THOR
著:ジェイソン・アーロン、ノエル・スティーブンソン、CMパンク(ライター)
ラッセル・ドーターマン、ホルヘ・モリーナ、ティモシー・トルーマン、
マルグリット・ソヴァージュ、ロブ・ギロリー(アーティスト)
訳:ャスダ・シゲル、石川裕人
刊:MARVEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2022年
収録:THOR v4 #1-8(2014-15)
THOR ANNUAL v4 #1(2015)
☆☆☆☆
雷神ソーの新たなる伝説が幕を開ける!
雷の女神《ソー》降臨!
仮面に隠されたその素顔は果たして何者か?
「相応しき者、この鎚を掲げし時、その男にソーの力を与えん」。魔法の鎚《ミヨネア》にかけられたこの魔法により、ミヨネアは自らに相応しき者《ワージー》を選別してきた。《オリジナル・シン》の戦いで自信を喪失したソーは、似気無き者《アンワージー》に身をやつす結果となり、主を失くしたミヨネアは月面に置き去りにされた。そして今、再び鎚を手にする者が現れた。だがしかし、それは人々が見知ったソーではなかったのである!ソーの新たな伝説の幕開けとなる話題作、ついに邦訳!
ヴィレッジブックスのマーベル邦訳本はこれで最後っぽいですね、次刊の予告も無いですし。私は90年代の石川さんの洗礼を受けてアメコミに入った人なので、本当に感謝しか無い。また何時の日にか権利とれたらマニアックな奴でもいいので(むしろそういうのが欲しいわけで)再開してくれる事を願います。
最後の1冊になったのは今度の映画新作でも出てくるレディ・ソーの誕生編。
時系列的にはちょいと古めで、「オリジナル・シン」の後の話。その後は普通に正体書いてましたが、この時点ではこの女のソーは何者だ?というストーリーラインだったんですね。
ミョルニル(ミヨネア)が持てなくなったのはオリジナル・シンでの一言からでしたが、出てくるキャラとかストーリーラインはこれの前までやってた「ソー:ゴッド・オブ・サンダー」誌の流れのようです。映画にも出てくるゴッドブッチャーの話ですが、日本語版は「ソー:シーズンワン」に1話だけ掲載されたのみ。その前のラグナロクも含めて邦訳にも期待したい所ですが、小プロさんどうなのよ?
オリジナル・シンでのソーに突き付けられた原罪は何だったのか気になる所ですが、それはちゃんと解説の方でフォローしてくれてました。読み終わって、もしかしてこれわかんないまま?と思ったけど、その後に解説読んだらそこは明かしてくれててほっとしました。
最後に収録されてるアニュアルの話も、ん?これ増刊号だからこれのみの特別な話や設定なのかな?と思ったら、そこも「ゴッドオブサンダー」誌のエピローグっぽかった。未来のキング・ソーと3人の娘たちとか、何だこれ?って思っちゃった。
オールファーザーであるオーディンとオールマザーであるフレイヤ(フリッガ)とか、結構バチバチやってて、ああなるほどこういう話なのかと。レディ・ソーとかオールマザーの統治など認めぬ!という、古い男性優位社会・父系制に対するアンチテーゼの話なのね。
単純にソーの女バージョンにしてみましたってのは確かにその通りなんだろうけど、ちゃんとジェンダー問題として踏み込んで描いてあるのは物凄く面白い。私はこういう所がアメコミの良さだと思ってますし、その中で元のソー、オーディンサンがどう動くのかっていうのも凄くソーっぽい。
まあ最初はショックでどうしようもなくなっちゃってたけど、ちゃんと状況を理解して、認める所は認めるってのは凄く今のソーらしい。直接では無いにせよ、ちゃんとこういうとこがMCU版とかに影響されてたんだなって思うと、そこもなかなか面白い部分。
MCU版のソーって、中のクリス・ヘムズワースが自由に役を作った事で、昔からの原作のソーとは大幅に乖離してるキャラだよなっていうのがあったけど、こうして読んで行くと、原作と映画では互いに影響を与えあっているんだなぁと思える。
果たして「ラブアンドサンダー」どうなるでしょう?こういうジェンダー問題とかをきちんと描いてくれれば名作になる予感がするものの、タイカ・ワイティティの明るさがどう影響するか見物です。「ジョジョラビット」だって戦争と言う背景をおざなりにしたかと言えばそんな事は無いので、大丈夫だろうとは思いましたけど。
ちょこっとだけだけど、アンジェラも出てきたりして、邦訳で「スポーン」読んでた頃を思うとそれもそれで中々に感慨深い。
ついで言えばそういう個人的なとこで、私は先日青森に泊まりがけで遊びに行って来て、お店が開く10時までの朝の待ち時間にこれ読んでたんですけど、考えてみれば「オリジナル・シン」も同じ状況で数年前に同じ青森で読んでた気がする。なんという偶然。数年前の続きの話をたまたまのタイミングで同じシチュエーションになるなんて!と、ちょっと神がかり的なものを感じてしまった。
その後のアベンジャーズ系の方に出てるこっちのソーは、正直あんまり個性が無いかなと内心思ってたんですけど、こうしてそのオリジン話を読んでみると、ちゃんとキャラとしては深い物があったんだなぁと思い知らされました。
ボリュームもあって読み応え抜群。面白い1冊でした。
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