さて先週の10月17日(日)新潟市新津美術館で開催中の「富野由悠季の世界」に足を運んで来ました。
次の日が休みでしたので、そのまま車中泊して新潟巡りをしてきたのですが、いやもう死ぬほど疲れた。1週間ブログ放置してたのはその為です。
その前の週にウォーミングアップと称して宮城県にも行ったわけですが、その時点で想像以上に疲れました。1日でそれなんだから、2日間とかもっと疲れるんだろうなと予想はしてましたが、想像以上です。
え~?こんなんだっけか。久々の旅とは言え、こんなに疲れるものだったとは・・・。いや歳とったなこれは。3日間とか疲れとれねぇとか昔はこんなんじゃなかったのに。ちょっとこの先が思いやられます。前は宮城、福島の次くらいに新潟秋田辺りは何度も行ってたんですけどね。
そんな旅の状況は後に別エントリーで書くとして、まずは「富野由悠季の世界」展です。そもそもの新津美術館が予想以上に遠い。新潟市からもう少し下の方だったのね。私は高速道路使わないで下道を行く人なので、3時間半くらいかかった気がします。
予定では朝の5時半くらいには出発しようかと思ってたのですが、起きられず6時半過ぎ出発。10時半くらいに到着しました。
過去の会場では1日では回れないくらいの濃さだったという声を多く目にしていたので、途中でお昼を食べて丸1日くらい居るくらいのつもりで望んだのですが、実際は休み無しで午後2時くらいまで居ました。3時間半くらい?
流石に一つ一つのコンテを読むとかは大変でしたので、そこは流し見くらいで済ませましたが、4時間くらい運転しっぱなしで、そこから3時間半休み無しでずっと立ってたんだからそりゃあ使れるわな。
美術館は普段は行く事も無く、こういったイベントは未知数ですし、その背景にあるものには明るく無いのですが、展示が6部構成になっているのは最初に開催された6会場の合同の企画だったそうで、それぞれの美術館の代表6名がテーマや企画をそれぞれに受け持つ、という感じだったようです。へぇ~面白いですね。
■第1部 宇宙へあこがれて
幼少期から大学時代の作品/初期の演出・監督作品
■第2部 人は変わってゆくのか?
『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』
■第3部 空と大地の間で逞しく
冒険活劇/歴史もの、名作もの、時代もの
『無敵鋼人ダイターン3』『戦闘メカ ザブングル』『OVERMAN キングゲイナー』
■第4部 魂の安息の地はどこに?
ファンタジー/スペース・オペラ
『聖戦士ダンバイン』『リーンの翼』『重戦機エルガイム』
■第5部 刻の涙、流れゆくその先へ
『ガンダム』のシリーズ化/家族と戦争
『Zガンダム』『ガンダムZZ』『逆襲のシャア』『F91』『Vガンダム』
こんな感じです。他に要所要所に細かい作品もあり。
なかなか面白いアプローチですよね。アニメ界隈でやってるだけだったら無難に年代順とかに並べそうですけど、必ずしもそうはなっていない辺りが面白いポイント。濃い富野ファンにとっては、凄く新しいアプローチとか視点が沢山あるわけでも無いのですが、変な話、藤津さんとか氷川さんとかのアニメライターが語るものともまた違う部分っていうのは多少なりともあるわけで、それこそ週刊誌とか普通の雑誌で語るほど浅くも無い。
個人的にも全部が全部では無いけれど、自分でブログを書くにあたって、他では語っていない独自の視点みたいなのは何かしら入れたいとは常に私も思ってますし、こういうのは刺激を受けますね。
『リーンの翼』のコーナーに、新書版リーンも展示されてて、あれそう言えば小説のコーナーとかあっても良いのになと思ったのですが、これまでの他の6会場にはあったようです。
新潟は、企画後の追加会場なので、規模も少し小さく縮小してあるようですし、そういう点ではまたちょっと違う意識な感じ(新潟会場のみの展示物も中にはあるのですけど)
私も富野小説は多分、新書文庫と全部持ってるはずですが、相当な数です。それ並べたら壮観だろうなとか思ったのですが、よくよく考えると、多分ガンダムシリーズ以外は全部絶版で読めないはず。今後、電子書籍とかで復刻とかはありえる話ですが、普通にアーカイブとかで見れるアニメって実は「残る物」でもあるんだなぁとか考えると、なかなか興味深いです。
例え過去の書籍や小説とかを展示したとして、売店で「波嵐万丈」シリーズが売ってるわけでもなく、近くの書店で例えば富野フェア的なものをやろうとしても、多分売る本が無いくさいですよね。「シーマ・シーマ」「王の心」「アベニールを探して」とかもし売店で売ってたらきっと買う人も中には居ただろうにね。
そこ考えると今でも見る気になれば見れるアニメって凄い。サンライズ制ではない「ガーゼィの翼」だけちょっと厳しいのかな?短編とかでないならそれ以外は多分今の世の中でも普通に見れる状況・環境ですよね。それって実は凄い事かも。
ガーゼィと言えば、バイストンウェルシリーズの1作ですが、主人公の千秋クリストファが肉体は現代に残して精神だけ?バイストン・ウェルに飛ぶという、ちょっと変わった作りなのですが、それはゲーム世界みたいなものを意識したのでは?という解説がなるほど今まで見た事の無い視点でした。
ガーゼィってPC版のゲームもあって、私も持ってたはずだけど、遊んだ事は無いのですが、確かマニュアルに富野がコメントを寄せてて、今回は監修くらいしか出来なかったけど、今後は一度ゲームにガッツリ関わってみたい的な事を言ってた気がします。ウィンドウズ95くらいの時期でしたっけ?
その後「∀ガンダム」で安田朗を引っ張ってきたように、ゲーム文化何度目かの隆盛の時期で、その辺にも興味は示してたっぽいですよね。結局ゲームに関わる事は無かったけれども。
後は「ダンバイン」関連で、永野版ビルバインとか初めて観たかも。
ああ、あとダンバインは企画段階ではサーバインってタイトルだったのか。それは知らなかった。OVA版ではそれを引用したのね。
初と言えば「闇夜の時代劇」は初めて観ました。音声はちょっと聞きとりにくかったのですが、18分だかだったので、最初から最後まで通して見た。後は学生時代の実写物も10数分なので全部見てきた。なるほど、やはり富野は演出の人なのだなぁと。
演出ってね、言葉で説明するのが結構大変なので、そこを丁寧に解説してあるものは正直少ないのだけど(岡田斗司夫のファーストガンダム解説とかは頑張ってる方だと思うけど)多分、富野作品で一番面白い部分だと私は思うので、いつかそういう掘り下げはみてみたい。ただやっぱ絵コンテは素人としては読み解くの難しいのよね。
で、絵コンテと言えば「A POINT」だったかな?虫プロ時代に富野が絵コンテ書いてたけど実現しなかったやつ。それが今回の新潟展で初お披露目のようでした。過去6会場の時はまだ未発掘だったとかで。
2分くらいの短編用のコンテですけど、少女の目の前で原爆が落ちる瞬間、未来がフラッシュバックするという話で、うん誰がどう見てもすげぇ富野作品。
小説版リーンの翼に繋がるシチュエーションですし、未来の大人になった時の姿であろう世界が瞬間的にフラッシュバックするって、富野作品でメインキャラが死ぬ時の描写にも近くて、これはコンテだけでも映像が目に浮かぶ感じで凄かった。
そんな感じで、要所要所で短い映像展示なんかもあったり、あとはコンテとか設定資料、そして書く作品のイラスト原画みたいなのもあって、やはりタイトルのように「富野由悠季がこれまで作りだしてきた世界」と、そこで何を描こうとしてきたのか?みたいなのに迫る作りで、大変に面白かったです。
私はこういうのに慣れていないのもあってか、ポスターとかのイラスト原画ってやっぱり凄いんだな、というのも恥ずかしながら今回初めて知れました。絵の具の厚みとかそのままわかるんですね。安彦さん、湖川さんとかがこれ直接書いた奴なんだな、とか思うと、こういうのが欲しくなる人の気持ちが少し理解出来ました。
青森に行くつもりだったけどコロナ禍で断念しちゃってね~、リガスィのダミーバルーンとか見たかったけど、規模縮小しつつも今回こうして新潟でやってくれて凄く嬉しい。
富野監督、まだGレコ劇場版あと二つ残ってますし、次の企画もある様子。今も元気で居られるようですが、ただ年齢が年齢だけにね、決してまだまだここれから先も、とは言えないのが現実でもある。
ガンダムとかイデオン作ってね、これだけのものを作ったのに世間は宮崎駿とかしか騒いでくれないのか、っていうのずっとコンプレックスだったと思うんだけど、こうして晩年はね、ガンダム立像とか、こういう美術展とか開催されてね、昔よりはその評価がいくらかは正当に認められるようになっていきてはいるかなと思うし、そこは富野もまんざらではないはず。
権利売っちゃった分、決してガンダムで億万長者になったとかでは無いにせよ、サンライズとかバンダイだって決して富野に足向けて寝られるような状況では無いわけじゃないですか(だから商業的に成功率の低そうなものでも富野の企画も動かさざるを得ないっていう状況ですよね?)。
※10月28日追記
なんと2021年文化功労者賞に富野監督が選ばれたようです。凄い。そしてめでたい。
なかなか前例の無い事をやってきただけに、世間に認められるまでには時間を要したって事なのかなと思います。そんな部分も含めて面白い人ですわ。
追記終わり。
富野ってやっぱり戦中の記憶があって、その後の経済発展があって、そして今っていう時代が作品に物凄く出てる人です。その辺りが作品を通して見えてくるってやっぱり面白い人だなぁと。
戦争の記憶があるからこそ「ガンダム」とか「リーン」が作れたわけで、そこから同時に善悪の相対化として「トリトン」なり「ザンボット」なり「イデオン」もあれば、戦後の復興、高度成長経済としての科学の盲信みたいなものも時代背景としてあるから、アトムとかスペースコロニーもあるし、未来の存在としてのニュータイプも生まれると、ただそこは思っていた程単純な明るい未来でも無く、ガンダムシリーズのような停滞とか変わらなさもあれば、バイストンウェルみたいな精神世界を描く事にもなる。
で、それが結果的に病んでしまう所に繋がって、そこが「Vガン」とかになり、オーガニック的なものへの回帰で「ブレンパワード」や「∀ガンダム」がある。その中で単純に輝かしい明るい未来じゃ無く、厳しい現実世界をどうサバイブしていくのかっていうのが「ザブングル」でもあり「キングゲイナー」とか「Gレコ」って流れですよね。ものすご~く時代性を表しているというか、ポストモダン、或いは日本の戦後史みたいなものが富野作品だけで語れちゃうって、作家性としては凄まじく面白い部分だなぁと、改めて思う。
実はそれって、富野展でもそういうものがおぼろげに見えてくるっていう程度で、はっきりそういう文脈で富野論を展開してる資料とか無く無いですか?更に20年30年後とか、富野没後ってもしかしてそういう語られ方をするのではないかなぁと思ったり。
もし今後も富野研究を続ける人が居たら、そういう文脈がヒントになるんじゃあないかなと思いますので、是非ご参考までに。私もそういうの読みたいし。
あれだけ多作だった手塚でもあんまりそういう語られ方って多分してない気がする。作家個人のヒストリーと同時に、その作品から見る社会背景って面白くないですか?なかなかそんなの語れる作家って少ないだろうし。
とまあこんな感じで富野由悠季の世界、堪能してきたのでした。
以上レポート終わり。
あいにくの雨降りでした
結構新しい建物ですね
到着
展示室は撮影禁止ですが、入口のとこだけ撮影可能スペースも用意されてました。
ありがとう富野
ああ、そういや解説音声付きのヘッドホンが貸出されてて(700円だったかな?)
ベルリとアイーダさんのしゃべりが聞けるので私はそれ借りてみました。
個人展なんだから当たり前なんだけど、二人が「富野」と、さんをつけずに話してるのがちょっと面白かった。
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