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サノス・ウィンズ

サノス・ウィンズ (ShoPro Books)

THANOS WINS
著:ドニー・ケイツ(作)
 ジェフ・ショウ(画)
訳:吉川悠
刊:MARVEL 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2021年
収録:THANOS v2 #13-18(2018)
 THANOS ANNUAL v2 #1(2018)
☆☆☆☆

 

力への執着に取り憑かれ、宇宙の諸力手に入れんとする者。
彼こそは狂える巨神(タイタン)。
その名はサノス

 

ヒーロー達との戦いに勝利し、思うがままに殺戮の限りを尽くした宇宙最強のヴィラン、サノス。自分以外のほとんど全ての生命を消し去り、もはや歯向かう者もいなくなった世界で、孤独に生きる狂気の帝王が最後に望むこととは……?

それは終わりの始まり。

 


と言う事で「シルバーサーファー:ブラック」「サノス・ウィンズ」「アブソリュート・カーネイジ」と連続刊行されたドニー・ケイツ作品。今回はサノスの未来が描かれる。

 

サノスと言えばやっぱりジム・スターリンの「インフィニティ・ガントレット」があって、そこをベースに展開されたカプコン版ゲームの印象があって、MCUでもそこを目指して、ちょこちょことサノスが徐々に顔を出すようになっていく形で、ドキドキしながら見てたものですが、おそらくはMCUからこの世界に入った人にとっては、ちょっと違う印象を持つのかと思います。

 

やっぱり「インフィニティ・ウォー」でのサノスの勝利で終わると言うとてつもなくインパクトのある終わり方をして、敵側のサノスも、宇宙の未来を憂い、人口問題の解決として苦渋の決断をしたという一つの理があって、その点でただの邪悪な敵ではないと人気が出て、その上での「エンドゲーム」はヒーロー側が問題解決を提示出来ていないのは問題じゃないか?サノスをただの悪役に貶めてヒーローが力で解決しちゃうのはいかがなものかと、というような議論も割と見られました。

 

個人的にはサノスの行動は個人の勝手な行動でしか無くて、一人の独善的な考えでは無く、我々は多様な人々が団結して問題を解決していく、というのがサノスに対するヒーロー側の理で、だからこそ溜めに溜めてきた「アッセンブル」が最高の山場たりえたのだと私は思ってます。みんなで協力すれば解決できない問題なんてないんだよ、的な。こうやって言葉にしちゃうとやや陳腐な気もしなくはないですけども。分断の時代にアッセンブルしたこそ事が時代性を反映していて、それこそがただのヒーロー娯楽映画以上の価値を与えたものだというのが私の解釈。

 

でも一時期はトランプ政権も支持はされていたわけで、強い指導者をつい求めてしまうのもまた人間ですので、そういった背景も含めてサノスの言う事も間違って無いんじゃね?自分はサノスを支持するよって人もそれなりに居たのかなぁ?という気がしてます。

 

とういうのはMCUサノスの話。


原作だと、私もサノスの話を網羅して読んでたわけではないので、そんなに詳しくは無かったのですが、結構アレンジして映画にとりこんだなという印象でした。原作サノスはこんな宇宙や世界の未来を憂いたりしてないぞ?っていう。

 

「インフィニティガントレット」でもデス様の気を惹きたいが為に遊び半分で人口の半分を消しちゃってただけですし、基本的には「死」を常に背負うその化身そのものでは無いですが(そっちがデスなわけですし)、死にあこがれというか取り付かれて、死を求める求道者的な存在、という印象ですかね。

 

でもって今回の「サノス・ウィンズ」の話。


いやね、アメコミに限らずよくあるじゃないですか。自分と反する者を全員消し去ってしまっていったらきっと世界には最後に自分一人しか残らないよ、それって寂しくない?みたいな話。

 

今回は実際にそれやっちゃった話。サノスの他は例外の数名以外は全宇宙の知的生命体全てを滅びつくしてしまった世界。

 

で、一人残ったサノスが王座にもう何万年もただ一人座り続けている。ここでメチャメチャ面白いのが、サノスがよくあるパターンの、ここまで来てしまっての後悔とか1ミリも無し。いやあ、生命を絶滅させるの楽しかったなぁって何万年経ってもニコニコしてる。これこそが頂点、これこそが王の役目だからね、って強がりじゃなくナチュラルに自分に満足してる感じが凄い。

 

話としてはありがちでも、実際にここまでの最後を描いた作品なんて私は読んだ事、見た事無いですし、それをこうして初めて読めたという感覚があって、メチャメチャ面白かった。

 

生き残りの一人であるゴーストライダーを従えているのですが、喋り方がやたらと軽快で、あれ?デッドプールゴーストライダーになった世界なのか?デップーも何かとサノス絡みの話や設定多かったし、デス様に気に居られたデップーを下僕として従えるってのもサノスの勝利らしくて面白いかな、なんて思いながら読んでました。

 

そしたらこいつデッドプールじゃない。ええっ?お前かよ!とビックリさせられるあの人が正体でした。人格変わりすぎ。

 

その正体は伏せておきますが、サノスがライダーを飼ってるのは何と贖罪の目(ペナンス・ステア)のおかげ。ゴーストライダーの目を見ると、例えどんな悪人であっても、自分の犯した罪を自分で浴び、その重さに耐えられなくなる、っていう設定があるのでゴーストライダー最強説も割とあるキャラですが、サノスはあえて何度も自分の罪をリフレインして何度でも虐殺を振り返りたいという理由なのが凄い。

そりゃライダーも性格かわるわ。

 


未来の年老いたサノスが若い時代のサノスを呼び出したのも、単純にサノスはサノスにしか殺せない、みたいなパラドクスネタかと思えば、そこにひとひねりあったり、最後の光であるシルバーサーファーも居れば、やはりデスも絡んでくる等、ただの大袈裟なネタ話に留まらない話にしてある所はドニー・ケイツ面白いなと思わせてくれる所です。

次の「アブソリュート・カーネイジ」も読むの楽しみになってきました。

 

なんとなく「オールドマン・ローガン」みたいに(年老いたサノスも出てますしね)既存のキャラを自己流にアレンジ配置して作品を作ってみましたってだけなのかなとも読んでる途中までは思ってたのですが、若い方のサノスが自分が行く道の作にはこんな未来が待っているのか、っていう想像が生み出したイマジネーションの世界なのかなとも思えてきますし、単純にユニバースの一つの未来と言うよりサノスの自分自身でさえ知らない内なる葛藤の妄想話にも思えたりして、とてもグッと来る面白い話でした。満足度は高い。

 

ついでにおまけ収録的な感じでアニュアル(増刊誌)も1話併録されてるのですが、なんとこっちはほぼギャグ回。アンソロジー形式で、サノスの悪事が描かれますが、宇宙規模の災厄だけじゃなく、嫌がらせも悪事だもんね~と、とある一般人の誕生日の度に何十年も毎年嫌がらせをしにくるサノスという変な話も載ってておまけとしては十分に楽しめました。

 

さらに言うと、今回は訳が吉川悠さんなので、解説書がとにかく充実。最近の吉川さん訳の小プロ解説書はどれもそのキャラの歴史みたいなものが詳しく網羅されてて、メチャメチャ勉強になりますね。最初はヴィレッジ撤退しちゃうと解説が弱くなるな~って思ってましたが、この人が居れば大丈夫そうです。アメコミは邦訳されるのなんて星の数ほどある全体の中でほんの一部ですし、その全体像を把握するのに解説書の役割は凄く大きい。

 

ジム・スターリンが生み出し、その後も本人が描き続けたサノスと、ユニバース全体として多数のライターがそれぞれに描き続けてきたサノスの両方をきっちり解説してくれてるので、本当にありがたいです。

 

アニュアルの方の続きになる「コズミック・ゴーストライダー」も邦訳決定のようで、ますます読むものが増えて行きそう。

 

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