原題:Nomadland
監督:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー『ノマド:漂流する高齢労働者たち』
アメリカ映画 2020年
☆☆☆☆
企業の破たんと共に、長年住み慣れたネバタ州の住居も失ったファーンは、キャンピングカーに亡き夫との思い出を詰め込んで、〈現代のノマド=遊牧民〉として、季節労働の現場を渡り歩く。その日、その日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流と共に、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく──。
忙しさもいくらか落ち着いてきそうで、そろそろブログ書いたり映画見たり出来そうな感じです。という事で見てきた「ノマドランド」感想。
アカデミー賞の有力候補というのもありますし、何より監督の次回作がマーベルで「エターナルズ」というのもあって、これは見ておかないと、という一本でした。
「スリービルボード」のフランシス・マクドーマンドが主演を務めつつ、企画制作も行っているようで、アメリカの車上生活者を取材しつつ、そこで知り合った人達を直接映画として組み込むという半ドキュメンタリーのような作り。
出てくる人がほとんどじいさんばあさんばかりという、高齢者を描いてる映画なんですが、ちょっと自分の母親を重ねてしまいました。私の母親は、いわゆるワーカーホリックみたいな人で、定年を過ぎてもまだ普通に仕事はしてますが、庭いじりくらいしかこれといった趣味も無く、友達も居ないタイプの人なんですよね。私自身がオタク趣味にひたすら興じるタイプの人ですので、もっと何か仕事以外にやりたい事見つけた方が楽しいんじゃないのかなぁ?とか思っちゃったりするわけなんですが、母親は本を読んだり映画を見たりする人じゃ無いので、視野が凄く狭くて、TVニュース程度のものが世の中の全てだと思ってる人です。(TVでこう言ってたんだから、みたいなのを安易に信じちゃう、いかにも昔の人)
まあそれはともかく、アメリカだけでなく、日本でも年金だけじゃ正直まともな生活も送れないというのは共通している部分。昔はセカンドライフというか、とりあえず定年まで働いて、引退した老後は好き勝手に生きる、みたいな風に思われていた時代もありました。
が!もはや先進国でも無くなって、高齢化社会で現実ではそうは上手くいかなかったというのが現状。
若い時には思わなかったけど、私ももう中年のおっさんですし、今の所家庭を持つとかもしていないので、この先どうなっちゃうんだろうな、というのは時に考えたりもする歳になりました。
じゃないけどさ、実際に人生は続くのだ。
これも昔は分からなかったけど、日本の若さ重視みたいな傾向もこの歳になると、それはいかがなものか、と思うようになって、私は歳相応の生き方があって、そうあるべきと思ってます。勿論、若く見られたい、気持ちだけでも若くありたい、みたいなのも話としてはわからなくはないし、年甲斐もなく、みたいな言い方も決して好きでは無いんだけど、変に若い振りをするよりも、歳を重ねてきたなりの積み重ねってあるんだし、それは逆に若い子はまだ持ってない部分なんだから、そこを重視すればいいのになぁ、若さでは負けるけど、老獪さで若造なんか蹴散らせるテクニックや頭があるでしょ、と常々思ってたりする。年寄りが無理して若い振りするより、歳相応のものをちゃんと持ってる方がずっとカッコいいのになぁと思います。
そういう意味じゃね、やっぱりこういう映画は素晴らしいなと心から思う。日本のコンテンツがいつまでも青春とかにしがみついてたり(それはそれを望む客が居るのが原因なんだけど)するのに対して、これがきちんと評価される世の中って、ずっと健全だと思うし、若い人向けのものもあれば、ちゃんとこういう歳を重ねた人をストレートに描く作品もね、両方がきちんと成立しているというのは凄く良いな、と思ったしだい。
作品としては、もう少しアメリカの貧困層の現実みたいなのを社会問題として警告するみたいな作品なのかと思ってましたが、予想してた感じとは少し違いました。(この作品の為に取材して書かれた原作本の方ではその面が強く出てるらしいですが)
リーマンショック以降の経済危機や格差社会の部分はあるにせよ(Amazonの出荷工場で働くって、利用してる身からすると結構う~んとなっちゃいますよね)アメリカのかつての遊牧民=ノマドと今の車上生活者を重ねると言うなるほど確かにそうだよなって部分が非常に興味深かった。
ノマドと言えばですよ、アメコミファンとしては、かつてキャプテンアメリカが、今現在の国の理念を信じられなくなり、アメリカの名前を捨ててノーマッドと名前を変えていた時期がある。というのが割と知られていて、私もそこで流浪の民みたいなのを知ったっていうのがあったりします。
で、もう一人のキャプテンアメリカこと「イージライダー」をはじめとするアメリカンニューシネマとかヒッピームーブメントっていうのが70年代とかにあったわけですよね。あれも縛られた価値観からの解放と言うか、あの時代なりの自由の求め方でした。今回の映画での車上生活者も、あの時代を生きてきた人なわけで、かつては自分から自由を求めて家を飛び出した世代が、今度は家を失ってノマド=自由の民のような存在になる、というのが面白い所。
教祖様みたいな人が、経済というしがらみから抜け出した我々はもっと自由に生きていいんだ的な事を言ってましたが、そこが半分強がって言ってる部分もあるのかなとも思いつつ、それでも実際残りの半分は本当に自由を謳歌しているようにも思えて、なんだかちょっと憧れてしまいました。
コロナ禍でここ1年以上行けてないけど、私も自分の車とその身一つで好き勝手旅をするのが趣味です。まあ実際やってるのはただのオタクショップ巡りなんですけども。東北6県+新潟、そして北関東とか、まあ北日本全域かな、その辺りを行動範囲にしてますが(3県以上離れると体力的にもスケジュール的にもちょっと大変になりますので)他県にまで行くのって気持ち的にはしがらみからの解放的な部分があったりするからです。
いやそんでも仕事の電話入ったりしてゲンナリもするのですが。知らない土地で、自分の事を誰も知らない世界というのが本当に気持ちいい。そうやって日々のストレスとかを定期的にリフレッシュしてくるのが趣味です。
勿論、お金の節約の為、宿泊は車中泊です。道の駅とかさ、同じような車中泊の車で結構いっぱいだったりするんですよ。ああ~早くコロナ収束してくれるといいな。そんな経験をしているというのもあってか、この映画のノマド的な物というのもどこか身近に感じられた部分もあったし、結構あこがれる部分も多かった。私の旅はオタクグッズを大量に収集してくるので物欲まみれではありますが。
見た事の無い地域や景色、道路を走っているだけでもね、ドキドキワクワクして凄く楽しい。勿論、車が壊れたらどうしようとか、トラブルがあったらどうしようって不安もあるにはあるんです。でもそれ以上のものが旅にはあるのでやっぱりまた行きたくなってくる。
映画の方はアメリカの歴史や文化、社会構造や精神性とか色々な物を含む作品でしたので、私の物欲まみれなオタク旅と同一したら矮小化もいいとこだって気はしますけど、なかなかに響く作品ではありました。
いわゆる娯楽作ではないので、退屈に感じる人も多そうですが、私にとっては結構響く旅映画でもありました。
苦しむ事は多いが、哀しむ事は無いのだ。そして人生は続いていく。