著:大野敏哉
刊:講談社 講談社キャラクター文庫024
2016年
☆
描きおろし小説シリーズ第5弾!
「聞こえるか、この悲しい音たちが……」
不気味な唸り声、
吹きすさぶ風の音に
プリキュアたちは!?
中学3年になった響、奏、エレンの3人と、メイジャーランドのアコは、それぞれの目標に向かって忙しい毎日を送っている。特にドイツへのピアノ留学が決まっている響は、王子からレッスンを受けていた。ところが、がんばる響の耳に異変が起きた。あらゆる音が今までと違って聞こえるのだった。何かが違う。一人悩む響をあざ笑うかのように、不気味な黒い雲が加音町の空を覆っていた……。
小説プリキュアシリーズ、スイート編。
「スマイル」も、ファンはこういうのを望んでるものかな?感が多少ありましたが、もうそれ以上に、一体これ誰向けに書いたんだ!?という感じで、シリーズ最大の問題作になってます。
250ページくらいあるのですが、プリキュアになって活躍するのはその内5ページくらい。あとはもう最初から最後まで延々と、みんながギスギスして、お互いがお互いを傷つけあうような、ファンならちょっとショックを受けてしまうような描写がただひたすら続く。
笑えるような場面も無ければ、もうひたすらずっと暗くてモヤモヤした描写が嫌になるくらいホントにず~っとそればっかり続く。
一応はね、黒幕みたいなのが居て、それが最後の最後に実はこうでした的な部分が明かされる、ミステリー要素もあって、そのための前振りみたいになってるような所もあるんだとは思う。でもさ~、読んでて楽しい所が全然無くて、本当に辛くなるのです。
TVシリーズの方のスイートも、序盤はとにかく響と奏が喧嘩ばっかりしてて、そこが見ていてツライとはよく言われます。というか私も正直、序盤は結構きつかった。キュアビート誕生辺りからは一気に面白くなるんですけど。
ただこの構成もね、後から考えるとその理由はよくわかるのです。メロディとリズムは、二人の力を合わせる事でハーモニーパワーで変身できる。初代とかと同じで単独変身は出来ない設定です。すれ違いという前振りがあって、山場で力を合わせて変身する、という作劇上の構造があるから二人は毎回喧嘩してるんです。そして毎回力を合わせる。そういう作りになってる。
よく、2週目は安心して見てられる夫婦喧嘩のじゃれ合いみたいに見えるので、むしろそこが楽しいって言われるのも、よくわかる話です。
今回の小説も、ミステリー構造だから、最後の種明かしがあるまでは我慢・・・という構造上の問題もあるのかもしれませんが、それにしたって読んでてツライわ!と、つい投げ出したくなるレベル。
久々にスイートのみんなに再会出来て、凄く嬉しいなってワクワクしてたら、こんなどんよりした重たい話を延々と読ませられるって、実際とてもキツかった。
作者の大野さん、TVシリーズでのシリーズ構成の人なので、作品に対する愛着が無かったとかそういう事では無いはずです。愛着があるからこそ、作品のその後を小説で書くに当たって、当たり障りの無いものではなく、大人への一歩を歩み始めた、これまでとはちょっと違う皆やその関係性を描きたかったんだろうなとは思うのです。TVシリーズからはほんのちょっとだけ大人になった姿、みたいなものを描こうとして、その中で作者の思想的な所で、変化や痛みもあってこそ大人へと近づいて行くんだよ的な物を描きたかったんだろうなとは思う。
思うんだけど・・・いや流石にこう、楽しい部分も一切無いっていうのはなんだか色々とツライです。子供向けじゃなく、大人向けにならこういう話も許されると思って描いたんでしょうし、元の作り手が、成長という部分でこんな風な事を考えているんだなというのは興味深い部分ではあるのですが・・・う~ん、これはちょっと。
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