僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

アルプススタンドのはしの方

f:id:curez:20200905005914j:plain

監督:城定秀夫
原作:籔博晶、東播磨高等学校演劇部
日本映画 2020年
☆☆☆☆★

 

<ストーリー>
夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入していく。

 

予告編を上げといて何ですが、興味あるなら予告編も見ないで映画館に行った方がいいです。前情報なしの方が、え?これどんな映画なの?みたいな面白さがあるタイプの作品なので、その方がより楽しめるはず。

 

私も映画館のラインナップが夏休み映画中心になってて見るものが無かったのと、盆休み後にコロナが爆発的に増える事を予想してたので、ここしばらく映画館から遠ざかってたのもあって、予告編に遭遇する事無くこの映画を見る事が出来ました。

 

確か映画秘宝で特集ページあったから、面白い映画ではあるんだろうというのと、高校野球の話なんだけど、そういうのに興味が無さそうな演劇部員の話っていうのが興味をそそられて、これは見ておこうかな?という感じで見てきたのですが、これはやっぱり予告編見て無くて良かった。先に見てたら★ひとつ減ってたと思います。

 

元は演劇部の先生が書いた戯曲を高校生が演じていて、演劇コンクールで受賞。(この辺のメタな部分も作中にアリ)かなり話題になって、劇団でもそれをやる事になり、そこでも賞を受賞、そして映画化、という経緯のようです。面白かったのでパンフも買いましたが、お値段ちょっと高めと思ったら、脚本がまるっと入ってるんですね。これは珍しい。

 

予告見ちゃうと、ある程度方向性も見えてしまうのですが、そこを知らずにまっさらな状態で見た身としては、これ、どっちの方向に転ぶの?というのをドキドキしながら見ていたというわけです。

 

もっとわかりやすく具体的に言うと、これ「桐島部活やめるってよ」系なの?とか思いながら見てたわけです。結果として「桐島」方向では無かったのですが、シチュエーション重視の会話劇なので、一つ一つの会話から、その背後にあるものを読み取るのがメチャメチャ楽しい。映画は「見るもの」という人にはやや退屈に感じるかもしれませんが、映画を「観る」あるいは「読み取って解読するもの」として見ている人には、全く飽きさせない会話運びがとても楽しい映画なんじゃないかと思います。

 

高校野球、あるいは部活全般かな?それが好きな人とか、実際に青春を費やした人には大変申し訳ないですが、実際にプロを目指している人ならともかく、そんなの将来何の役に立つの?っていう言説もあったりするわけじゃないですか。

 

そういうのに対するアンサーみたいな作品です。勿論、そうじゃないんだ、どんなものであれそこに意味や意義はちゃんとあるんだよ!っていうとても好意的でありつつ、単純さだけでなく、そこに深みもあるポジティブな方向です。

 

私も思いっきり、あんなの下らないとかヒネた考え方を当時からしていて、学校の授業を休止して野球部の応援なんかがあった時には、最初だけ居る振りしてあとは抜け出していたタイプです。今思えば嫌な奴だなぁと思いますし、言いわけをさせていただくと、私は家庭の事情で生活が苦しかったので、高校に入ってすぐにもうバイト生活です。部活っていうのは裕福な人間がやるもので、自分のように高校生の身分の例えわずかな金額でもお金を稼がなければ生きていけない、みたいな格差社会だと、どうしてももう違う世界だったんですね。

 

自分でも気付いていなかった羨ましさが半分、ただ残りの半分は環境としてではなく、自分はもう人並みにもなれないダメな人間なんだから、という自分への逃げの言い訳もあったと思います。小学校の頃から虐められて学校にいけなくなったり、中学校の頃はその気持ちを埋めてくれる大槻ケンヂ筋肉少女帯)とか聴きまくってたりと、そこに至る前までの段階でもう世の中に挫折して、ヒネた目でしか物事を見れなくなってたので、そこはご理解頂けるとありがたい。

 

それを考えるとね、アルプススタンドのはしの方どころか、そこにも立てないいくじなしの場外席だったりはするのですが、とりあえずはという感じで、マウンドで汗を流す高校球児よりはスタンドの隅っこに居る人達の方がいくらかは感情移入しやすいですし、話もわかる。

 

え?今時の高校生は高いジュース(お茶)をさらっと人にあげたりできんの?とかいう貧乏くさい部分だったり、いやいやスクールカーストの上位の女の子より、教室の隅っこで本を読んでる眼鏡っ娘の方がド直球100%のヒロインでしょ?みたいなオタクくさい気持ちは芽生えつつ、俺らはあいつらとは違うよな、なんて言いつつも、彼らの真っすぐさにどこかあこがれや逆に畏怖の念を感じたりするのも何だかんだわかる。

 

で、今は流石にもう大人ですし(ていうかオッサン)逆にもうプリキュアくらいまっすぐなものは本当に素晴らしいな、くらいに思える用にはなってるので、この作品の終わり方も、そこはもう素直に良かったなと。

 

「桐島」にはなれなかったなぁと残念な気持ちもあるにはあるんですけど、こういうの悪くないよなとそこは素直に認めたくなる面白さがありました。

 

本気になって、あの先生滑稽だよな、なんて癪にさわるような歳ではないと。ああいう人も世の中には居るよね、とも思うし、作劇的にああいう役割も必要だしな、とか、良いのか悪いのかはわかりませんが、感情だけでもう物ごとを見る事は無い。お~いお茶、私も大好きですよ、ええ。

 

ここまで書いておいて何ですが、「アルプススタンドのはしの方」割と面白いらしいよ、くらいの情報でこの作品と出あえたら最高だと思います。前情報無しで、え?何この映画面白いじゃん!っていう出会いは本当に楽しいし、凄く嬉しいものなんですよ。映画好きな人なら経験した事ある人も居るとは思うし、検索でたまたまヒットしてこれ読んでる人が大半だと思うので、この記事がそういう出会いのきっかけという感じにはなりようがないのですが、せめて、ああお前の言ってる事わかるよ、思いがけない感じで出会う面白い映画って凄く嬉しくなっちゃうよね、みたいなのに共感していただければ私も嬉しいです。


映画『アルプススタンドのはしの方』予告編