監督:宮本浩史
脚本:香村純子
日本映画 2018年
☆☆☆☆☆☆
プリキュア映画25作目。
TVシリーズ15作目「HUGっとプリキュア」秋映画にして、初代「ふたりはプリキュア」とのコラボレーション作品でありつつ、「プリキュアオールスターズ みんなで歌う奇跡の魔法」以来、2年ぶりに「オールスターズ」のタイトルが復活したプリキュア15周年記念作品。
監督は「プリキュアとレフィのワンダーナイト」「プリキュアドリームスターズ」の宮本浩史。脚本は後にTVシリーズ「ヒーリングっどプリキュア」のシリーズ構成も務める事になる、スーパー戦隊シリーズの方で有名な香村純子が担当。
プリキュアシリーズの最高傑作の一つと言っても過言では無い、歴史に残る1作。
現行のTVシリーズ「デリシャスパーティプリキュア」が東映アニメへのサイバー攻撃の被害で放送休止中。穴埋めで急遽3回に分けてこの作品が放送されました。尺の都合もあってか、細かくカットされてる部分も多かったですし、放送を見つつも、ソフトで再度見返しました。多分、見るのは5回目か6回目くらいかな?
これ、今回の映画ではなく、「スイート」の時の「オールスターズDX 3Dシアター」という短編ムービーの時に作られた曲なのですが、
「君がピンチの時は 世界中から仲間が
駆けつけるよ 忘れないでいて」
という冒頭の歌詞が泣かせます。他の東映アニメーション作品が、どれも再放送中なのに対して、プリキュアはピンチの時に先輩達がみんなでかけつけてくれたんだって思えて、なんかそれだけで泣けて来ますわ。
コロナ禍以降のプリキュア、「ヒープリ」「トロプリ」「デパプリ」と、話数短縮で苦難の時期が続いています。コロナ禍もそうですし、プリキュアとは直接の関係は無いものの、ロシアの武力侵攻とかも含め、なんかもう今はそういう時代なんだなとしか言えない。当たり前の日常がいかに貴重なものだったかを考えざるを得ません。
プリキュアはね、初代の頃からそうです。敵を倒す事を目的とはしていない。「私たちは大切な日常を守りたいだけ」だから戦う。それがプリキュアの根幹にあります。ヒープリでキュアグレースを演じた悠木碧も言ってました。こんな情勢だからこそ、プリキュアは戦うし、きっと必要とされている。私も改めてそんなプリキュアを応援したい。
この辺の企画記事
curez.hatenablog.comでもちょこっと触れたけど、私はプリキュアに何度も救われました。日々つらい事や嫌な事があった時に、プリキュアに何度も励まされ、なんとか踏ん張って生きてこれたその内の何割かはプリキュアがあったおかげと胸を張って言えます。まさに「ありがとう&あいしてる」です。
そんな所からの「オールスターズメモリーズ」語りを始めようかと思います。
いくつかの偶然が重なった奇跡がこの大傑作映画を生んだんだよ!
というのを私なりの視点で語らせて下さい。
まずは一つ目。
「ドリームスターズ」の感想記事で書いたのと重複しますが、この映画に置いて物凄く重要なポイントなので、再度書きます。
宮本監督、CG畑出身でプリキュアとの関わりは当然EDのCGパートから。CGでももっと色々な表現が出来るから、CGのみで1本作らせて欲しいと自ら売り込んだ結果「映画 Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!」の中のCG中編「プリキュアとレフィのワンダーナイト」に結実する。
中編を作った後は、次のステップとして、今度は長編に挑戦したい!という事で「ドリームスターズ」の監督に抜擢されます。
「ふたりはプリキュア」キュアホワイト/雪城ほのか役のゆかなさんの大ファンだそうで、それ以前のまだキャリアが浅い時に、ゆかなさんにお会いする機会があって、将来自分が監督を務める作品が出来たら、是非ゆかなさんに出演して欲しいと伝えたと。そして前回「ドリームスターズ」の時に春映画の監督やってみますかとのオファーが入り、オールスターズならキュアホワイトが出せる!と意気込んだものの、今回からはオールスターズじゃなく3世代に絞って作ってね、と言われてしょぼーん。というオチがつく。
そこを経ての、次は15周年記念の特別作だから、大変だけど「オールスターズ」の枠組みでやってみる?という、遂に夢が叶う瞬間が訪れたのが今回の「オールスターズメモリーズ」という事になります。
宮本監督、ファン丸出しでちょっとキモイ。と同時に、いやそれ以上にカッコいい。有言実行するその行動力たるや、本当に素晴らしいと思います。それがね、ファンとして好きな声優に近づきたい的な下心だけとかだったら褒められたものじゃないんですよ。何が凄いって、その有言実行っぷりもそうなのですが、要は「初期衝動」なのです。自分はこういうものが作りたいんだって言う、モチベーションや行動原理はクリエイターにとって本当に大切な事です。
映画とか漫画とかでもそうなんですけど、処女作にそのクリエイターの全てが詰まっていると言われる事が多いのは、そこまでその人が積み重ねて来た気持ちや思い、自分はこういうものを世の中に訴えかけたいんだ!っていうのを作品に詰め込むから物凄く濃い物が出来る。時にそれは、荒削りだけど気持ちは十分に伝わる作品、みたいなものに繋がるんだけど、宮本監督的にはEDの短編、映画中編、そして前作で初の長編映画と着実にキャリアを積み重ねて来た上での、それが今回の作品に全てを結実させたという形になってる。
1段1段、足場を丁寧に重ねて着実に階段を昇り上げて来た上で、その初期衝動をここにぶつけて来た。だからこそここまでの傑作になってるわけです。
面白いのは、キュアホワイト役のゆかなが活躍する映画を作りたい、という思いがこうやってホワイト贔屓の映画になったんだなと思ってたのですが、今回改めて見返すと、そんな贔屓と言う程出番が多いわけでもない。
ここが絶妙なバランスでね、「ふたりはプリキュア」一応は初代は同格という事にはなってますが、それでもこれまでは便宜上の主人公であるキュアブラック/美墨なぎさの方がクロースアップされる事が多かった。
そこは初代と言えば仮面ライダー1号の本郷武であり、アカレンジャーの海城剛であり、プリキュアで言うならやっぱりキュアブラックと言うのは仕方の無い所ではある。
でも、ホワイトに思い入れがある人が作ってるんだから、取り立てて出番が多いわけでもないのに、ちゃんと印象に残るように作られてるので、結果的にブラックとホワイトの「二人」がバランス良く描かれてて、初代=ブラックでは無く「ふたりはプリキュア」である事が引き立つ結果になる。
これね、私は奇跡的なバランスだと思う。初見とかこれまでの何度かの印象では、制作背景も知った上で見てたのもあってか、ホワイト贔屓と感じてましたし、子供になったほのかが「なぎさ!」って叫びと共に自分を取り戻すシーンがやっぱりこの作品の大きなハイライトの一つだとは思いますが(で、そのちょっと後の「もう、なぎさったらぁ」も最高なんですよね)やっぱりね、「ふたりはプリキュア」なんですよ。
ほのかが居てこそのなぎさだし、なぎさあってのほのか。ただ肉弾戦が強力とかそういう表面的な部分だけじゃ無く、その精神的な部分をちゃんと描いてるのが本当に凄い。
初代の監督である西尾監督の監修も入ってるとの事ですが、それだけじゃないですよね。ここは元から脚本・演出がちゃんと初代リスペクトをやってるんだと思う。よくある先輩の「ゲスト出演でちょっとキャラ違うよね」感は皆無。正式にタイトルに「ふたりはプリキュア」を入れてるだけのものがちゃんとあるのが、本っっっ当に素晴らしいと思う。
そこが奇跡ポイントの一つ目。
ついでに言えば宮本監督と言えば前作もそうでしたが、ビジュアルに拘りのある監督なので、全編ちゃんと絵が綺麗なのも嬉しいポイント。
東映アニメーションっていう会社の社風にも関連してくる部分なのですが、東映ってそこまで絵のクオリティには拘らない会社です。それこそ絵の綺麗さで売ってる「ヴァイオレットエヴァーガーデン」の京都アニメーションとか「鬼滅の刃」のUFOテーブルとかそういう所と比べたら、比較にならないレベル。納期を延ばしてまで絵のクオリティに拘るより、絵のクオリティを落としても納期はちゃんと守れよっていうタイプの会社です。
TVシリーズの方でもたまに、これ劇場版クオリティじゃん!って時もありますが、それは社風じゃ無く、個人の資質に負う部分が大きい。プリキュア映画も、映画らしいクオリティの時もあれば、TVと変わらない程度の場合も多い。特にオールスターの場合だと、登場キャラの多さもあってか、絵のクオリティ的にはちょっと・・・というケースが多いです。
でもこの注目度の高い15周年記念作品映画で、たまたま絵に拘りのある宮本監督の担当になって、全編劇場クオリティ(に見える絵)で統一してあるのって、実は結構大きい部分。
youtubeとかでもね、普段プリキュアとか見て無いんだけど、話題になってるからこの作品を見てみた的なレビューが結構多くて、「プリキュアなめてました。ゴメンなさい」って月並み良い評価なので、そういうのも見ていて楽しいんだけど、「面白かったけど絵は劇場作品クオリティじゃなくTVと変わらないのね」って言われなくて良かったなぁと思います。
細かい演出やドラマの積み重ねだけじゃなく、表層的なルックって結構大事ですし。全部見てる身としては、毎回このクオリティじゃないんだけどね、ってこそっと言っておく。
何気にそこも奇跡ポイントの一つ。
そして「ふたりはプリキュア」の映画でありつつ、やっぱり(当時の)現行作品として「HUGプリ」の映画である事も当然重要で、そこに関してのクオリティも申し分無い。
春映画の「スーパースターズ」でも言ってましたが、先ほどのほのかのシーンに続く形で「こんなの私がなりたい野乃はなじゃない!」からの挿入歌「リワインドメモリー」の流れ!
前半の山場のここで「フレーフレーわたし」があってこその、後半クライマックスの今回の敵のミデンへのフレフレですよ。「フレーフレーわたし フレーフレーみんな」って、自分も相手もどっちにもエールを送るのがはなちゃんです。
「応援なんて誰にでも出来る」ってTVシリーズ序盤でアンリ君に一蹴されたその顛末はTVシリーズを語る時にしますけど、今回のね、ミデンの話もとにかく良かった。
私、まだここから出ない、ミデンと話がしたいって必死にしがみつく姿はエールの真骨頂。あのね、「エヴァ」が10年とか20年使ってやっと辿りついた、「いいからまず話してみろよ」っていうのを、同じ中学生のはなちゃんはわかってるのよね。自分の主義主張や理屈、感情を押しつけるんじゃなくてさ、まず相手に寄り添うその気持ちですよ。はなちゃん、良い子だなぁ。(何気にミデンの背後に過去のはなちゃんの姿もちょっとだけ映ってるのがもうね・・・)
コミュニケーション不全の時代だって言うのもわかる。誰にも相手にされなくて、自分の世界では雨が降り続けて止まないんだっていう気持ちも痛い程わかる。てるてる坊主ってね、雨の象徴かもしれないけれど、同時に晴れを願う気持ちの象徴でもありますよね。
ぶっちゃけ私はミデンに自分を重ねた部分はある、自分にもはなちゃんみたいな子が現われてくれたらなって思う部分もある。ええ、一人は気楽な半面、時に物凄く寂しくなる時もそりゃありますって。
でも、これもTVシリーズに繋がる部分でもありますが「なんでもできる なんでもなれる」そう教えてくれたのがHUGプリじゃないですか。これをちゃんと映画でも丁寧に描いてくれてるのは本当に素晴らしい。映画単体で話が上手く作ってあるんですよね。
ここも奇跡の完成度です。好きな作品を貶めるような事はあまり言いたくないけど、プリキュア映画ってドラマ作りが毎回こうは上手く行って無いケースも多いので、今回は上手く行ったケースの方です。そこもポイントの一つ。
そして今度は「オールスターズ」という視点からも考えてみましょう。
「ふたりはプリキュア」の映画としても素晴らしい。
「HUGっとプリキュア」の映画としても素晴らしい。
単品の映画としてのドラマやテーマも素晴らしい。
アニバーサリー記念映画!プリキュアオールスターズ55人全員登場!って事考えたらさ、お祭り映画にしちゃえって発想だって絶対にあったはずなんですよね。たまにネタとして上がるような、「プリキュア運動会」とかにしちゃえば、敵とか出す必要も無いし、みんな笑顔でウルトラハッピーじゃね?みたいなさ。
話題作りとして、今回の映画がギネス申請
「55人のマジカルウォリアーが出る映画」としてギネスに登録されました
www.cinematoday.jpとかやってたけど、まあそれはやっぱりプロモーションとして話題作りの為ですよね。
実際、一言くらいしかしゃべってないキャラが大半ですし、押しキャラが全く目立って無くて不満に思う人も中には居るだろうとは思う。でもね、過去キュアを大切な思い出として、それは大切な記憶として残しておいてほしい、そして残していてくれてありがとうっていうのをドラマの中に、しかもミラクルライト絡みで入れてくるこのアイデアの秀逸さ。
みんなが憶えていてくれたから、こうして一言二言だけでも皆の前にまた戻ってきたんだよって言われたらさ、そんなのもう泣くしかないじゃないですか。一瞬の姿だけでも、こっちの記憶の中では沢山の思い出が勝手に脳内再生されるんですから。ある意味ズルい。でも素晴らしいアイデアだと思う。そしてそんな数少ないセリフや動きでも、ああ、この子はこうだよね、いろんな事があったよねって思わせてくれるチョイスが本当に絶妙。
流石にプリキュア全員とはいかないまでも、最後にまとめてピンク主人公が色々と口にするセリフで、そのシリーズの思い出が一気に蘇って来ます。
全員に同じくらいの分量を、とかじゃなく、ある意味割り切って描いた英断が逆にこの映画の完成度をより引き立たせるんだから、これはこれで良かったんだと思う。そこもまた奇跡的なバランス感覚なんですよね。
これまでも何度か書いて来ましたけど、プリキュア映画ってね、プログラムピクチャーなんです。
普通は映画1本作るって、短くたって2年とかかかりますよ。今はコロナ禍で状況は変わってしまいましたが、それまでプリキュアは1年に2本、半年に1本のペースで作ってきた。これは私の勝手な想像ですけど、予算だって多分TVシリーズ3~4話分とかその程度しかかけてないですよね?おそらくは。(東映特撮もそういう作りでやってますし)
そんな感じで、映画館で定期的にやる事が前提として作られてる低予算のプログラムピクチャーがプリキュア映画です。
これはHUGのTVシリーズの方の話ですが、シリーズディレクターの佐藤順一さん(「セーラームーン」を始め、「夢のクレヨン王国」とか数々の女児物の監督をしてきた人です)が、久々に東映の女児物の監督に就任して、プリキュアは初参加だったので、15年も続いてる作品だから、多少なりとも惰性で作ってる部分もあるのかな、そういうのに活を入れるのが自分の役割かなと思ったけど、実際に現場に入ってみたら異常なほどにみんなモチベーションが高くて、これがプリキュアなのかって驚いた的な事も言ってました。
そう!ファンとしては、どの作品も色々と頭を捻って、子供達に何を伝えるかとか、こんなアイデアなら楽しんでくれるんじゃないかとか、毎回一生懸命頑張って作ってるのがわかるのが私は面白いと思ってます。
勿論、プリキュア映画の中にもこれの他にも良い作品はいっぱいありますよ。でもそんな悪条件の中、奇跡的に色々な面白いものが偶然にも重なって、15周年アニバーサリー記念作品として、それに相応しい奇跡がここに生まれた。
ファンだからこそなのかもしれませんが、私もリアルタイムで劇場で観てビックリしましたもの。こんなに色々な要素が偶発的に上手く重なって、これ以上無いくらい全てにバランス良くまとまった作品がプリキュア映画で作られた奇跡。ホントに奇跡みたいな1本なのです。
20周年記念、果たしてこれを越えるものが作れるでしょうか?プリキュア映画にも、それぞれに違う良さがありますので、また別の視点でこう来たか!と唸らせられるものがあれば可能性はあるとは思いますけど、これを越えるものは難しいじゃないか?という不安も正直あります。
宮本監督は、完全にここでやりきった感があったのでしょう。これの1年か2年後だかに東映を退社して、今はまた別の分野で頑張ってらっしゃる様子。夢を実現しちゃったので、きっと次の目標を立ててまたそっちに向かって走り続けないと、惰性で仕事する感じになるのが嫌だったんでしょうね。いやぁ、やっぱりデキる男は違うなと思いますわ。
さて次は・・・ってあれ?
プリキュア映画現状の30作品、これで全部ブログ上での感想記事を書き終えました。
せっかくなのでそれのまとめ記事でも惰性で書こうかな?
いやぁ、惰性に生きる男、デキる男とは程遠いですね。
近い内に書くので、よろしかったらまたそちらも読んで下さい。
あっ!ボルトになったアムールと、色々詳しめなアンジュ、赤ちゃんになってやかましいほど泣き続けるマシェリとかも大好きです。
とりあえずデパプリのTV放送は、次がおさらいセレクションの5話に戻るので、その次から再開・・・なのかな?再開してくれると嬉しい。
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