僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

プロミシング・ヤング・ウーマン

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原題:Promising Young Woman
監督・脚本・制作:エメラルド・フェネル
アメリカ映画 2020年
☆☆☆☆☆

私も彼女も、“前途有望”なはずだった――

<ストーリー>
30歳を目前にしたキャシー(キャリー・マリガン)は、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。 

 

2021年・第93回アカデミー賞脚本賞を受賞。
予告編を見てる限りでは、所謂レイプ・リベンジムービーかなと思ってたのですが、確かにそうではあるんだけど、流石に脚本賞を受賞した作品。ただ単純に男達に復讐していくだけに留まらない、複雑でより深みのある作品になってました。

 

日本ではあまり使われませんが「プロミシングヤングマン」というのは将来の約束された有望な男、的な言い方で、女性でそういう言い方をされる事はほとんどないそうです。いやそんなの男でも女でも関係無いでしょ?と皮肉を込めたのが今回のタイトルになってるようです。

 

近年の世界的な#MeToo運動から始まる女性蔑視への反発や女性の権利向上運動に連なる作品。ハリウッドでも色々問題にになりましたし、日本でも政治家のもみ消しとか色々とありました。

女性問題だけでなく、人種問題とかLGBTとか、ここ数年で映画関係はテーマとしてすごく描かれるようになった部分。「ゴーストバスターズ」のリメイク版みたいに単純に男性キャストを女性キャストに置き換えた程度の、ちょっとこれは上手く行ってないなみたいな作品もありますけど、数多く作られる中でより洗練されたものが出てくると思いますし、今回もレイプリベンジムービーという、ある種のジャンル映画的なものを丁寧にアップデートしてある感じが本当に素晴らしい。

 

レイプとか恥ずかしめを受けてね、男なんか誰でもクソみたいな奴しか居ないんだって夜な夜な復讐しに殺して行く、みたいなものであってもね、それでもジェンダー問題を扱っていると言えなくは無いと思うんです。屑な男達にザマミロって制裁を与えて行って、スカッとする。それはそれでありかもしれないけど、もっと深堀り出来る部分はあるだろう、もっと丁寧に描かなきゃならない部分もあるだろう、こういう部分の問題は?こういう感情は?と一つ一つを丁寧に描いていく。

 

展開の巧みさと繊細さ、丁寧な組み立て方と色々な所が本当に上手い。ぶっちゃけね、私は観てる途中で、主人公のボーイフレンド的な存在がある意味彼女を救ってくれる、恋愛要素も含めたような作品なのかとも思いました。

屑な男ばっかりじゃないよ、中には良い人も居るし、そこが救いにもなるんじゃないか?みたいな事もね、含ませているのかと。それが・・・ねぇ?いやこんな展開になるとは思わなかった。

 

復讐すべきはレイプ魔だけじゃない、それを曖昧にした学校や弁護士、ましてそれを知っておきながら何もしなかったお前らも同罪じゃん!と断罪していくし、ただのジャンル映画を超えてるなと思ったのは、単純に復讐して終わるかと思わせておいて、身体的な力で無理矢理抑え込まれる部分もきちんと入れてきて、そこが意外な展開に繋がったりして、いやこれは確かに脚本が凄いなと思わされました。

 

両親との関係、友達との関係、一つの事件がいかにその人の人生を壊すのか、そして肉体だけでなく、心の死まで踏み込む描き方。

 

レイプうんぬんとはまたちょっと違う問題かもしれませんが、「お酒で潰れて隙を作った女の方も悪いんじゃないの?」的な言い分と、いじめ問題での「いじめられる方にも問題が無いとは言えない」みたいなのって共通する部分もあったりしませんか?事情はそれぞれなのかもしれませんが、被害を受けた側にあなたにも悪い部分はあったんじゃないの?と言うのは絶対に言っちゃいけない奴ですよね。

 

そういう倫理的な所まで含めたアップデートという意味で、すごく今日的な映画になってたと思うし、そこは非常に素晴らしかった。私は古い映画も好きですし、同時に今の映画もとても好き。

 

以前にも何かの記事の時に書いたと思うけど、映画好きな友達と話をしてて、自分の価値観をアップデートさせる為に、今はこうなんだっていうのを知る為に映画を見ているような部分はあるよねっていう話になった事があります。なので、こういう映画が、「脚本賞」という形ででもきちんと評価されて、やっぱり賞とか取ると後々まで語られる機会も増えると思いますので、そういう意味でも非常に優れた映画だと思いました。

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