原題:MIDSOMMAR
監督・脚本:アリ・アスター
アメリカ映画 2019年
☆☆☆☆★
<ストーリー>
家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。
劇場公開時にも見ようと思ったものの、2時間半とちょっと長めなのと、アリ・アスター監督の前作「ヘレディタリー」の時にあまりにも絶賛されまくって、ハードル高めで見たのもあってか、面白かったけど、そこまででもなくない?というのがあって、ちょっとミッドサマーも躊躇して結局映画館では見ずに終わってしまいました。
「ヘレディタリー」の時に思ったんですけど、ストーリーはそれほどではない。でも演出とか画面構成とか、そういう部分でB級映画みたいなものをA級にまで引き上げてる感じかなぁ、というのがあって、今回「ミッドサマー」を見て、まさにそれでした。そこを踏まえた上で見ると、超スゴイ映画で面白かった。
公式のジャンル的にはフェスティバルスリラーという事で、近年、割と多くなってきた印象もある、ホラー映画という枠組みではあるんだけど、単純に怖がらせる事だけを目的とはしてないホラーであってそうでもない作品(「イットフォローズ」とかね)とかそういう感じ。
鬱っぽい雰囲気とかもあるかもしれませんが、個人的には一昔前のラース・フォン・トリアー作品とかとも似てるかな?という印象。「奇跡の海」とか「ダンサーインザダーク」とかで黄金の心とか言いながらひたすら胸糞悪い展開を積み重ねて、結果その後本人が鬱になっちゃうという。
ただ、アリ・アスターがトリアーと違うのは、実際に監督が弟を亡くしてしまった経験を「ヘレディタリー」に投影して、今回の場合は、その沈んでる時に当時の恋人が親身になってくれずその後別れた、みたいな体験を作品として描いたという事ですので、鬱から回復していく手段としての映画という面で逆方向と言えなくも無い。
今回の映画、何が素晴らしいかって、この断絶の時代に世の中も映画界も血の繋がっている家族とかではなく、血なんか繋がっていなくても同じ価値観を共有できる共同体とかコミュニティやユニオンみたいなものこそが、この厳しい時代を我々が生きていかなければならない中での希望なんじゃないか?って方向性に動いてる中で、共同体とかなんだかカルト宗教じみてて気持ち悪くない?という作品を堂々と作ってきた所だと思います。
く、空気読んでねぇこいつ。でもこういう人が居てこそだと思うし、相極性障害とかの人にはこれ言っちゃうと厳しいかもしれませんが、どんなものにだって裏と表、白と黒、相反正するものって必ずあるものなんですよね。絶対的な一つの正しい答えなんて絶対にない。ディベートじゃないですけど、一つの価値観があったとしたら、その両面を見ないと本質的な所は見えてこないし、その矛盾を抱えないと世の中生きてはいけない。
本でも良いし、映画でも良いんですけど、何か自分の価値観を揺さぶるくらいの素晴らしいものに出会ったとしましょう。だったらその価値観を鵜呑みにしないで、ひとまず逆の意見を聞いてから判断しようか、と逆の主張に耳を傾けてみる。こういう基本的な事が出来て無いと、オンラインサロンだの自己啓発セミナーみたいなものに安易にカモにされてしまうわけで、そこら辺をわかってないと厳しい。
そういう意味で今回の「ミッドサマー」メチャメチャ面白かった。共同体ってこの先の時代では絶対に重要になってくる価値観ですし、そこを知る上で、こういう危険性もあるよねって一つひっかかりを作ってくれるのはとても貴重ですし、逆にこういうカルト集団みたいなものをいつまでも古い価値観のままアップデートせずにいてもそれはそれで進歩が無さ過ぎる感じ。
良くも悪くもですけど、「ミッドサマー」という作品内においては、主人公がカルト集団に同化して心の平穏を取り戻すっていう話ですよね。こういう描き方がとても面白い。
この映画作ってる奴、絶対頭おかしいだろ!とつい言ってしまいたくなる陰鬱で胸糞悪くなるタイプの作品ですが、こういう映画はこういう映画でやっぱり面白いし凄く価値があるように思います。
こんな「黒」い作品を、白夜の明るい「白」の世界でやってしまうというまさしく矛盾したセンスがとても面白い。
私は黒か白か・・・う~ん、キュアブラックとキュアホワイトのどっちが好きかなんて選べないよ!でもミッドサマーよりはキュアサマーが好き(そういう事じゃない)