僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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バットマン:エゴ

バットマン:エゴ (ShoPro Books)

BATMAN:EGO and other tails
著:ダーウィン・クック他(作・画)
訳:秋友克也
刊:DC 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2022年
収録:BATMAN:EGO(2000)
 BATMAN:GOTHAM KNIGHTS #23 #33(2002)
 CATWOMAN:SELINA'S BIG SCORE(2002) 
 SOLO #1(2004) #5(2005)
 BATMAN / THE SPIRT #1(2007)
 HARLEY QUINN HOLIDAY SPECIAL #1(2015)
☆☆☆☆

 

ブルース・ウェイン
最大の敵は
バットマン!?
人格が二つに
分裂した彼は
重大な決断を
迫られる……。

ジョーカーの部下のチンピラを追い詰めたバットマン。しかし、その男は自ら命を絶とうとし、衝撃的な理由を明かす。彼はジョーカーを裏切って金を奪ったが、それが発覚してしまい、ジョーカーに殺される前にと自分の妻子を殺害したと言うのだ。罪なき親子を救えなかった罪悪感に苛まれたバットマンは、「復讐に燃えるバットマン」と「理性的なブルース・ウェイン」に人格が分裂してしまった……。

2016年に肺がんでこの世を去った天才コミッククリエイター、ダーウィン・クックが描く衝撃の表題作「バットマン:エゴ」を含む、ファン待望の短編集。

 

という事で久々のDC邦訳本。刊行点数が多くて流石に全部は買えず、どうしてもマーベル中心になっちゃってますが、別にDCが嫌いとかでは無いのです。
買ったけど読んで無い積ん読本も山ほど増えてますし、最近の流れはほとんど追えて無いので何とかしたい所ではあるのですが、どうしたものか。

 

今回は「ザ・バットマン」制作にあたり、影響を受けた作品として挙げられている故ダーウィン・クックのデビュー作にして代表作「バットマン:エゴ」が映画に合わせて刊行されましたので早速読む。

 

ダーウィン・クックと言えばやっぱり私は「DC:ニューフロンティア」です。
DCの歴史と現実のアメリカの歴史を重ねて描くという作風で、メチャメチャ面白かった作品。クック自らアニメ版の監督もしてますので、いずれアニメ版も見たい所です。

 

バットマン:エゴ
ブルース・ティムの元でアニメの方の仕事をしていた彼がコミックデビューを飾ったのがこちらの作品。以前からバットマン名作軍の一つとしてちょこちょこそのタイトルは目にしてましたが、今回が初邦訳です。

 

ジョーカーの部下のバスター・スニップスという運転手がボスを裏切り、金をかすめ取ろうとするも、バットマンの追跡に合う。追い詰められ、バットマンに説得されるが、ジョーカを裏切った事がバレたらもはや家族までもが復讐される事は目に見えている。それならばいっそのこととバスターは自ら妻子を撃ち殺してしまったのだという。衝撃的な事実を知ったバットマンは、全ての命を救う事など出来ないと、その罪の重さに苛まれる事になる。バットケイブに戻り、打ちひしがれているブルースの前に、バットマンが現れ、自身を受け入れろと語りかけてくるのだが・・・。

 

とまあ「ザ・バットマン」とはストーリー的な共通性は無い。
映画では「俺は『復讐』だ」というセリフが何度も出て来ました。復讐、そして恐怖と暴力に取り付かれた男が自分の鏡像としてのリドラーと対峙した時、ヴィランと自分は一体何が違うんだ?というのがテーマとして描かれてましたが、そういったテーマの描き方やインスピレーションの元になったのがこちらの「バットマン:エゴ」という作品なのでしょう。

 

ここ、昔からバットマンでは何度も繰り返し描かれてきた部分で、ブルース・ウェインバットマンの仮面をかぶるのではなく、バットマンが彼の本当の姿であって、ブルース・ウェインこそが仮の姿では無いのか?と言う奴ですね。

 

仮面はかぶってないけど、スーパーマンクラーク・ケントとカル=エルの関係なんかもそう。勿論、そこに正しい一つの答えがあるわけじゃなくて、時代と作品によって、そこの描き方は様々というのが面白い部分です。

 

今回はバットマンの姿がブルースから精神分裂して、自分にお前の主導権を渡せと良い寄ってくる。ブルース・ウェインの時は自分は素直に身を引く、しかしバットマンになった時は怪物に身を委ねろと。

幾多の葛藤の末、導き出した答えは・・・という部分は「ザ・バットマン」に通じる部分がありますね。

 

これ系の話、今回のケースとはまたちょっと違うんだけど、個人的に私がメチャメチャ好きな話は「アンダー・ザ・レッドフード」だったりします。他人ならともかく、自分が殺された時だけはその倫理を飛び越えてジョーカーを殺して欲しかったっていうジェイソンの悲痛な叫びと、どんな時にでもそのラインを越えてはならないのが奴らと我々の違いなんだ、っていうのがメッチャ好きです。

 


■ここに怪物ありBATMAN:GOTHAM KNIGHTS #23)
モノクロで描く「ブラック&ホワイト」の1編。
ライターはポール・グリストで、アートをダーウィン・クックが担当。

■モニュメントBATMAN:GOTHAM KNIGHTS #33)
こちらも「ブラック&ホワイト」の1編で、上とは逆にライターの方がダーウィン・クックでアートはビル・レイ

 

キャットウーマン:セリーナズ・ビッグスコア
4章構成のそこそこの中編。
過去に手を組んでいた仲間と共にファルコーネファミリーから金を強奪する計画を立てるも・・・という感じのセリーナの話。結構重い話なんだけど、流石はアニメ畑出身、流れるようなアクションシーンのコマ構成が凄い。

 

キャットウーマン/セリーナ・カイルって実は私ちょっと苦手なキャラだったりするんですが、何でかっていうと気まぐれで掴み所が無いから。うん、まあそりゃ猫ですし。いや私、本物の猫は大好きなんですけどね。

女性の気まぐれさに翻弄されるって結構苦手な感じで、逆にそこに惹かれるんじゃん!っていう人の気持ちもわからんでもないし、この話の中でも男は翻弄されまくるという。脚本としても凄く上手いです。

 

あ、あとこの話、スラム・ブラッドレーという探偵が出てくるんですが、なんとこの人の初登場が1937年の「ディティクティブコミックス1号」!

バットマンの初出が1939年の「ディティクティブコミックス27号」ですから、バットマンより、言うなら1938年のスーパーマンより先に生まれてるキャラです。なんかすげぇ。

 

■デートナイト(SOLO #1)
こちらはアートをティム・セイルが担当。
ライターのジェフ・ローブと共に「バットマン:ロング・ハロウィーン」「バットマン:ダークビクトリー」「キャットウーマン:ホエン・イン・ローマ」「スーパーマン;フォー・オールシーズン」
マーベルではカラーシリーズが代表作の、独特のアートが魅力の人です。邦訳版もいっぱい出てますねぇ。
バットマンキャットウーマンがイチャイチャする短編。


■デ・ジャブ(SOLO #5)
ディティクティブコミックス#439「ナイト・オブ・ストーカー」という話のリメイク作。アニメの方をやってる時にブルース・ティムとの共作で脚本を書いたものを、許可を取って再度一人でリメイクしたとの事。元の話はクックがバットマンで一番好きな話だったとか。

 

バットマンが出てくるんだけど、一言もしゃべらない。サイレント作品では無いんだけど、バットマンにセリフをつけない事でより恐怖が増すという演出。なるほど、そういうの好きそう。
何の話だったか忘れたけど、ウルヴァリンでもそんな演出やってる作品を読んだ記憶があるな。

 

■クライム・コンベンションBATMAN / THE SPIRT #1)
おお~!なんと「ザ・スピリット」とのクロスオーバー作品。フランク・ミラーが映画化してたウィル・アイズナー作のあれです。アメコミの権威であるアイズナー賞はこの人の名前からつけられたというのは有名ですが、肝心の「ザ・スピリット」は邦訳出た事は無いはず。

 

仮面の探偵が個性豊かな犯罪者たちとセントラルシティ(フラッシュの本拠地と同名なだけで関係は無し)を舞台に戦いが繰り広げられる!という、古のヒーロー物の古典ですが、バットマンとの共通点も多いし、レトロな作風が得意なクックとの相性も抜群。メチャメチャ面白い一編でした。どちらの作品もヴィランやサブキャラ総登場な感じの、まさしくお祭り作品っぽくて楽しい。

「デートナイト」とは逆に、こっちは脚本がジェフ・ローブで、アートの方をダーウィン・クックが担当。

 

■キリング・タイム(HARLEY QUINN HOLIDAY SPECIAL #1)
ハーレイクインのクリスマス特別編、ホリディスペシャルとして刊行されたものの中の一編。脚本はアマンダ・コナー。「ビフォアウォッチメン」のコンビですね。

ハーレイと言えばやっぱりブルース・ティムといった所ですが、その系譜の一人であるダーウィン・クックが描くハーレイもこれはこれで。

 

■他にもダーウィン・クックが描いたカバーアートなんかも多数収録されてて、それもすこぶる素晴らしい出来。躍動感、程良いレトロ具合。脚本もアートも両方手掛けてる人でしたので、視点が素晴らしいんだと思うんですよね。こだわりのあるアートスタイルに、物語性も含ませてある。

 

ザ・バットマン」の原作的な物として手に取ると、ちょっと肩すかしな部分もあるかもしれませんが(その奥にあるテーマ性の共通項を探るという視点が持てればアリなんだけど)、映画にかこつけて、ダーウィン・クックの作品集が日本語版で発売されたというのは物凄く貴重だと思われます。

 

アメコミは長く続いているキャラクターも魅力ですが、それは作者では無く出版社が権利を持っているからだ、と言われますが、ちゃんとそこに作家性というのもあるし、そこもまたアメコミの魅力の一つです。非常にありがたい一冊でした。

 

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