NICK FURY,AGENT OF S.H.I.E.L.D.
著:ジム・ステランコ、スタン・リー(ライター)
ジム・ステランコ、ジャック・カービー(アーティスト)
訳:石川裕人、今井亮一
刊:MARVEL ヴィレッジブックス
アメコミ 2018年
収録:STRANGE TALES #151-168(1966-68)
NICK FURY, AGENT OF S.H.I.E.L.D. #1-3,5(1968)
☆☆☆
コミックアートの一つの頂点がここにある!
世界的なブームだったスパイアクションにヒーローコミックを融合させた意欲作!
アーティストはわずか3年余りの活動期間ながら、コミックスの歴史に鮮烈な足跡を残したジム・ステランコ。
ジャック・カービーに強い影響を受けながらも、サイケデリック・アート、オプティック・アートなど、当時の最先端のアートを習得した彼が、その持てる力の全てを投じたのがこの作品。
アメリカンコミックスの表現方法に今も多大な影響を残した必読の一作!
通販限定「マーベル・マイルストーンズ」として出た中の1冊。
他のはXメン2期開幕、アベンジャーズはクリー・スクラルウォー編、FFはギャラクタス襲来編と、ユニバースの歴史として重要な部分が出てましたけど、こちらの「AoS」はお話としてはそういう重要イベントではない。
読み終えても、う~んちょっと微妙かも?何でこれをわざわざ出した?訳者の趣味枠なのかな?とか思って解説を読むと、アメコミの歴史的に重要な位置にある作品だったようです。
アーティスト兼ライターであるジム・ステランコさん。たった3年間の活躍、今回収録されている分でほぼ全部になりますが、これを残してコミック業界をさっさと通り過ぎて行ったという事らしい。元々がデザイン畑の人だったようで、コミック業界に興味を持ち、最初はカービーのスタイルをインカーとして学んだ後に、オリジナリティを発揮してグラフィカルな画面や、映画的演出を独自に開発していったと。
当時は賛否があったものの、後には実はそこに影響を受けたというアーティストが多数。いわゆるアーティストが褒めるアーティスト的な部分もあり、単純に斬新な演出というのもあって、色々と興味深い。
例えば個人誌になってからの1号目の冒頭。セリフ無し16分割の2ページ。今の視点で見たって、なんてことない構成だけど、これ以前はこんな描き方をする人は居なかった。
古いアメコミを知ってる人には理解しやすいと思うけど、アメコミは絵物語の進化としてのコミックなので、ネーム(セリフや文字)が物凄く多いし、一コマ内でいくつもの感情を含ませてたりするのが普通だった。それが当たり前の文法としてある時代にこういう事をしてくるだけでも、物凄い革新的なアートスタイルだったんだろうなと思う。
他にも、コミックにはあるまじき濡れ場シーンを暗喩で描くとか言う変わったシーンもありますし、セオリーに囚われずに自分が描きたいものを自分のオリジナリティで描くというのは面白いし、かのアラン・ムーアですら影響を受けたというのもわかる話です。
あとは時代と言えば「007」の全盛期だったのもあり、特殊なガジェットを使いこなすスーパースパイとして、マーベル版007的な感じで人気を博したというのもある様子。その辺は読んでて凄くわかります。
逆に今の視点で見た時は、現在のMCUで暗躍中、コンテッサ・ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・ラ・フォンテーンさん(名前が長い)が今回のストーリーで初登場。更には、ジミー・ウー捜査官が今回からシールド入りする等、マーベルの歴史を感じると言うか、MCUが新しいものから古いものまで色々な所からネタを引っ張ってくるもんだなと感心する事しきりです。
日本の漫画もそうなんですけど、単純に話が面白いとかそういうのだけでなく、漫画カルチャーの表現の進化史みたいに、文化として俯瞰して見る面白さっていうのもある(手塚がディズニーに影響を受けて映画的な演出を漫画に取り入れて行った進化の形もあれば、その影響を受けない劇画の流れとかもあったり的な)そういう視点で見た時のアメコミの重要作の一つであるこの作品をこうやって日本語で読める有難味。貴重な1冊です。