僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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THE BATMAN-ザ・バットマン-

www.youtube.com原題:THE BATMAN
原作:DCコミックス
監督・脚本・制作:マット・リーブス
アメリカ映画 2022年
☆☆☆☆☆

 

バットマン映画最新作、早速見て来ました。
ダークナイト」も「ジョーカー」も大傑作だとは思いつつ、私は手放しでは喜べないものがあったりするのですが、そんな私が見たかったのはコレだ!という感じで大満足です。

 

バットマンと言う原作コミックの持っている面白さみたいなものが存分に生かされた感じが最高に心地良かった。決して原作の何かのエピソードを忠実に映像化しましたとかじゃあないんですよ。色々な原作を丁寧にアレンジして使ってある。そこは過去のバットマン映画でも同じと言えば同じなんですけど、これまではあくまでバットマンを原作とした「映画」として作られてきた。

 

でも今回、雰囲気と言うか空気と言うか、コミックの方に凄く近くて、コミックで言う所のミニシリーズとかリミテッドシリーズの1編みたいな感じで、映画と言うより原作コミックを読んでる感覚に物凄く近かった。

 

バットマン実写映画、今まで何本ありますかね?スピンオフ的な物も含めて10数本かな?私も基本的な奴は全部見てますが、私個人で言えば原作エピソードに触れてる数の方が何倍も多いです。なので基準は映画じゃ無く、原作の方だったりするんです。映画はあくまで映画と言う媒体にアレンジされたもの、決してそれがバットマンの基礎では無いという感覚。

 

原作コミックでも、ずっと続いているオンゴーイングの連載話だけじゃなく、その話のみで完結するような独自設定の物やリブート或いはリメイク的な物も沢山あります。みんな大好き影響を受けまくってる、かの「ダークナイトリターンズ」だって、あれ別に本筋の話じゃ無くて、映画みたいに単品としてアレンジされた単独作ですし。

 

今回、一般試写とかも含めて前評判は良かったですけど、そこよりもう少し前のワーナーの幹部内での試写とかはすこぶる評判が悪かったとかいう記事も出てませんでしたっけ?ロバート・パティンソンの線が細すぎてバットマンらしくないから取り直ししろとか言われたみたいなの。

 

前々から一部で言われてる事ですが、ワーナーの上の方は「スーパーマン」と「バットマン」に関してはDCの看板タイトルというのもあってか、やたら口出ししてきてそのおかげでめんどくさい事になるからなかなか上手く行かない。それこそ「アクアマン」みたいなのには期待して無いから監督が自由に作れて、結果その方が面白い作品が生まれやすい、的に言われたりしてる。

 

今回の「ザ・バットマン」だって、本来はDCEUのベン・アフレック版の単独作の企画だったものの、こじれてベンアフが降りちゃって、別の企画としてこれになったっていう感じですよね。

 

今回の監督は、マット・リーブス。
クローバーフィールド」「モールス」「猿の惑星 新世紀/聖戦記」の監督ですね。どれも並以上の作品ではありますが、決して100点とか出すタイプの人では無いかな?というのが私の印象ですが、こうして作品タイトルを出してみると、その作品の前に何かしらのマスターピース的なものがあって、それを自分なりにアレンジして作る、という作品がキャリアの大半を占める。「クローバーフィールド」も怪獣映画をオリジナルアレンジで作るっていうような企画ですし。

 

今回も、評価の高い低いは様々あれど、歴代のバットマン映画に対する、自分なりのアプローチというものが試されてる企画だったわけです。今回、上手く行ったのは星の数ほどあるコミックのバットマンにまで立ち返って、そこからバットマンの魅力とは?バットマンの面白さとは?みたいな事をきちんと自分なりに理解して作ったんだろうな、というのが凄くわかる作りになってました。

 

冒頭のシークエンスから私はもう痺れまくりました。ハードボイルドなモノローグから始まるって、やっぱり「ダークナイトリターンズ」ですよね。ザック・スナイダーが直接的に絵を再現したりしてましたが、そんな俗な事はやらずに、DKRはあのモノローグが良いんだよなぁ、というのをよくわかってらっしゃる。DKRはアニメ化もされましたが、モノローグ無いんですよ。あれ見た時、私も物凄く物足りなさを感じました。そこも魅力だったんだなと再確認させられたんですよね。

 

そこはホントに初歩の初歩で、そこからバットマンの登場までのシーン。闇こそが本当の恐怖である、というのは幾多の原作でも何度も使われてきたバットマンの基礎中の基礎ですけど、考えてみると映画でこれちゃんとやった事無かったですよね。言葉やセリフではそいう部分に触れてはいるけど、映像としてそれを再現してるものは無かった。


ただ何も無い裏路地の闇を映し出し、もしかしたら何か居るんじゃないか?と、つい思ってしまう恐怖。一般人にしてみれば、そこに悪い輩が潜んでいるんじゃないか?と考えてみたり、犯罪者側にしてみれば、バットマンが現れるんじゃないか?或いは、自分自身の葛藤でもあったりする。「深淵を覗いている時、深淵もまたお前を見ているのだ」的なアレです。

 

バットマンが蝙蝠なのは、自身の恐怖でもあり、その闇に紛れる為に自分自身が闇に身をひそめるというのが過去に何度も原作コミックで繰り返し描かれてきた部分。闇夜に浮かぶバットシグナル、自らが恐怖の象徴になろうとするバットマン

 

もうね、この冒頭のシークエンスだけで、「あ!この人バットマンをちゃんと理解してる」と、過去のどの作品よりも信用できました。ぶっちゃけもうそこで私はこの作品の虜です。

 

今回ね、3時間近い長尺です。その点では何度も見返すには厳しい作品だなぁ、というのが唯一のネックかなと思いますが、体感時間は決して長いとは感じませんでしたし、面白い感覚なんですけど、一つ一つのシークエンスというか、全体のバランスに対する割り振りが結構細かく短くなかったですか?

 

例えば今回、バットマンとして仮面を被っている部分の方が多くて、ロバート・パティンソンの素顔でブルース・ウェインとしてのシーン、短いなと感じた。今回のメインヴィランでもあるリドラーの登場シーンも少ない。ペンギンは少ないシーンながら印象に残る。キャットウーマンも決して出番としては多く無い。ゴードンやアルフレッドもそう。サービス的に1シーンだけとかじゃなく、ちゃんと話に絡んでるし、よくよく考えると実際はそんなに短くは無いのかもしれませんが、3時間もあって、それぞれの出番短く無い?という不思議な感覚に囚われました。

 

これね、私自身の感覚に負う部分も大きいと思うんですけど、映画単体としての尺うんぬんではなく、そのキャラクターや背景に膨大な原作コミックを重ねられるからそう思えたのかなと。

原作コミックに近い雰囲気だったからこそ、これは映画単体として見るんじゃなくて、原作の持っているバックグラウンドを重ねても大丈夫だ、っていう感覚が生まれたんだと思う。これは過去の映画では感じられなかった部分。

 

凄く個人的な部分なので、説明しても理解はしてもらいにくいかなとは思うんだけど。アレンジという意味では同じなんだけど、映画として見てもらいたい部分だけでなく、バットマンという映画も原作も何もかも含めた大きいコンテンツの中の今回のバットマンではこうしてみたよ、的な感覚が凄く楽しい。

 

リドラーをここまでのサイコパス野郎にしたのって、原作では無いアレンジなんだけど、原作でも知能犯なのは同じで、時にバットマンに匹敵するくらいには頭良いんですよね。「HUSH」でだったっけか?リドラーが自力でバットマンの正体にたどり着いたのって。

 

バットマンの探偵要素は元の原作では最初から大きく描かれてた部分で、そもそも「ディティクティブコミックス」だし、闇夜の探偵とか世界最高の探偵とかはダークナイトとかケープドクルセイダーとかと同じくバットマンの異名の一つで、っていうのはみんな言ってますけど、(ラーズ・アル・グールなんかもバットマンの事は基本「探偵」呼びですしね)そのバットマンの知能とタメを張れるリドラーなんだから、それを対の存在として描いてみようっていうアレンジが物凄く秀逸。ああ、そういう発想かって素直に思える。

 

しかもね、その原作からのアレンジを社会的要素に今回絡めて来てたわけじゃないですか。分断社会は今の映画のトレンドですし、そこをネット社会に絡めてくるっていうのもね、決して新しいとは言えないけど、なんかわかる話だなって言う。

 

だって「ジョーカー」とかでジョーカーに心酔するみたいな人も居たわけじゃないですか。そこって今回のリドラーとほぼ同じようなものですよね。虐げられてきた俺達が社会に正義の鉄槌を下すんだ的なもの。それは恐怖や暴力で世の中を動かそうとするバットマンと同じだよって、対の存在として描いて、バットマンは最後にそこではなく、市民に灯火をもたらす存在だって言うヒーロー映画への落とし所も上手いし、そもそもバットマンだって都市伝説みたいな存在でもあるわけですしね。その仮面の姿のバットマンにこそ価値があるのであって、その素顔には興味無いリドラーっていうのも面白かったなぁ。

 

ポール・ダノ演じる中の人もね、正体はこんな奇声を上げる冴えないキモオタみたいな奴でしたっていうのも、決して新しくも無いしよくある感じではあるんだけど、不思議とそれを許せる変なリアリティがあって好きでした。

私もね、こんなブログ書いてる見分として、別にカッコつけたり偉そうにしてるつもりもなければ、そもそもこんな辺境のチラシ裏ブログ誰も見てねぇよとは思うけど、中身はこんなキモオタおじさんでした!みたいなオチがつくとか考えると、こういうオチは嫌いじゃ無いのです。闇が恐怖を引きだすように、想像って自分の都合のよい感じに勝手にその人が作っちゃうものですしね。

 

今回、トーマス・ウェイン、マーサ・ウェインにも闇の部分があって、みたいなアレンジをしてきてたけど、そういうのも嫌いじゃないです。どんな人にでも良い部分悪い部分は必ずあるって私も思ってる人ですし、100%の善人なんか居ないと思う性質なので。

 

とまああ長い映画の中に色々な要素を細かく入れてきてるな、というのが面白味でした。原作的にもミステリー仕立てなのはやっぱり「ロングハロウィーン」に近い物を感じますし、セリーナも「イヤーワン」っぽいし、ファルコーネ失脚からペンギンの時代へとかは「ダークビクトリー」にも通じる。後半のゴッサム崩壊とかは「カクタリズム」「ノーマンズランド」ですよね(調べたら「ゼロイヤー」の方にもっと近い描写があるっぽい。私そこ読んで無かった)。ゴッサムの成り立ちみたいなのは「ゲートオブゴッサム」「梟の法廷」辺りのスナイダー的な要素もちょこっとだけ入れてあるのかなと思うし、精神病院としてのアーカムアサイラムだけでなく、アーカム家に触れてある辺りもまた面白い。この作品に大きく影響を与えたとされる「バットマン:エゴ」はこれから読むので、そっちはそっちで楽しみになってきました。

 

ぶっちゃけ、ペンギン関係をカットすれば2時間半の映画とかにも出来て、その方が見やすくなったのかもと思わなくもないですが、バットマンのもう一つの顔でもある「ゴッサムシティ」そのものを描くと言う意味では必要な部分ではあったのかなとは。

 

そして何より、ロバート・パティンソンの魅力ですよ。これまでのバットマンの成熟した大人のイメージとは違ってて、まだ発展途上な感じが凄く良い。ワーナー上層部が言う線の細さがダメだってのの真逆の評価です。それが良いんじゃあないか。繊細な感じが凄く良いです。

 

あのね、原作のバットマンは目が白塗りです。普通に目が見えるアレンジはティム・バートン版映画からなんですが(いやその前の古のTVシリーズからそうですけども)実は私は最初はちょっと実際に目が見えるって違和感がありました。見てれば慣れるので、ずっと気になってたとかではないんだけれども。でも今回、そんな目が凄く良い。眼差し、表情とかが凄くグッと来る。

 

原作の生かし方、アレンジの仕方、時代性やテーマ、ヒーロー映画としての在り方、俳優の演技、音楽の使い方、キャラクターの配置、大きすぎす少なすぎずなバランス。私の中ではバットマン映画の最高傑作と言っても良い作品でした。マーベルに押され気味なDC映画ですが、全く引けを取らない堂々たる作品で大満足です。素直に褒める所しか無いくらいに面白かった。ああ、唯一、あれ?と思ったのはムササビマンかも。リアルなのかもしれませんが、ビジュアル的にそこだけはちょっとカッコ悪かった。着地が綺麗に決まらないのは逆に良かったですが。

 

あ、私例によって吹き替え版で見たんですけど、桜井バットマン、石田リドラー、ファイルーズあいキャットウーマンと本業声優ばかりでしかも人気ある人ばっかでそっちの面でも凄く楽しかった。

さて、早速バットマン:エゴを読もう。

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