僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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RUN/ラン


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原題:Run
監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ 
アメリカ映画 2020
☆☆☆☆

 

母の愛からは逃れられない

<ストーリー>
郊外の一軒家で暮らすクロエは、生まれつき慢性の病気を患い、車椅子生活を余儀なくされている。しかし常に前向きで好奇心旺盛な彼女は、地元の大学進学を望み自立しようとしていた。そんなある日、クロエは自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアンに不信感を抱き始める。ダイアンが新しい薬と称して差し出す緑のカプセル。クロエの懸命の調査により、それは決して人間が服用してはならない薬だった。なぜ最愛の娘に嘘をつき、危険な薬を飲ませるのか。そこには恐ろしい真実が隠されていた。ついにクロエは母親から逃れようと脱出を試みるが……。


非常に評判が良かったので気になっていたこちらの作品。
やっとこっちでも公開になったので早速観て来ました。

 

映画の画面が全てパソコンのモニター上でのみ展開するという変わった手法で話題になった「search/サーチ」の監督・制作チームの新作。

いや~「サーチ」ね。全世界のクリエイターが、いやこのやり方自分も構想にあったから!自分も考えてた奴だから!と歯がゆい思いをしたに違いありません。アイデア勝負は最初にやったもの勝ちですね。(正確には全くの最初ではないらしいですが)展開的に多少強引な部分はあったかなとは思いましたが、面白い試みだなとは思いましたし、割と楽しませてもらいました。映画館じゃ無くそれこそPCのモニターで私は観ましたし。

 

そして今回の作品、逆にコロナの関係で何とアメリカでは劇場公開されずに配信での公開になっちゃったとか。劇場で見れる日本はありがたいです。

 

前作は、大人の知らない所で子供は何をやってるかわからない、というのと反対な感じで、子供の知らない所で大人は何を企んでるかわからない、と対比になってるような作りで、そういう所でのテーマ性の繋がりは非常に面白い部分。逆に今回はネットが使えない!という歯がゆい展開。

 

毒親の話っていうのは最初から何と無く知ってて観たのですが、それでもそこに至るまでの、本当にお母さんは自分を騙してるのか?という疑心暗鬼になるサスペンス展開は十分に面白いですし、それが決定的になる薬の正体が明かされるシーン、度肝を抜かれます。こいつはヤベェ!って本気で思わせてくれる衝撃的な展開でした。

 

そしてそこからの脱出劇、主人公のクロエ役の人、演技じゃ無くて本当に車椅子生活をしてる人なんですね。屋根から足がぷら~んってなってるとこ、特に強調されてるわけでもないのですが、少~しづつ体が下がってきてて、あ、これ危なくない?というのが物凄く自然な感じでした。

 

莫大な予算をかけた、いわゆる大作映画ではないからっていうのはあるんでしょうけど、「ピーナッツバターファルコン」とかもそうでしたし、俳優に病気や障害の演技をさせるんじゃなくて、本当に障害を持ってる人を主役に据えて映画を作るっていうの、凄く現代的で素晴らしいです。彼ら彼女らにも等しくチャンスを与えられるべき、っていう感じが私はとても好き。

 

あと現代的と言えば、何とか外に逃げ出して、近所の人に助けを乞うシーン。わかりもしない家庭の、親子の問題に外野が口を出すな、っていうの、確かにそうなんだよなと思いつつ、でも今はDVとかが問題になるケースも多いし、命に関わるケースもあるから、難しいとこだなって思うんですけど、あそこの対応で「病院か?警察か?」ってこっそり聞くのが素晴らしかった。もし自分も同じようなケースに遭遇したら(ねーよ!)私もあの対応は真似したいと思います。

 

冒頭の会合のシーンからわかるんですけど、結局は「立派な自分」を装いたいだけなんですよね。単純に子離れ出来ないとかのレベルじゃ無くて、ただの自分本位なだけだっていう。

 

全く関係ない話しますけど、恋愛とかでもね、「自分は貴方の為なら死ねます。それくらい深くあなたを愛しているんです」みたいなのあるじゃないですか。恋愛経験も無かった若い頃はそこ、単純に深い愛だと思ってた時もありましたけど、相手の気持ちを考えたら、自分の愛する人やパートナーが死んで嬉しい奴なんかいねーよ!互いに思いやる気持ちが大切なんでしょ?自分の命まで投げ出すような愛なんて一方的なものであって、ただのエゴでしかないよ、それは愛情じゃねーだろ、みたいなのには大人になってからようやくわかりました。

 

まず相手の立場に立ってみて、それを自分だったらどう感じるか、みたいな事を想像力を膨らませて考えるべし、と今は思う。なので今回の映画も、親の愛とか言ってんじゃねーよ!ただの自分の都合を押しつけるだけの醜いエゴだろ、というのがストレートに描かれてて、ある意味面白かった。

 

現代版「ミザリー」みたいな感じもありますが(実際に監督は意識してるそうで)それをちゃんと上手く現代性を持たせてありますし、シンプルな作品だと思うんですけど、この危機をどうやって切り抜けるんだ?みたいなサスペンス描写が秀逸ですし、シチュエーションや設定も含めて、非常に上手い。

 

先日観た「透明人間」なんかも古典を上手く現代的にアップデートしてこんなに面白くなるんだって驚かされましたし、それこそ「サイコ」に始まるサイコサスペンスの系譜でもあるんでしょうけど、「ミッドサマー」とかもそうですし、幽霊とかモンスターとか、そういうのに頼らないサスペンスホラーみたいなのここ数年面白いの続いていて非常に嬉しい。

 

ソフトを買って何回も繰り返し観るタイプの映画では無いんだけど、ただ怖いとか脅かされるだけでなく、社会性もあって、今の映画として観ておいて損はしない秀作でした。

 

ラストもね、子供の義足の話とかしてたけど、それもどこまで本当の話かもわからない。立場が逆転する、というオチらしいオチに見せかけて、人の話なんて何をどこまで信じて良いものかわからない、というモヤモヤに感じられて、あえて何とも言えない余韻を残す辺りは好みでした。

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