いないでしょう。まさしくワカンダ・フォーエバー。ご冥福をお祈り致します。

 

という事でMCUフェイズ3の5本目となるこちらの作品。「シビルウォーキャプテンアメリカ」で初登場を果たしたブラックパンサーの単独作。

 

まずは作品として特別なのは、黒人映画である事。原作の歴史あるマーベルコミックスにおいても初の黒人スーパーヒーローなのがブラックパンサーというキャラクターです。1966年の「ファンタスティックフォー」誌に登場。スタン・リーとジャック・カービー作という由緒正しき存在。日本語版も「ブラックパンサー:暁の黒豹」という本に収録されてるので、せっかくなのでそちらも近い内に再読して取り上げる予定。

 

「アイアンマン」におけるウォーマシン/ローディ、「キャプテンアメリカ」におけるファルコン/サムとか、MCUでは先に黒人は出てましたけど、どちらも原作コミックではブラックパンサーより後ですし、どちらもメインヒーローの相棒ポジション。女性ヒーローなんかも単独タイトルではこの後の「キャプテンマーベル」が初ですし、先進的なイメージのMCUでありつつも、意外と保守的な部分があったりというのに今更ながら気付かされる。

 

ファルコンもウォーマシンもカッコいいし、決して添え物的なキャラクターでは無いですので、さほど気にしてませんでしたが、それはやっぱり身近に外国人も居ませんし(田舎なので、まれに外国人をみかけると、「お~外人さんがいる」とかついつい思っちゃうくらい私の意識は低いです。)人種うんぬん、黒人うんぬんの問題は映画だったり、ニュースの中だったりと、画面の中の情報でしかないのが私にとっての正直な所なのだろうと思います。

 

でも、アメリカではアベンジャーズよりヒットしたとか聞くと、ああやっぱりこういうのを待ってたんだなと。マーベルでなくDCの方ですが、前年に「ワンダーウーマン」がヒットして、なるほどちゃんと需要があるんだなと。

 

私は黒人でも無いですし、女性でもない上に、そもそもアメリカ人とかじゃないのでキャップカッコいいなと思っても、人種としてそこに感情移入してるわけでもない。じゃあもし日本人ヒーローが活躍すると、そこに特別な感情が生まれるのでしょうか?ちょっと微妙な所ではあるものの、まあでも注目して見てしまう事はあるかもしれません。

 

これも「例えば」になってしまいますけど、アメリカに住んでいる黒人の子供が、ヒーロー映画を見ていて、カッコいいとは思うけど主人公は白人ばっかりだな、と思う事はあるのかもしれないな、とは思いますし、「ワンダーウーマン」を見て、同性としてそこに憧れや嬉しさを感じるというのは確かにあるかもしれない。勿論、全員とは言いませんが、普通に考えればまあそうだろうなと。

 

そこを考えると「ブラックパンサー」って確かに当たり前でありつつ特別な作品だし、ヒットするのも頷ける。

 

で、その自分には現実感が無い事を自覚した上で見る分に面白いのは、映画冒頭とラストがアメリカのどこにでもある裏路地から始まって、物語としてはそこからアフリカンアメリカンのルーツを辿って行くように、ワカンダを舞台に物語が進行する、というのがもうバツグンに面白い。

 

実際に黒人の方は、自分のルーツとかそういうものってそんなに気にしてるものなの?表層的には、人種差別は昔ほど無くなったとは言われつつも、それでも体感的にそれは今でも残っている、というのは先日の警官による黒人暴行事件と、それに端を発する世界的な抗議デモである程度の理解は出来ましたし、偶然にもそこにリンクする形になったドラマ版「ウォッチメン」を見てもわかる。

 

なので映画で舞台がワカンダに入ってから、そのルーツである5部族の描写からきっちりやる、という所もまた面白い。韓国でのハイテクを駆使した今風のカーチェイスと、ワカンダ内での王を決める儀式的ないかにも古臭い感じの対決。これが一つの映画の中に両立している凄さ。

 

メインのストーリーとしても、王位や血脈という過去から現代へと受け継がれる要素があって保守的な過去から、現代的な革新への変化を物語の軸として描いてある。

 

しかもそれぞれの立場や葛藤を見事なまでにキャラクターに置き換えて配置してある隙の無さ。これ、ホントによく考えられてあって凄い。

 

例えばナキアとオコエって見た目似たようなキャラですけど、ナキアは世界へ出て同胞を助けてあげたいけど、オコエはあくまで国を守る事を重んじるし、ウカビもティチャラの親友でありつつユリシーズ・クロウの処分では対立するし、逆に対立していたエムバクは後にティチャラを助ける。革新か保守か単純な二項対立に見えて、メインキャラ全員の立場がちょっとずつ違ってたりする事で、見事なまでに全キャラ立たせてるんだなと見返して初めて気付いた。

 

ブラックパンサー」という一本の作品の中で実は「シビルウォー」やってたのかこれ。しかもシビルウォー映画のみだと割と対立軸の問題は曖昧なままにしちゃってたけど、こっちは凄く丁寧に描いてる。

 

割とキルモンガーの方が正しい、ブラックパンサーよりキルモンガーの方に感情移入出来るとか言われがちな作品ですが、流石に武器さえあれば勝てるから世界に戦争ふっかけて俺らが主導権握ろうぜ、というのはちょっとどうかなと私は思ってしまうのですが、そこはそれだけ抑圧されてきた鬱憤や怒りが蓄積されていたのだと。奴隷としてつれてこられ、搾取されてきた存在だったアフリカ系アメリカンはそれくらいのものを抱えているんだぞ、っていうのを大げさに表現したものなのだと好意的に解釈しておこう。

 

そこで冒頭の裏路地に居る黒人の子供は実はキルモンガーだった事も明かされますが、どこにでも居る普通の黒人の子供には、人種としてそういうルーツを抱えているんだよ、というのを描いておいて、それがいわゆる彼ら黒人の「過去」であると。

 

で、ラストカットで再びアメリカのあのアパートに戻ってきて、また同じように子供がバスケをしているシーンを映す。こっちの子は特に役名があるわけでもないし、原作の再現とかでも無い。これからを生きる子供達の「未来」を示唆するシーンであって、それはこの映画を見ている君たちだよ、というメッセージ。

 

色々な立場の存在や意見を知ったティ・チャラは「賢者は橋をかけ、愚か者は壁を築く」と説く

 

なんかこれ映画として完璧な構成なんじゃないかと思える。

 

コミックと同じように、色々な人が感情移入して楽しんでくれるようにと登場させたブラックパンサーというキャラクターの本質をちゃんと受け継いでいるし、それは単純にただポリコレやらダイバーシティやらに気を使って、とりあえず黒人枠も作っておこうというものではなく、真摯にそこに向き合う作りにしたのは本当に凄い。

 

その中で描かれるドラマ、葛藤や変化もこれ以上無いくらいに丁寧に描かれてあるし、MCUがここまでくるとスクリーンでやる連続ドラマ化してきているような部分もありながら、単体として成立する作品でもあるし、本当に丁寧で隙が無い。あえて言えばアクション映画的な観点で見た時にこれといった目新しさがあるわけでもなく、そこだけなら凡作レベルかも。

 

じゃあ黒人文化とかに造形が深くないと楽しめないのかと言えば、全くそんな事は無いんですよね。自然豊かな背景にハイテク文化と言うビジュアル的な面白さ。そして何よりやっぱりキルモンガー役、マイケル・B・ジョーダンの表情の一つ一つにグッと引き込まれる。

 

単純に映画一本の完成度みたいな所では、この先これを越えられるのか?と心配になっちゃうくらい、MCUの中では突出した完成度だと思う。勿論、完成度だけでは計れないのが映画の面白さではありますが。

 

私が思う以上に、恐らくはチャドウィック・ボーズマンを亡くした悲しみ、その貢献度は高いと思いますので、それは他の人におまかせして、とりあえずは一アメコミファン、アメコミ映画ファンとして、心よりのご冥福をお祈りします。

 


マーベル新ヒーロー!『ブラックパンサー』日本版本予告編


関連記事

curez.hatenablog.com

curez.hatenablog.com

 

curez.hatenablog.com