僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

怪物はささやく

怪物はささやく [DVD]

原題:A Monster Calls
監督:J.A.バヨナ
原作・脚本:パトリック・ネス
スペイン-アメリカ合作映画 2016年
☆☆☆☆☆

 

<ストーリー>
13歳の少年コナーは、難しい病を抱えた母親と2人で裏窓から教会の墓地がみえる家に住み、毎夜悪夢にうなされていた。ある夜、コナーのもとに怪物がやって来て告げる。「今から、私はお前に3つの【真実の物語】を話す。4つ目の物語は、お前が話せ。」しかも怪物は、コナーが隠している“真実”を語れと迫るのだ。頑なに拒むコナー。しかしコナーの抵抗など意にも介さず、その日を境に夜ごと怪物は現れ物語の幕が上がる──。
幻想的なおとぎ話のように始まり、予想を打ち砕く危険な結末に向かう3つの物語は、コナーの内なる衝動を突き動かし、彼自身を追い詰めていき──。
ついにコナーが4つ目の物語を語る時が訪れる。果たして彼が口にした、まさかの“物語”とは──?

 

監督のJ・A・バヨナさん、最近は「ジュラシック・ワールド/炎の王国」なんかの監督をされてますが、私はデビュー作の「永遠のこどもたち」という作品が大好きです。

 

スペイン系という事で、当時は「パンズ・ラビリンス」の制作陣が送る、みたいな宣伝をされてたのですが(この作品もそうですけど)ギレルモ・デル・トロのプロデュースというくらいで、何と無く面白そうだなと思って見た作品でしたが、年間ベスト級に良かった作品。

 

当時の私は映画館で年100本くらい見てた時期でしたし、誰か有名な俳優が出てるかとかも知らないし、予告くらいしか前情報無い状態で、なんとなく気になったから見てみる、ぐらいの中でふいに出会う凄い作品が映画との出合い方としては最高だな、と今でも思ってたりしますし、そう思うようになった数々の作品の中の一本でした。

 

期待値が高すぎたり、変な先入観を持って見てしまうより、なんとなく気になったから、ぐらいで出会う面白い映画って、自分にとって特別な一本という、ある意味では錯覚かもしれませんが、、そうなりやすいかなと思ってます。

 

雑誌で評論家が褒めてたとか、友達に薦められたとか、そういうのも勿論アリなんですが、自発的にたまたま見つけた面白い一本って、凄い嬉しくなりません?
矛盾してしまいますが、あなたにとってのそんな一本とかあったら是非教えて下さい。この映画とはこんな出会い方をしたんだ、みたいなのも、本人にしかわからないけどそれはそれで映画の評価軸として私はアリだと思ってたりします。


逆に言えば、デートで見たけどその後フラれたとかだったら、いくらその作品が良くても、もう苦い思い出とかにしかならなかったりしますよね。私もそういうのあるし。

 

それはさておき、そんな感じであの「永遠のこどもたち」の監督の作品かと思って、興味は湧いたのですが、予告編を見た感じだと、ちょっと「怪物」が子供の成長過程における、暴れたい願望というか、いわゆる癇癪のメタファーみたいなものかなぁと思えて、ちょっと安易さを感じてしまったというか、私は理屈の存在しない癇癪とかすごく苦手で、この作品を気にはなってたものの、その内で良いかとか思っちゃってました。

 

たまたまの「その内」で今回見てみたんですが、ただ子供の癇癪を怪物として擬人化した、なんていう単純な作品にはなってなかった。人が抱える矛盾に対して、良き心を持とうとするやさしい良い子が成長過程でどう向き合っていくか、という話でした。

 

これ私がメチャメチャツボなやつじゃん。これまでも何度か書いてきましたが、少年が通過儀礼(何かしらの痛みを伴う)を経て、ほんの少し大人になるっていう話、とにかく私の心の琴線を刺激する、物凄く好きなタイプの話なのです。
テラビシアにかける橋」とかもそうでしたが、児童文学でこの辺りのテーマを扱ってる奴はとても好き。

 

今回も、原作のあるお話で、その原作者自らが映画の脚本も手がけているという事で、その本質的な所をちゃんと捉えてある映画。

 

でもって原作でも水彩画っぽい挿絵だったらしいのですが、映画だとその水彩画のままアニメーションになっていて、そこのビジュアルもメチャメチャ凄い。

 

今回は怪物が語るお話のパートだけそのアニメになってましたが、この水彩画アニメスタイルで一つのジャンルになるくらいのルックじゃないですか?
かぐや姫の物語」まだ見て無いんですけど、もしかしてあれもこんな感じ?その内見ておこう。

 

で、そんな少年の成長物語と、矛盾に向き合う心、そして水彩アニメと来て、最後「怪物」の正体というか、受け継がれるお母さんの心とかは、「永遠のこどもたち」にも通じる部分があって、ああこの監督らしい部分だなと思えて、そこもまた最高でした。

 

勝手な期待、勝手な想像、屁理屈こねて自分が勝手に壁を作っていたものをやすやすと越えてくる映画で、感服いたしました。

 

見てる人が勝手な解釈を重ねて作品をどうこう語るって、それはそれで面白いのですけど、そんな他者から何を言われようと揺るがない一つの作品としての強さがこの作品には感じられて、そこはもう素直にまいりましたと言いたくなる。

とても良い映画だし、とても好きな作品です。


『怪物はささやく』本予告