僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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スタン・リー マーベル・ヒーローを創った男

スタン・リー: マーベル・ヒーローを創った男

STAN LEE THE MAN BEHIND MARVEL(2017)
著:ボブ・バチェラー
訳:高木均
刊:草思社 2019年
☆☆☆☆


スタン・リーの伝記書です。
仕事の昼休み休憩中とかにちょこちょこと読み進めていたものの、忙しいと休憩もとれなかったりするので、かれこれ2カ月くらいかかったかも。400ページくらいのそこそこ厚めの本です。

 

マーベル映画への数々のカメオ出演で、アメコミにはそんなに詳しく無い人でも、マーベルの偉い人で毎回出てくるヘンなおじいちゃん、くらいの認識はあったんじゃないでしょうか。たまにではなく、ほぼ毎回出てくるので、今回のスタン・リーの出演はここだった的な記事にもなりますし、2018年に亡くなられた後の公開だった「キャプテンマーベル」の時はオープニングのマーベルロゴのシャカシャカがスタン・リー仕様になってたくらいですしね。

 

ファンタスティック・フォー」「ハルク」「ソー」「アイアンマン」「スパイダーマン」「X-MEN」「デアデビル」「ドクターストレンジ」他モロモロ、幾多のマーベルヒーローの生みの親として知られて居ましたし、アメコミファンとしても、その伝説は私も昔から色々と知ってはいましたが、こういった伝記書の形できちんと読むのは私も初めてです。

 

スーパーヒーロー物がアメコミを席巻する以前からのキャリアの事とかはほとんど知らなかったので、そこは色々と興味深く読めました。

 

特に大二次世界大戦時の従軍期間の事なんか全く知らなかったので、え~っ!こんな風になってたのか、と驚かされます。実際の戦地には派遣されず、最初は通信部に配属されたものの、すぐ特殊部隊へ。元から出版社での経験があった事を見込まれ、広報とか宣伝とかそっち方面の部署に回され、ずっとそこの仕事をしていたようです。

数々のヒーローを生みだして、作家としての手腕を発揮する前の段階ですが、やっぱり晩年もマーベル映画の広告塔みたいな役割をしてたわけですし、なんだか凄くスタン・リーらしいキャリアですよね。

 

そしてそこからのシルバーエイジ期に突入して、その才能が開花していくわけですが、アトラス、タイムリー社からマーベルへ社名が変わって、スタン・リーが創始者的な言われ方をしつつも、あくまでライター件・編集長であって会社の経営者ではない。ここは相当に苦労した様子。

 

そして「ファンタスティック・フォー」と「スパイダーマン」が売れ始めて、業界のトップだったDCの売上を越えるに至るも、そもそもそれはコミック業界というだけの話で、当時はコミックの世間的な地位は低く、いくらその世界で認められたとしても、世間にはいつまでも認められないままなんじゃないか?と常に焦燥感は募らせていた様で、色々な事に挑戦するも、他業界は甘くなく、なかなか上手くは行かない様子が生々しい。

 

仕事の虫で、コミックを作る事は好きだったけども、金銭的な部分や、世間に自分を認めてもらいたいっていう承認欲求が、作風にも出れば、色々な分野に挑戦しまくるという行動にも現れていて、そこは凄く面白い部分だし、変な話、晩年になって死ぬまでそういう人でしたよね。

 

「インフィニティ・ウォー」くらいの時期まででも、歴代の興行成績記録を塗り替えたりはしてましたけど、「エンドゲーム」で本当にマーベルが世界の頂点に立つ所とかは見せてあげたかったなぁと惜しまれます。


まあそんな感じで、コミックファン以上の分野にまでマーベルが拡大したりしましたので、映画くらいでコミックの方はあまり知らないよって人も居るかと思うので、一応そういう人の為に説明しておくと、全てのスーパーヒーローの祖である「スーパーマン」を有し、その対極でもあるダークヒーローである「バットマン」、そして女性ヒーローの「ワンダーウーマン」が居るDCがアメコミの世界では基準点であり絶対的なものとしてあります。

 

その3人は通称トリニティとか呼ばれたりしてるわけですが、そこってやっぱりバランスが良いわけです。ヒーローオブヒーローと呼ぶべき陽のスーパーマンが居れば、陰のヒーローのバットマンが居るから力極端の幅が出せるんですね。そこに女性のスーパーヒーローが居たら、さらに幅が広がると。

マーベルよりも歴史の長いDCですが、トリニティの3人はただ元祖ってだけでなく、作風としても凄くバランスが良い。だからダークな作風のスーパーマンとか映画でやろうとしても、いやそれ違うだろって古参ファンからは言われたりするんです。

 

そんな完璧なDCに対して、マーベルは不完全なヒーローである事を打ち出したんです。スーパーヒーローチームなのに、なんかいつも文句ばっか言いあってるFFだとか(勿論本気の喧嘩みたいなのではないけど)科学オタクのさえない少年がスパイダーマンになって、しかも過ちを犯して後悔するっていう。でもだからこそ読者は自分たちと同じだなって共感したと。

 

スーパーヒーローは特別な存在なんだっていうDCと、スーパーヒーローでも実は自分たちと同じような存在なんだよっていうのを打ち出したマーベル。おおまかに言えばそんな初期の特徴があります。勿論、今はどちらも多種多様なヒーローや価値観を生みだしてきてるので、今となってはユニバースが違うくらいの差しか無かったりはしますけどね。

 

ただ、そこは明らかにスタン・リーの手腕なんですね。DCユニバースの精神的柱がスーパーマンだとすると、マーベルユニバースの精神的柱はキャプテン・アメリカって感じですが、キャップはスタン・リーが生み出したキャラではなかったりします。(戦前からのキャラなので、戦後に「アベンジャーズ」としてキャップを復活させたのはスタンですけども)

 

あと映画で言えば、単純な善と悪の戦いかと思わせておいて、近年のMCUは必ず社会問題とかを作品に入れて来ますよね。私はそれこそがヒーロー映画が次のステップに進んでエンタメの最前線にこれた理由だと思ってる人なのですが、そこもまたスタン・リーの遺伝子なんです。スタンが映画のストーリーに口出してたとかじゃないですよ。コミックにそういう問題を持ち込んだのも、スタン・リーと言う人の作風なんです。

 

コミックがただの気晴らし的な娯楽に留まらず、コミックによって世の中を少しでも変えたい、何かしら良い方向に働きかけるような影響を与えるものにしたいっていうのが積極的に社会問題とかも取り入れるようにしていた作風に繋がってて、それを原作としているMCUもその遺伝子が必然的に組み込まれていると。

 

そこ考えるとね、ああスタン・リーすげぇなって思うのです。勿論、彼はDCヒーローみたいに完璧な聖人とかじゃないですよ。今回の本にも、トラブルメーカーだった部分とか、色々な対立とかちゃんと描かれてます。晩年の仕事の色々と微妙なとことかもね。

 

本の中でもまとめの辺りで書かれてますけど、単純に一脚本家としてこういう名エピソードを残したとか、そんな所に留まらないのがスタン・リーという人の面白さでもある。

 

原書としては2017年に出版されたもので、スタンがまだ御存命の時に出た本っぽいので、そこはちょっと時期的に残念かなと思いきや、日本語訳版は2019年の出版で、解説でアメコミ界隈では重鎮の堺三保さんがスタンが亡くなられた時の事まで含めて補足してくれてるので、スタン・リーを知るまとめ本としてはほぼ完璧です。

 

分量が多く、読むのは割と大変でしたけど、今までおおまかにしか知らなかったスタン・リーをより詳しく知れて、とても楽しい本でした。