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機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト

機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト(12) (角川コミックス・エース)

MOBILE SUIT CROSS BONE GUNDAM GHOST
漫画:長谷川裕一
刊:角川書店 角川コミックス・エース 全12巻 2012-16年
☆☆☆☆★

 

という事で「鋼鉄の7人」に続いて続編の「ゴースト」を再読。直系の続きの話ではありますが、一応は「無印」から「鋼鉄の7人」までがトビアが主人公のシリーズで、今作はさらに次世代のフォント君が主人公なので、クロスボーンガンダムから派生した新シリーズという印象も強い。

 

時代的にも宇宙世紀正史における「Vガンダム」と同時代で、Vガンの裏で繰り広げられていたストーリーになりますし、カーティスが駆る新たなクロスボーンガンダムのX-0も出しつつ、(本来はベラ・ロナ機として用意された為ビギナ・ギナと同じくシルバー塗装ってのが素敵)主役機としては系譜の違う新たな機体ファントムという事で、まさしく無印でメンター役だったキンケドゥ(シーブック)からトビアが魂を引き継いだように、今度はトビア(カーティス)がメンター役として、新たな世代へ引き継ぎをする、という役割。

 

ただこれ、全12巻と読みごたえは凄くあるのですが、個人的な感覚としては、短い物語にギュッと凝縮した展開を詰め込むその構成力の上手さも長谷川裕一の魅力かなぁと私は思ってるので、そういう意味じゃちょっと長いし複雑かも。

 

「Vガン」の時代は宇宙戦国時代という事で、大きな戦争が無いものの、小国同士の小競り合いがあって、その中でザンスカール帝国が台頭してきた、という背景で、連邦もなかなか本気になって動かないので、リガ・ミリティアというゲリラ組織でそれに対抗する、というのが世界観のバックボーンにある。

 

さらにその裏で戦っていた、という話なので、そこにクロスボーンシリーズの流れを組み込んでるので、勢力が非常に多く、入り乱れる感じがちょっと大変。

 

まずは木星系の残存勢力として、カーティス率いる林檎の花(マンサーナ・グローブ)を母艦とする新生クロスボーン軍と、同じく木星側のタカ派としてサーカス(サウザンド・カスタム)軍とのエンジェル・コール争奪戦。そこにザンスカール帝国の本隊と、さらにザンスカール内で下剋上を目論むキゾ中将の軍勢。リガ・ミリティア本隊からは別動隊として、リア・シュラク隊も戦いに巻き込まれる。という複雑な構造。その戦いに巻き込まれていく民間人のフォント君。いや頑張ってそれをわかりやすくしようとは描いてるんだけど。

 

カニック設定集で長谷川先生が語ってましたが、戦国時代ならばという事で、下剋上の話と忍法帳をやろうとしたって事のようです。下剋上がキゾの話で、サーカスが忍者なのね。忍者なら抜け忍の話が欠かせないだろうって事で、ジャックがそのポジションになってると。

 

と考えると、ここまでのシリーズの主人公としてのカーティスが居て、今回の全体的な話の主人公として次世代を担うフォントが居て、忍法帳の部分だとジャックが主人公的な存在でもあるので、実質3人の主人公って事になるし、ラスボスに挑むのもやはりこの3人でした。(カーティスは第2ラウンドでは欠席ではありますが)その辺はやはり上手く構成されてる感じ。

 

ただ今回はそこに長谷川のSFエッセンスとして、細菌SF物を大枠でやるというなかなか凄い事をやっていて、ウイルスならガンダムはメカ物だし、コンピュータウイルスの話ものっけちゃえというてんこ盛り仕様。これはおなかいっぱいになる。

 

これ、一つ一つの要素を分解して見て行った方が良いかも。

 

まず序盤は忍法帳の部分が面白い所。国力が低下して、軍隊の数を揃えられない時代ならと、量産機を多数配備するより、一騎当千の機体を配備するというコンセプトがサーカス。

 

全部で7機のサウザンド・カスタムが制作されたって、「キン肉マン」の7人の悪魔超人編みたいな導入。しかも最初はマントで機体が見えなかったりと凄くそれっぽい。7機って「鋼鉄の7人」とかにも重ねてるのかな?

 

忍法帳物って私は全然触れてこなかった文化なんですけど(山田風太郎とかですよね?)7つのモチーフって何か意味があるんでしょうか?里見八犬伝とかは8だし。

 

キン肉マン」もそうですし、「聖闘士星矢」とか「リングにかけろ」「風魔の小次郎」の車田正美とかもそうだし、今アニメやってる「ダイの大冒険」もそうでしたが、まずは敵の集団をどーんとまとめて登場させて、一人一人こいつはこんな能力を持ってるんだ、みたいな個性をつけて、それを順番に倒していくって少年漫画(ジャンプ漫画?)の王道展開ですよね。そこは多分、忍法帳的な古い娯楽小説からの系譜としてそういう形があるという事だと思われます。

 

さらに地上に降りた後は、サーカス未採用機の3機も追加というのもまたお約束な感じ。最初より増えたじゃねーか!っていう。

 

この辺りは、まず敵はどんな能力を持っているんだ?とワクワクさせて、それを主人公陣営らが、どんな作戦や盲点をついてその強敵を打ち破るか?というのが面白味になっていて、そこは過去のシリーズでもバトル描写の面白さとしてずっと描いてきた部分。非常にクロスボーンガンダムらしい面白さと言える所でしょう。

 

で、この能力バトルにビクトリーガンダムもちゃっかり加える辺りが長谷川先生の抜け目の無さです。「Vガン」本編でもウッソが壊れたパーツをマーベットさんとかからもらってすぐ復帰してたりしたし、ビクトリータイプのコンセプトが破損したパーツを換装してすぐに戦場に復帰させられる事で、パイロット不足を補う、みたいなのが元々あるので、その設定をクロスボーン的な「機体能力」としてちゃんと描いてあるのが面白い部分でした。


Vガン本編でもある描写だけど、Vガンはどっちかつーとウッソの奇策みたいな所の方が目立ってたので、そこを改めてこうやって使うと言うのは面白かった。

 

ただ、ここから仲間になるリア・シュラク隊についてですが、そりゃあ富野に「長谷川君とは女の子の趣味が違うんだよねぇ」と言われるのもちょっと頷ける感じが。

 

Vガン本編のシュラク隊って、綺麗なお姉さん達ってイメージだったわけですよ。こっちのリア・シュラク隊はトレスさんとか幾分そのイメージに近づけようとしてる気はしなくもないけれど、なんか全員ロリっこっぽくて、ジュンコさんとかにあんたらまだ子供っぽいから後方部隊な!とか言われてたんじゃないかと妄想してしまいます。

 

今回のヒロインのベルもそうですし、「鋼鉄の7人」で一応ヒロインポジションなのになんかあまり思い入れが無さそうな感じがしたエウロペさんとか、そこ長谷川の趣味の問題だったんじゃねーか、という気がしてきた。

 

ローズマリーさんとか極端に振りきってるキャラはまだしもね。トレスさんとかちょっとセクシー系なお姉さんという感じで、シュラク隊っぽく描こうとしてる気配はあるものの、ドゥーさんもイーさんもロリっこですし、結局はやっぱり長谷川テイストだ。

 

シュラク隊ついでにVガン要素についてもちょっと触れておくと、私はVガン直球世代なので、ガンダムシリーズで一番思い入れがあるのがVガン。長谷川的にね、エンジェルハィロウ単体では未完成の兵器だと当時から思っていたようで、その先にエンジェルコールがあったんだと今回の話で付け足したようなのですが、そこはちょっとひっかかりました。

 

一応終盤の本編内でね、その後出力が上がったからエンジェルハイロウ単体でも決戦兵器として成り立つようになった、というフォローは入れてはあるものの、個人的にはね、細菌兵器とかではないという所に富野ガンダムの面白さや独自性があった、と私は思ってるのです。

 

逆シャア」で地球寒冷化作戦をシャアはやろうとしてたわけじゃないですか。ただそれだと明らかに環境破壊もついてきて、一応は地球をリセットする、みたいな所でもあったんだけど、何百年先を見据えてるんだよ、的な感じもある。

続く「F91」で、あれはマイッツァー・ロナじゃなく鉄仮面の独自解釈の上での作戦になるのかな?人間だけを殺す機械のバグを地球に送りこんで、人類の10分の9を抹殺せよと命令されたらこうもなろう、誰の良心も傷める事の無い良い作戦なんだ、って事をやろうとしたわけですが、これだと地球の環境も傷めないんですね。

その後の「Vガン」で、焼く物は焼き腐るものは腐らせる、そして巨大ローラーで、地ならしまでやって地球を綺麗にしてしまおうという作戦に至ると。


この辺の流れは系譜として面白いなと思ったし、同時にこの頭おかしい感じが凄くVガンだな~と思えて、滑稽ですけど、この素っ頓狂な感じが富野だし、なんだよこれっていう感じも含めて同時に非常に面白い部分でもあったと思う。

 

長谷川的には、エンジェルハイロウのサイキッカー側も人間ではあるんだし、そんな長期間継続できるものでは無いんじゃないの?地球の人間を眠らせておいてその間に地球を制圧できる何かが無いと決め手に欠ける、というのを今回の作品で描いたと思うんですが、エンジェルハイロウは決してただのラリホーの呪文を地球全体にかける兵器じゃなくて、ドラクエで言えば丁度今やってる「ダイの大冒険」でバランがドラゴンの紋章の共鳴をおこしてダイの記憶を消し去って幼児退行させたあれだと思うんですよね。要は精神破壊兵器。

 

そのエンジェルハイロウを未完成だったんじゃないかって言うのは、Vガン好きな私としては結構ひっかかりました。ん~何かちょっと解釈が違うような?っていう。

 

ついでに細かい事を言えば、ただのモブMSとしてゲンガオゾを出すのはやめてほしかった。あれってファラさんのワンオフ機じゃないのか?バックパック外れてファンネル的に使えるこの時代には珍しいサイコミュ機だし。ザンネックの方はまだ機体の方向性的に数機くらい少数生産されててもおかしくない気がするし、ドッゴーラとかはアニメ本編でも2機確認されてるのであっても別に良いのですが。

そんな感じでVガン好きとしては、リンクする面白さもありつつ、気になる部分もチラホラという感じでした。

 

そして「ゴースト」を形成する二つ目のポイントの下剋上要素。ここはキゾ中将ですね。


パートナーのトモエさんが、平家物語の「巴御前」がベースにあって、キゾの方もそこに出てくる木曾から名前を使ってる様子。ただごめんなさい、私は歴史とかそういうのには疎くて、元ネタとしてどれほどゴーストの物語やテーマに生かされてるのかはよくわかりません。

ネットでも、名前の元ネタとしては出てくるけど、その辺を掘り下げてるようなのはあまり見かけないので、詳しい人が居たら是非解説をお願いしたい所。

 

キゾが駆る所謂ラスボスMSであるミダスは「王様の耳はロバの耳」で有名なミダス神から来ていて、ミダス神はその話だけでなく「ミダス神と黄金の手」という話もある。振れたものを全て黄金に変えてしまう、という話なので、キゾの部隊は全て金色のゴールデンエッグスという事になっている。

 

で、ロバの耳で思うんですけど、カーティスは視力を失って音響センサーでX-0を動かしてますよね。そして一時的なものではあるけれども、娘のベルによって視力を取り戻す。

 

面白いのは、キゾは実は木星総統クラックス・ドゥガチの息子だったというのが明かされますが、凄い事にキゾはその血筋を利用しないで、自分の力で自分の国を興すっていう方向に行くんですね。

 

クロスボーンガンダム」のシリーズなんだから、ここはまた木星帝国の陰謀が背景にあったのだ!でも良かった気がするんです。クロボンは木星帝国との死闘を描いたシリーズなんだって統一感も出ますし。

 

でもそれをあえたやらないという選択。物語の前半では木星タカ派のサーカスと手を組みながら、後半ではそこはお互いに手を切って対立する。

 

「血縁は、自分の手で断ち切る!」つったのはF91でのセシリーですが、キゾはそこを断ち切って、トモエとの新しい国作りに走る。

 

で、逆に対比としてカーティスは、別に娘との縁を切ろうとしてたわけではないものの、最初は娘に正体を隠しているし、視界リンクも使うべきではないと一度は否定する。それはニュータイプの能力には頼らずに、人間の力で生きて行くというのを一度は誓ったから。

 

が、後にそれは娘にそなわっている能力で、本人にとっては当たり前のことをわざわざ否定してしまうのはどうかと思いなおし、最後にはカーティスもベルにお前の父だと打ち明け、そのベルの能力を人と人との繋がりとして作戦の切り札にする。

 

主人公のフォント君を差し置いて、この辺はキゾとカーティスの対比として描いてあるのかなと思う。

「F91」のエンドクレジットでの鉄仮面とF91の対比って、セシリー側の親(カロッゾ=鉄仮面)は人を殺す機械になり果てたというのと、シーブック側の親、お母さんのモニカは人を救うF91を作ったっていうのとで、対比の象徴として描いたわけですよね。あやとりとかもそうだったし。

 

富野も「逆シャア」と「F91」辺りを境に、革命とかの話から家族の方にテーマが変わってきてたりした時期ですし、その辺の要素も含めた描き方だったのかなとも思う。

 

でも今回、別に富野は関わって無いので、じゃあ長谷川要素はどこに?つったらさ、エンジェルコールって、落とし所としては人類の進化の先、外宇宙へ進出した先にとんでもないものがあって、それは人類への警告なのかうんぬんも本編内では語られていましたけど、もっと単純に話としては、ガンダムで「ウイルス物SF」をやるっていうとこですよね。

 

ガンダム00」で未知の生命体のELSとか描いたのもありましたけど、宇宙世紀ガンダムでそこまで行くとやりすぎかなぁ?感はやっぱりちょっとありますし、じゃあ細菌レベルのものなら現実的な路線としてアリじゃないか?みたいな発想なのかと思います。

 

最初の方にも書きましたけど、ウイルスなら今の時代はコンピューターウイルスの方がもっと身近だし(後のコロナ禍でそこもまた逆転しちゃった感もありますが)せっかくならその話も混ぜてしまおうというのが非常に長谷川テイストです。

 

私は「ファントム」より最終決戦仕様の「ゴーストガンダム」の方がメチャメチャ好きなのですが、その理由はやっぱりあの目です。

 

ミダスの視覚センサーを利用したコンピューターウイルスでMSのOSをシャットダウンさせてしまうというトリックに対して、左右の目にそれぞれ連邦系と木星系の別センサーを持たせて、オッドアイ的に左右違う目を持たせる。これがね、メチャメチャカッコいい。

 

木星のサーカス機だったファントムに、ガンダムのセンサーをつけて半分だけガンダムにする。血の通った人間でなくとも、MSの系譜で二つの血を引き継ぐ混血児として初めて「ゴーストガンダム」の正式コードがつけられる。いやもう痺れますわこれ。

 

エンジェルコールを焼き尽くす、コロニーのミラーを利用したソーラレイと、このゴーストガンダムを切り札とするロジックの面白さ。これぞクライマックスの盛り上がりですよ。

 

ただ強力なラスボスを出すとかではなく、話のロジックでクライマックスを作る、これぞ物語の面白さだと思います。何度も言うけど、ここをちゃんと理解して作ってる漫画・アニメ・映画って実は意外と少ないのです。だからクロスボーンガンダムは面白いし凄いんです。ここは何度でも言いたい。

 


そして最後に!やっとここからが主人公のフォント君語りです。

フォント君ね、私はトビアと同じくらい好きです。でもね、このキャラって多分ですけど、トビアと違って多くの人には伝わらないキャラだと思う。

 

これまでのシリーズのトビアの次の世代として、今風の若い子を描こうとしたっていうのは長谷川自身も語ってます。アムロ・レイが当時のオタク(っていう言葉自体がまだ無い時代ですが)を描いたようなキャラだったけど、時代が変わればオタク像もまた変わってくるので、今時の子がファーストガンダムを見たとしても、アムロって自分と似てるな、とは思わないだろうから、今時のオタクが感情移入出来るようなキャラを作ってみた、というのがフォント君です。

 

ただこれねぇ…、オールドオタクが必死になって考えた、おっさんから見たイマドキの若い子、にしかなってないと思う。いやだからガンダムおじさんの私には結構響くキャラではあるんだけれども。

 

実はここ「ガンダムUC」でも同じじゃないですか?福井が後からぶっちゃけてましたけど、バナージに感情移入なんて1ミリも出来ねーよ。だって俺おっさんだもん。今の若い子の気持なんかわかるわけねーじゃん。おじさん側のキャラはわかるように描いたけど、バナージは見よう見まねで作っただけなので、描いてる方は自分を重ねたりなんかしてないし、感情移入とかしてないよ、って。

 

アニメの方には入ってたっけかなぁ?原作の方では最初の方にバナージが、何をしていても常に自分の居場所はここじゃないっていう違和感を感じていて、でもそれが何かは自分でもわからないっていう描写があって、多分、イマドキの若い子はこういう感覚あるのかもしれないな、とおっさんなりになんとなく想像はできた。

 

「SSSSグリッドマン」とか続編の「ダイナゼノン」とか見てるとさ、各々のキャラの感情とか個人的には正直よくわかんないんだけど、多分こういう感覚が今の若者の感覚であって、刺さる人には刺さってるんだろうな、とか思う感覚がありました。(そこ考えるとOPの短い歌詞にそんな感覚を集約させてるオーイシマサヨシって凄いよね。あの歌詞なら私みたいなオッサンでも結構伝わるもの)

 

一時期はゲーム感覚でMSに乗ってるっていう「宇宙、閃光の果てに」のフォルドみたいなクソも良いとこなキャラを結構あちこちで見かけた気がするけど、これが今の若い子の感覚で諸?なんてあんなに安易なキャラ付けはおっさんも若者もどちらもくいつかねーだろ?と凄く憤りを感じましたし、そこ考えると「ガンダム00」の沙磁君ぐらいはなんとなく今時の子っていうのを上手く描いてるのかなぁ?とはちょっと思ったかな。

 

そんな感じで考えると、フォント君もこういうのが今の若者の感覚って言われると、多分それ違うだろうと思ってしまうキャラではあったのですが、そこは長谷川先生ですから、ドラマの描き方としてはメチャメチャ面白いし深い。

 

前半はね、割とトビアに似てる部分もあるんですよ。「人間がこんな事をして良いはずがないっ!」って必死になってギロチンをとめるとことか。でも、そんな最初の方のとこから、フォントの内心としては物凄く葛藤と自制みたいなものも描写されてるんですよね。そこは多分トビアとは違う部分です。

 

で、そんな命の重さみたいなものが、次々とフォントに積み重なっていく。トレスさんが自らの命を犠牲にしてまでエンジェルコールを焼き尽くそうとして、死んだと思われたものの、なんとか生き延びていて、人一人の命がいかに重いものなのかを改めて知る。

 

やっぱりね、何かしら現実で経験が無いと、一人の命の重さとか、普段はあまり考えないというのはあると思う。そこは私も同じです。

こんな事を言っては不謹慎なのかもしれませんが、東日本大震災を経験してすら、どこかニュースでやっているだけの絵空事に感じてしまう感覚というのは私の中にもある。コロナ禍だって、誰か身近な人が亡くなったりとかでなければ、ついつい気が緩んでしまう面もあったりするわけで、それじゃいかんと思いつつも、なかなかね、安易に考えてしまう所も抜けきれないでいる。

 

でもって、そんなトレスさんのエピソードがありつつ、直後のローズマリーさんですよ。いやもうこれがガンダムだし、時に残酷な結末がふいに振りかかるというのはまた現実と同じでもある。世の中は不条理に満ちている、という描写なわけです。ぶっちゃけ、長谷川先生酷いよ!あんたヒトデナシか!と思った。と同時にいかにもガンダムっぽくもある部分でした。

 

そこからのミラージュ・ワゾーでの核弾頭切り落としとか、もうフォントの心や頭脳の限界を超えたオーバークロックを引き落として、完全にフォントが壊れてしまう。ここの描写がもう圧倒的。

 

やがては「そうか、世界はこうなっていたのか」とまるでゲッター線に触れて世界の真理を全て理解したかのような状態になってしまうと。ただそこでね、世の中は全て計算だけで理解できるものなんかじゃないんだよって所に行くのがガンダム的というか長谷川的でもありますし、その壊れたフォントを立ち直させてくれるのがね、かつてトビアのメンターだったキンケドゥ・ナウというのがメチャメチャ泣かせてくれます。

キンケドゥとか出しちゃったらより話が複雑になり過ぎそうな所を、こうして上手く再登場させてくれたのは本当に上手いし、フォントだけでなくトビアとキンケドゥの関係性の描き方も凄く良くてグッと来る名エピソードです。

 

理性の暴走という脳内オーバークロック状態にフォント君は目覚めるわけですが、これはニュータイプともまた違う進化の形。NTに進化しなくとも人間の可能性はまだ残されているというトビアを受けての次を描いたわけですが、ようはそこって無印の「あなたは1日に12キロの山道を歩く事ができますか」ってのと同じで、環境に合わせた人間が持つ進化の形です。

 

ネットとかのテクノロジーがもはや当たり前にあるものとして日常に溶け込むようになって、それがあるからこその問題ってのも出てはきましたが、じゃあ危険だから今更それを全部禁止にしてしまえってのも現実的には無理な話です。そういうデバイスとかにも適応してバランスをとって、より上手く使いこなせる事が力にもなる、そういう時代に合わせた主人公がフォント君。

 

まあ、おっさんがそれを理屈で描いてるので、これがそのままストンと若い子の腑に落ちるのかというのが私の疑問なんですが、実はこれと似たテーマを過去にやったガンダムが1作だけあって、それが松浦まさふみ作「アウターガンダム」という漫画作品です。

好きな作品なので、いずれとりあげる機会もあればなとは思ってますが、アウターガンダムって簡単にまとめると「科学技術の進化は善か悪か」みたいな所を描いた作品です。いや別に悪の部分は作品内では描いて無かったかな?

 

科学技術の進化が大量破壊兵器を招いたなら、人間の技術の進化は間違っていたのか?という問いに対して、無人のAIで動くガンダムを描いて、科学技術の進化は確かに多くの人を殺してきたけど、同時に多くの人を救いもしてきた、というようなテーマを描いた作品です。作者的には「鉄腕アトム」から描かれてきたテーマをガンダムに繋げたっていう事のようですが、同じとまでは言わないまでも、ちょっと共通する部分があって面白い作品です。

 

本作に続く「DUST」でもフォント君の物語は継続して描かれますし、今回ギロチンから救って君がリーダーだって言われてたアッシュが主人公として、フォント君とは違うバイタリティ溢れるキャラクターとして、また別方向の進化を見せてくれる辺りが面白い所。更にもう一人のフォント君とも言えるアーノルドとかもね。

 

私も基本的には頭でっかちなタイプで、結構効率性とか考えちゃうタイプですが、残念ながら理性の暴走スキルは持ち合わせていないので、またこんなにダラダラまとまらない話を長々と書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか。

 

総論的な事を言えば、最初に書いたとおり、「ゴースト」は詰め込み過ぎてちょいと複雑になりすぎたかなぁ?という印象。無印クロボンとか鋼鉄の7人は短い中にギュッと凝縮して詰め込んであるのが面白いし、そこは長谷川先生の上手さだよなと感じてましたので、そこと比べると、読んでその内容やテーマを理解するのが結構大変です。その分、印象に残ったりカタルシスを感じる場面も多いので、とても面白いのには変わりないのですが。

 

さて次は「ダスト」を読んで語ります。いや頭クラクラしてきた。

 

機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト(1) (角川コミックス・エース)

 

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