MARVEL SUPER COMICS SPECIAL ISSUE WEAPON X
著:バリー・ウィンザー=スミス
訳:矢口悟
刊:MARVEL 小学館プロダクション マーヴルスーパーコミックスNo.015
アメコミ 1995
収録:WEAPON X(1993)(MARVEL COMICS PRESENTS #72-84(1991))
☆☆☆☆☆
これこそ真の仕事というものだ。
という事で唐突に古いアメコミをひっぱり出してくる。
私がアメコミにハマった最初の時期の90年代に出ていた小プロ版「X-MEN」シリーズの中で特別編として出た一冊で、超人兵士計画の一環でウエポンXとして改造されたウルヴァリンを描く、非常に思い出深い一冊。
ってまあ唐突でも無くて、先日読んだ「ウルヴァリン:ブラック、ホワイト&ブラッド」でもこれをベースにした話も入ってたので、無性に読み返したくなってきたという所です。
カプコンの格闘ゲームから入り、原作はどんなんなんだろうと興味を持ち始め、当時はX-MENの1巻から読み始めましたが、勿論そこの時点で面白かったのは面白かったんですけど、最初は「へぇ~アメコミってこういうのなんだ」的な感覚で居たんですけど、そんな流れの中で出たウルヴァリンの過去が明かされる1冊がこちらで、アメコミってすげぇ!と心から思わされた特別な1冊。
本編のジム・リー作画、クリス・クレアモント脚本の連続ドラマ的な流れも、今まで体験した事の無いアメコミの世界って感じだったんですけど、1冊完結のこちらの話、衝撃的なアートも素晴らしんですけど、短いモノローグを絵に重ねて、更にその彩色まで含めて、それが絵であり物語でもあるっていう物凄く凝った絵作りにいたく感心したんですね。
これより少し後に触れる事になる、アラン・ムーアなんかもそうなんですけど、絵を中心に見せる日本の漫画の文法と明らかに違いがあって、絵と文字が同列にあって、それをいかに融合させて一つの形にするのか?っていう部分に対しての模索を感じられるというか、手塚治虫とかも変なコマ割とか、読み順とかはたまにやってたりしたんですけど、手塚漫画にしても、そこに習った一般的な漫画にしても、結局はわかりやすさを重視したのか、日本の漫画は基本的な普通の形に収束していった感はあります。
でも当然ながらアメコミはまた日本の漫画とは違う歴史や文脈って言うのがあって、そっちの歴史はそっちの歴史で面白かったりするんですけど、私はまだこれを最初に読んだ時にはそれこそ初心者だったので、そこまで知ってるはずもなく、もう単純に、なにこれ凄い。こんなの今まで見た事無いっていう衝撃でした。
単純に描き込みが細かいとかそういう事じゃ無いんですよこれが。カラーリングや吹き出しの配置とかも含めて、新しいアートスタイルを模索して作っている感が物凄かった。
この辺からね、小プロの邦訳アメコミはマーベル(当時は「マーヴル」表記)DCを問わず、色々な作家が紹介されて行って、アレックス・ロス、ビル・シンケビッチ、デイブ・マッキーン、ポール・ディニ、サイモン・ビズリー、マイク・ミニョーラ等々、挙げればキリが無い程個性的な作家が紹介されていく形になります。
で、もうそこで私は見事なくらいにアメコミ沼にハマる事になる。そんな「絵」の部分だけでなく、元々好きだったスーパーヒーロー物という文脈に政治性や社会要素もストーリーに組み込んであるアメコミと言う世界が、「所詮ヒーローなんてガキ向けじゃん」とは言わせない説得力があって、これは面白いなと、こういうものこそ自分が望んでいた世界じゃないかと、今に至るまでアメコミを読み続けるという結果に繋がる。
まあでもマニアックなものだよね、という自覚は当然あった中で、スーパーヒーロー映画の隆盛があったりして、まさかのマーベルが映画界、エンタメ界の頂点に立つまでになろうとは、当時は思いもしませんでした。よもや、よもやだ!ってこっちが言いたいくらい。
「これこそ真の仕事というものだ。」って劇中のセリフでもなければ、帯の煽り文句でも無く、巻末の解説の見出しなんですけど、もう正しく私は、これこそが本当のプロの仕事なんだって、物凄く感銘を受けた言葉です。
頭の中までいじられて、記憶が改変されて何が本当の自分なのかが曖昧になってわからないというのが当時のウルヴァリンなわけですが、まさしくそこをストーリーにも組み込んであって、時系列とか描かれている事が、要所要所で飛び飛びになってたり、話が二転三転したりするのも、まさしくウルヴァリン気分にさせられたりと、話の筋立ても非常に巧妙。
これって、誰が読んでも楽しめる名作なのかと問われると、必ずしもそうでは無いかなって思ってしまうんだけど、でも私は単純明快でわかりやすく万人が楽しめるものだけが全てじゃ無い、「わかりにくさ」を否定して切り捨ててしまうのは、非常に勿体無いなと感じてしまう方。まあその辺がオールドオタクの性分みたいなものと思ってもらっても一向に構わない。
ちょっとした断片の一つ一つが想像力をかき立てられて非常に愛おしい。「THE END」の後のエピローグの切なさ。そして多くは語らない&描かないからこその「粋」を物凄く感じられて、改めて今読み返してみても、本当に素晴らしい。
これこそ、真の仕事というものなのだ。
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