著:小林雄次
刊:講談社 講談社キャラクター文庫023
2016年
☆☆☆
描きおろし小説シリーズ第4弾!
ククククク……
みなさん、絶望の物語は
もう始まっていますよ!
再び甦った
ジョーカーの言葉に、
プリキュアたちは――。
10年後。みゆきは本屋の店員。あかねは実家のお好み焼き屋で働いている。やよいは人気マンガ家、なおはサッカーチームのコーチ、れいかは中学校の教員になっていた。一見平和な日々を送っていた5人だが、しかし、この世界は何かおかしいと気付き始めた。そこは、ジョーカーは仕掛けた「絶望の物語」の中だったのだ……。
TVシリーズから10年後、24歳のそれぞれに大人になった5人の姿が描かれるという、ファンにとっては見たいような見たくないような、それでも興味は惹かれてしまう面白い設定。
この作品に限らですが、少年少女だった物語の主人公のその後を描く作品ってちょこちょこありますよね。リアルタイムでは無いにせよ、物語の中では永遠だったヒーローやヒロインが、自分と同じように歳をとったらどんな感じになってるんだろうか?というのは何だかんだ言っても興味はあったりしますよね。
特に幼少の頃に見たヒーローなんかだと、それはあこがれでありずっと先の大人の世界だと思っていたけれど、気がついた時には、自分がそんなヒーローやヒロインの年齢を超えていて、ちょっとそこにショックを受ける、みたいなのはありがちです。あの時にあこがれたヒーローみたいに自分は成れているかな?う~んいやぁ現実はねぇ・・・みたいな奴。
ちょっとプリキュアから話は外れますが、この手の路線で一番面白いのはやっぱりフランク・ミラーの「ダークナイトリターンズ」です。バットマンは自分の憧れで理想の父親像だった。けれど自分がその歳を越してしまった。そんなの許せない。だったらもっと壮年の、引退間際の歳をとったバットマンの最後の戦いを自分が描いてしまえ!というモチベーションで新たに描いた物語が歴史を変えるほどの傑作を生み出す結果になった、っていうのは最高に好きな話。
話をプリキュアに戻すと、まあプリキュアも所詮は子供が夢に描くキラキラな理想の姿であって、現実はそう上手くいかねーわな、みたいな事をあえて描いてある。
5人の将来。それなりの生活を送っている風で、そこから全員挫折を叩きつけられるという、え?これ大丈夫?プリキュアでこんなん読まされるってどうなの?みたいな感じは否めません。いや、ある意味では面白いけどさぁ・・・みたいな。
勿論、これはジョーカーの罠でした的な示唆は要所要所でわかるようにはなってるんだけど、その罠を打ち破るカタルシスとかそういう為の仕掛けじゃ無く、そこを方便にして、リアルな大人像みたいなものをあえて描くという、ある種の実験というか、そういうスタイルの話だったりする。
「魔女見習いを探して」なんかでもやってたパターンですね。社会に出て、夢や希望だけじゃ無く、現実も突き付けられて、なかなか上手くはいかないなぁみたいなのをあえて描く事で、大人になった視聴者に親近感を持たせるというタイプのお話。
「スマイル」なんかは特にね、ギャグ多めの明るい作風でしたし、大人の考えでは無く、中学生の考えや気持ちを重視したいっていう作風でしたので、そこ考えるとこの小説のギャップはなかなかのものです。
いやTVシリーズでもね、終盤のバッドエンドプリキュアとか、自分のネガと向き合う話とかもあるにはありましたが。
www.youtube.com「ネガティブな私、どいてぇ~っ!」っていうキュアハッピーの、というか福圓さんの魂の叫びは私大好きですし。
ただやっぱりプリキュアも枠としては子供向けのヒーロー番組という大枠で言えば、子供の頃に夢中になって見てたけど、何時の間にか卒業して、大人になる頃にはもうプリキュアの事なんか忘れてる、というのが大半の人なわけです。
そんな中でね「魔女皆習い」とかこの小説スマイルとかに触れてね、自分も大人になったな、みたいなのを重ね合わせた上で、それでもかつて好きだったヒーローヒロインに再度また励まされる、みたいなのを狙った話なのでしょう。
ただ一つ気になるのは、最終章でね、ジョーカーの夢の世界だったというのがわかって、再び中学生の時に戻るんだけど、姿は夢の中の大人のままで「24歳の大人プリキア」とかわざわざセリフで言わせたりしてるんですが(イラストこそ無いですが、何とエターナルフォームとか新しい設定も作ってたりする)、言いたい事は十分にわかる。え?大人でもプリキュアになれちゃうの!?みたいなサプライズをやりたかったんでしょう。
でもね、私は重度のプリオタですし(つーかこんな小説版まで読む人なんてオタクしか居ないと思うけど)「HUGっとプリキュア」を通り過ぎてしまうとね、え?そこって驚く所?と思ってしまうのです。HUGは2018年ですので、この小説が世に出た時にはまだスタート前です。ご存知の通り、HUGでは「大人だって何でも出来る、何でもなれる」を掲げて、ラストでは老若男女誰でもプリキュアになれると声高らかに宣言してくれました。
勿論、この小説の言わんとしてる事というか、普通は大人になってもプリキュアとか言わないよなっていうのはわかる。世間的にはむしろそれが普通だとは思うし、逆に言えばね、「HUG」のムック本のまとめの時にも書いたけど、そこを信じる事の大切さや価値をあえて声高らかに主張したのがHUGという作品の特色でもあったわけで、そこの違いや流れ、変化みたいなものも含めて面白いなと思ったりします。
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