原題:SHANG-CHI AND THE LEGEND OF TEN RINGS
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
原作:MARVEL COMICS
アメリカ映画 2021年
☆☆☆☆☆
MCU29作品目(劇場映画のみなら25作目)
世界観は繋がっているものの、続編やスピンオフ的なものではなく、久々の新ヒーロー登場という意味ではフレッシュな作品。
ちょっと最初にシャン・チーとは関係無い話します。
仕事関係の知人で、たまたまアベンジャーズ面白いよねっていう話になったんですけど、その人は「ガーディアンズ」とか「アントマン」とかそういうとこまでは見て無いっぽい。え?「エンドゲーム」まで見たのに?「アイアンマン」とか「キャプテンアメリカ」は見てて「ソー」は2作目まで見たようなんですが、いやいやソーは「バトルロイヤル」が一番面白い奴じゃん!それ見ないって何よ?
とかね、ついつい思ってしまうわけですが、勿論その人は映画オタクでも何でもありません。ああ、一般の人ってそんなもんだよな、と改めて思いました。なんとなくこれ面白そうかな?みたいな感覚で選んで、感想も「面白かったよ」とか「ちょっとイマイチだったかも」ぐらいで終わり。うん、それが普通なんだと思いました。
映画見て、「面白かった」「つまらなかった」しか言えない人間って何だよ?その程度の事しか考えられないバカなのかこいつ?とか思ってしまうのはそんなの映画オタクから見た視点であって、世の中はその方が普通と言うか割合的にはずっとそっち側の方が多い。
私はこうやってわざわざ感想をブログで書いたりして、面白にせよつまらないにせよ、その理由をちゃんと突き詰めますし、映画には面白いつまらないそれ以上の何かを必ず得る事を目的にしてますので、ついついそんな一般的な視点は忘れがちになりますが、そこも決して忘れてはいけない部分かなとちょっと思ったりしました。
つまり、MCUももう20数作か~、これ今から入るのは大変だよね、でも面白いから全部見なきゃね、とか思ってしまいがちですが、あんまりそんなの気にしないで適当にかいつまんで見るだけの人も居るし、作る方もシリーズである事は踏まえつつ、まず1本の映画としてきちんと成立するものをっていう心構えでは作ってあるだろうから、そこはこちらが思う程は心配しなくても良いのかな?とは思ったり。
私はオタク気質なので、MCUに限らず、シリーズがあるならそれは全部制覇しなきゃいけないとかついつい思っちゃうんですよね。変な話「ワイスピ」とか私は1本も見て無いですが、もし見るなら1から全部見ないとダメとか重く捉えてしまう。なのでなかなか手が出せないシリーズ。気軽にテキトーに見ちゃえばいいのにね。
そんな風に考えがちなので、今回の「シャン・チー」、久々の新しい入口としても面白いんじゃないかな?っていう気がしました。
つーかシャン・チーって誰よ?映画に合わせて単行本1冊だけようやく邦訳版が出ましたが、これまでの数少ない登場部分では、ブルース・リーのカンフー映画ブームを受けてコミックに導入した、テンプレカンフー中国人、ぐらいのイメージしかありませんでした。
今回の映画化に当たっても、ああ、これからの映画界は中国のマーケットも意識しなきゃならなくなってきてるから、そういうマーケティング戦略の上で出してきたキャラクターなんだろうと。
ケヴィン・ファイギが昔から映画化したかったキャラクターの一人とか今になって言ってるけど、それホントか?ネトフリドラマで知名度のあるカンフーキャラの「アイアンフィスト」使っちゃったから、ただその変わりがシャン・チーなんじゃないの?とか思ってましたよ。
映画館で散々予告を流しておきながら、結局はディズニープラス配信になった「ムーラン」が散々な結果になった流れも受けて、こちらの「シャン・チー」もディズニーのCEOが実験作とコメントして、シャン・チー役の俳優がふざけんな俺らは実験体じゃねーよって反論してたりしましたが、正直を言えば、見る方としてもこの作品に関しては、何だろうこれ?感が凄く強い作品でした。
で、そんな不安もありながら実際に作品を見てきたわけですが・・・
うん、いややっぱマーベル凄いわ。そういう作品外のメタ要素まで十分に考慮した上で作ってるし、ちゃんとそこを作品のテーマに落とし込めてる。
「ブラックウィドウ」でも何でこんなにマーベル凄いのよ?と唸らされましたが、「シャン・チー」もマーベル凄い事やるなぁと感心するしかないです。
「シャン・チー」がどういった作品で、何をテーマにしているのかっていうのを要約すると、「自分のルーツ、アイデンティティとちゃんと向き合って、そこを受け入れた上で次に進もうとする意志」だと思います。
ストーリー的な面は後にして、まずは外面・ルック的な部分から話をすると、予告の時点でジャッキー・チェン系譜のカンフー映画みたいなものをやりたいんだろうなとはわかりましたし、そこは存分に描かれました。バスでのアクションとか、建設現場の足場の上での死闘とか思いっきりジャッキー映画のリスペクトですよね。その部分はあらかじめわかってました。そもそもが原作におけるシャン・チーもブルース・リーの系譜ですし、MCUでカンフー映画をやってみようという企画なのかと。
でもね、今回それだけじゃない。トニー・レオン演じるウェンウー回り、カンフー映画じゃ無く所謂「武侠映画」っぽいアプローチなんですね。「グリーンデスティニー」とか「HERO」とかのあれです。ああ、そこも中国らしさとしてちゃんと別アプローチで入れるんだ。トニー・レオンだけでなくミシェル・ヨーとか一時代を築いた人をちゃんと呼んでくるし本気度が凄いなと。
しかもその上ですよ、その先まである。
一応ネタバレなのでまだ見て無い人はご注意を。
ええと、何て言うのかな?ジャンルとしてはよくわからないんですけど、古代中国的な妖怪の類まで出てくる。竜では無く龍、麒麟とか九尾の狐とかも居ましたが、クライマックスでは中華ファンタジーの世界までも再現してみせる。
ここ、正直ビックリしました。ただの表層的なカンフーヒーローではなく、中国と言う国をリスペクトして、歴史や文化背景も含めた彼らのルーツにまで遡ろうとするこの本気度。いや感服いたしました。すげぇ。
考えてみればMCUでは「ブラックパンサー」も黒人の文化背景まで遡って描いてましたよね。色々な部族があって、っていう。ああ、ここまでやんのか、すげぇなって思います。
シャン・チーはアメリカに住んでホテルマンをやってる時にはショーンという名前を名乗っている。過去を捨てて、名前を変えれば新しい自分になれると思っていた、それで変われるんだと。
相棒のケイティはウェンウーに聞かれる、お前の本当の名前は何だと。そしてそれを大切にしろと言われる。
認めたくない過去、認めたくない自分、そこから逃げ出すだけでは何も変わらない。良い部分も悪い部分も全て受け止め、受け入れる事で本当の自分になれるのだと。自分のルーツから逃げずに、受け入れた上で次に進むべきで本当に変わるというのはそういう事なんだっていう思想ですよね。
たまたまですけど丁度今見てた「ハートキャッチプリキュア」の最終試練と同じテーマが描かれてて、ちょっと嬉しくなってしまった。
で、そこから更に面白いのが、シャン・チーのお母さんとかミシェル・ヨー演じるそのお姉さんは動きが太極拳的な受け流す円の動きがベースになっていて、真っすぐな力を受け流して、むしろその力を利用して相手に返してしまうと。強引な力、強引な考えでは循環する力には打ち勝てない。体術にしても思想にしてもそれは同じっていう描き方になっていて、そこがメチャメチャ面白い。
ただ力に物を言わせるこれまでのMCUヒーローとは、そういった思想の面から違うんだっていう差別化に思えて、ああ、単純に格闘技の技が違うとかじゃなく、思想であり、文化の違いをこうやって作品そのものの根幹として描いてくるのか、という所にえらく感心してしまいました。
ウォン対アボミネーションもね、あれって強引なパワーだけでは勝てないよっていうギャグなんですけど、お前の円は受け流すんじゃ無くポータルかよ!というちょっと捻ったギャグなんだと後から見るとわかる辺りも面白い。
やっぱりね、実際は「ブラックパンサー」が受けたからこの企画が通った面もあると思うんです。「キャプテンマーベル」があったからこそ「ブラックウィドウ」でよりその先のテーマにまで踏み込めたように、単純なポリコレでの多様性という部分も、否定こそしませんが、だったらそこで描ける事、単純なマーケティングだけでなく、だったらそこから踏み込んで次を描こうとするマーベルの姿勢が本当に素晴らしいと思う。
単純にキャラクターで言えばね、ケイティって決して美人ではないと思うけど、逆に親しみやすくて良いなぁと思うし(友達とか恋人とかでも、ルックスなんて慣れてしまえば普段はそんな気にするものでもないですから)、逆に妹のシャーリンは私黒髪ぱっつん好きなので、凄く可愛く見えて、次はシャンチーよりこっちの子をもっと見たいかも、なんて思えました。
あと私はメチャメチャツボだったのがターロー村で、そこだけでも十分におつりが来るくらい好きでした。なんとなく文献とか一枚絵ぐらいでしか知らなかった世界をこうしてビジュアライズ化して見せてくれる幸せ。こんなの今まで映画で見た事無いぞってものが見れて、非常に満足度が高いです。
これがね、10年前、いやもっと前の80年代90年代のVFX時代でも良いですよ。(私は「ネバーデンディングストーリー」のファルコンを思い返してしまった)似たような物がもし作られていたとしても、それはビジュアルだけが売りの映画になっちゃってただろうな~って思う。MCUが凄いのは、そこだけでなくキャラクターも良ければドラマやテーマ性、社会性とかありとあらゆる所が凄いのがやっぱりちょっと異常なレベルで、今回もまたその名に恥じぬとんでもない作品を出してきたなぁと驚かされたのでした。
それでいて要所要所のギャグシーンもやっぱり面白いんですよね。いや私も「ホテルカリフォルニア」とか歌いたくなるじゃねーか!とニコニコして劇場を後にしたのでした。
いや~、面白かった。
次は「エターナルズ」ですね。今回と同じく、エターナルズって誰よ?状態ですが、やっぱりマーベルスタジオ最高だなってなるのか、はははそりゃたまには外す事もあるよね、でもまた次にすぐ「スパイダーマン」あるから大丈夫だよってなるのか、あまり大きな期待はせずに待ちたいと思います。
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