僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

ゆでたまごのリアル超人伝説

ゆでたまごのリアル超人伝説 (宝島社新書)

著:ゆでたまご
刊:宝島社 宝島社新書449
2014年
☆☆☆☆

 

馬場×猪木=キン肉マン!?
キン肉マン』創作秘話
愛するプロレスと漫画に捧ぐ!!

なんじゃとーっ!?
ゆでたまごが『キン肉マン』を
イベントプロモーターの
視点で語るーっ!?

 

たまには活字本も読みたい衝動に駆られるのでこちらを一気読み。
キン肉マンをプロレス的観点で作者が語ってる面白い視点の本です。

 

ただこれ、プロレスファンじゃないとちょっとキツイかも。キン肉マンは好きだけど、実際のプロレスまではよく知らないな、っていう人には、プロレスの勉強にはなるかもしれませんが、本物のプロレスの話じゃなくて、キン肉マンの話を読みたい人には不向き。

 

だってキン肉マンのキャラ20人を語る部分と、実在のレスラー20人を語ってる部分では本物のプロレスラー語ってる分量の方が倍くらい多い。っていうかこの本全体で一番ページ数が割かれてたりする。

 

私は最近のプロレスはあまり詳しくありませんが、高校生くらいの頃から、20代くらいの格闘技イベント全盛期の頃くらいまではどっぷりハマってたので幸いにもどちらの話にもついていけましたが、じゃあキン肉マンのファンがみんなそうかと言えば、確かに全員がプロレスファンかっていうとそうでもない気がします。

 

スピンオフの「闘将!ラーメンマン」が、あれ実はUWFだったんですよ、って言われて、おお!なるほど確かにそうだ!って思える人向けです。そういう人にとってはメチャメチャ面白い本だと思います。私はそこで思いっきり納得してしまった。

 

今現在も展開してる、「キン肉マン2世」はとりあえず忘れて、最初の奴のそのまま地続きでやってる「続編」も、飛び飛びでは読んでますし、凄く面白いんですけど、私が昔のキン肉マンにハマってたのはリアルタイムの時期で、まあジャンプの黄金時代ですよね。ただその時の私はプロレスファンではなかったし、逆にそこから少し時間を開けてからプロレスを見てた時期はキン肉マンはもう過去のコンテンツでした。

 

だから私の中ではキン肉マンとプロレスは=では結びついてなかったし、プロレス的な物ではあっても、あくまでプロレスとは別物と言う印象は強かった。

 

でもこうして改めて振り返ってみると、物凄くプロレス的なセンスの上で成り立ってた漫画なんだなっていうのが改めて感じられて物凄く面白く読めました。

 

私の中でのキン肉マンの印象って、プロレス的なリングを使ってはいるけど、基本的にはジャンプのバトル物系譜として読んでたように思います。

私はジャンプ漫画のバトル物のインフレが凄く嫌いなんです。強い敵を倒したと思ったら、次はもっと強い敵が出てくる。まあ「ドラゴンボール」とかが典型ですよね。最初の天下一武闘会とかやってた時にフリーザとかセルとか来てたら倒せるわけないじゃん。なんでこんな順番通りに少しづつパワーが上の敵が出てくるんだろう?ご都合主義で嫌だな、って子供の頃からずっと思ってました。(だから同じくそこはどうかなって途中で路線を変えたジョジョが好きだったし、4部が好きなのはそこもあります)

 

キン肉マンもそれに近いのは近いんですよね。キン肉マンでも途中から超人強度とか数字が出てくるし、最初は100万パワーだったものが、1000万パワーになって、後半は1億パワーとかになる。それを導入したのが、数字があると子供がわかりやすいからっていう理由なのですが、キン肉マンにはそういった部分のほかにプロレス的なセンスがある。

 

ただ永遠にインフレで勝ち続けるんじゃなくて、勝ったり負けたりする事があるのがプロレス的センスです。

 

プロレスの面白い所は、勝敗が全てじゃ無い所。時には負けた方が勝った側よりも称賛を受けるようなケースが多々ある。対戦相手に勝つ事よりも、見ている観客の感情を動かす方が重要で、勝負してるのは実は対戦相手ではなく、見ている観客との勝負をしている、みたいな面があります。

 

テリーマン、劇中の勝ち星には恵まれないものの、何故人気なのかと言えば、名勝負をするから。7人の悪魔超人編でマウンテンを倒して戻ってきた回で、初めてジャンプのアンケート1位を取れた回だそうな。

 

7人の悪魔超人編って、次の悪魔6騎士編も含めて私は思い入れが強くて、ロビンマスクアトランティスに負けるのって、物凄くゆでたまごらしいセンスだと思うんです。例え人気キャラであっても、負ける時はあっさり負ける。

 

これね、今のバトル漫画とかだと、凄く起きにくい展開だと思うんですよね。主人公以上に人気がある味方側のトップに居るライバル的なキャラ。ここをあっさり負けさせるってありえなくないですか?

 

で、そっからさらに王位争奪編でマリポーサを撃破。敵側とは言え、キン肉マンの名前がついてるマリポーサをロビンが倒す展開は私は凄く好きでした。これは予想外な展開だなと。

でもこれ、計算してやってたそうで、ザコキャラにやられるという意外な展開を作った後で、弱いイメージがついてしまうと悪いから、ボス撃破とかで白星をつけてイメージを回復させる。いやぁ、プロレス的なセンスだわこれ。

 

時に「ゆで理論」と言われるくらいに、いやこれテキトーにやってるだろ?って言われる事もありますが、そこもね、実はプロレスだからそれで良いんだと。プロレスは時にそんなトンデモ理論があってこそ面白いんだから、整合性なんか気にせずやる面白さって言うのがあるんだよ、という事らしいです。

 

私がプロレスにハマる以前の時代ですけど、アメリカの刑務所から脱走してきたという肩書の外国人レスラーとかが居たと。昔はそれを本気で信じてたんですよね。あいつは相当にヤバい奴だと。

 

でもそんなのリアルに考えたらあるわけないじゃないですか。どうやって飛行機乗ってきたんだよ。ちゃんとパスポート持ってて税関普通に通ってきてるでしょ?と今の視点だったリ、まともな思考をしてしまえば、それが本当の話なんかじゃないのはわかる話。

でも、そういううさんくささや幻想こそがプロレスでもあり、同時にそうやって冷静に考えた時に、所謂ヒールと呼ばれる悪役の人達って、ヒーローを引き立てる為の役割を演じてくれている優しい人達でもあるよな、という背景もまたプロレス的な想像の範疇でもあったりする。

 

ただやみくもになし崩し的に倒した敵がどんどん仲間になっていくという展開では無く、強大な敵だったウォーズマンバッファローマンが仲間になったら心強い味方になるし、アシュラマンや悪魔将軍は改心しない方が悪役としての魅力が引き立つ。強いキャラじゃないけど、ザ・ニンジャは派手な展開と負けっぷりが役割として上手いので何回も使ったとか、まさしくプロモーター的な視点が面白い。

 

キン肉マンを読んで、知的なセンスを感じる人なんて普通は居ないと思うんだけど、そういうプロレス的なセンスで見た時、ちゃんとしたプロレスとしてのロジックがあるんだなと、改めて感心しました。

 

ゆで先生、2人とも、馬場・猪木派で言えば完全に馬場派だそうなのですが、荒唐無稽なアイデアで観る者をあっと言わせるのは猪木の方が長けている、というのをちゃんと承知で、対戦相手の技を全部受け切った後で勝利する、という全日本的な試合運びをキン肉マンにはさせるけど、ツッコミ所は満載でも、アイデアだけで興味を惹かせる新日本的な路線も漫画の面白さには欠かせないと、ただの自分の好みを通すだけでなく、プロレスで言えば観客、漫画で言えば読者との勝負に挑んでいたと。

 

なるほど、プロレスを知ってる身としては、確かにそうだわと頷くしかありません。

 

キン肉マン」からのスピンオフでフレッシュジャンプで「闘将!!拉麺男」を連載。カンフー映画のブームはあったし、その影響もあったそうですが、中国拳法を取り上げた漫画は当時は無かったと。プロレスよりはガチ目な格闘漫画(闘将!!拉麺男のどこがガチだって突っ込みは不要)それは格闘路線だったUWFと一致するし、その看板を張ってたフレッシュジャンプで後に「ドラゴンボール」と「北斗の拳」の読み切り版が掲載されたのは、闘将!!拉麺男で中国拳法が先に描かれていた土台があったからで、それはUWFが後の格闘技イベントの先駆けだったのと同じ事である、という論調がもう最高です。いやもうホントその通りだ。


この際、それにどこまで信憑性があるかなんてどうでもいい。プロレスなんだから。

 

ゆで先生、「ジョジョ」の荒木飛呂彦や「キャプテン翼」の高橋陽一が嫉妬するくらいの人なんですけど、そこってゆでたまごは高校生でジャンプデビューしてるからなんですよね。ゆでたまごなんて在学中からジャンプで連載持ってるのに、自分は何をやってるんだっていう焦りがあったそう。

 

プロレスに限らず、スポーツ全般がそうかなと思いますが、中高生、あるいはもう小学生の頃からそのスポーツに生活の全てを賭けて打ち込んできたっていう人、多いですよね。それくらいやらなきゃ本当のトップにはなれないんだっていう部分がある半面、一つの世界だけで生きてると、世間の一般常識とは離れたその世界だけでしか通用しない人になっちゃったりするのもある。ゆでたまごもそういう面があるのかなと思ってしまいますが、プロレスを通して、世間はプロレスからもっと学ぶべきだ、っていう締めくくりになるのも最高です。

 

プロレスって言うのは主役だけじゃ無い、それを引き立てる名悪役も居れば、スターの隣でスターをサポートする名脇役だって居る。メインイベントに至るまで会場を温める若手枠も居れば、コメディリリーフやトレーナー、或いはプロモーターまで含めて、それぞれの立場の人が居る事を理解した方が良い。プロレスは団体スポーツなんだっていう辺りがね、いや~プロレスわかってんなって思います。だからこそキン肉マンも、キン肉マンっていう主役一人の話じゃ無く、「キン肉マン」と言う団体なんだよと。

 

これは1からキン肉マン読み返したくなる感じです。いやぁ面白かった。

 

ちなみに「キン肉マン」っていうタイトル。小学生の時に最初に書いた漫画なので、漢字で「筋」って書けなかったからで、印象的になるようにあえてシンメトリーにしたとかでは一切無いそうです。そんな正直な所もまた魅力です。