WOLVERINE:ORIGIN
著:ポール・ジェンキンス(作)
アンディ・キューバート(画)
リチャード・アイザノフ(彩色)
訳:光岡ミツ子
刊:MARVEL 小学館集英社プロダクション ShoProBooks
アメコミ 2009年
収録:WOLVERINE:ORIGIN #1-6(2001-2)
☆☆☆
X-MENシリーズ最大の謎(タブー)
ウルヴァリン誕生秘話!!
惨劇の中、
呪われた少年が
牙を剥く――。
ついに明かされる、ウルヴァリン誕生の真実!
X-MENシリーズ最大の謎に挑んだ
記念碑的作品、待望の初邦訳。
プロット制作過程、キャラクター設定、
鉛筆画アートギャラリーなどの特典資料も満載。
という事で「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」に合わせて、かなり昔に出たこちらを再読。
X-MEN系の記事で何度か触れて来ましたが、私はカプコンゲーが切っ掛けで、そこから原作はどんな話だろうと読み始めたのがアメコミにハマる切っ掛け。X-MENには多大な思い入れがあります。
その中でね、今も昔も一番人気なのがウルヴァリンな訳ですが、やっぱり私もウルヴァリンが一番好きなキャラでした。
「ウエポンX」で改造された過去が描かれましたが、ローガンとしての出生なんかは明かされず、そのミステリアスさも魅力の一つだったわけです。
ヒーリングファクターのおかげでどうやら寿命も長く、遥か昔から生きてるらしいとされ、少なくともキャプテンアメリカが氷付けにされる前、第2次大戦時にウルヴァリンとキャップが遭遇するエピソードなんかも描かれてました。(何故かブラックウィドウもそこに居たりしたのですが。)
下手したら、そもそもローガンは人間ではなく、それこそ本物のウルヴァリン(グズリ)が人間に進化したものじゃないか説とかまで当時はあった気がします。改造手術による記憶の混乱で、自分自身も憶えていないというのがミソ。
果たしてウルヴァリンとは、ローガンとは何者なのか?誰も本当の事を知らないと言うのがキャラクターの魅力にもなっていたわけです。
こういうのはね、下手にオリジンなんか付け加えると、ミステリアスさを失い、逆に魅力を失ってしまう。スパイダーマンと共にマーベルの人気の1位2位を争うキャラでしたから、そこはあえて触れない部分、直接は描かず匂わせ程度で引っ張り続けなければならないという、ある種のタブーの領域であったと。
じゃあ何故そのタブーを解禁し、これが突然描かれたのか。
1997年にマーベルは会社としては一度倒産してます。その後、玩具会社のトイビス社が権利を買い取り、マーベル・エンターテイメントとして再建。
何か再び浮上して行く為の話題作りが必要だったと。だったら長年引っ張ってきたウルヴァリンのオリジン(誕生秘話)こそがマーベル最大のネタじゃないか?それをやらずにどうする、となったわけですが。そこはもろ刃の剣。
・・・もしこれが受けなかったら?
当時のマーベルはアベンジャーズの人気は低く、X-MENこそが看板タイトルでした。その牽引役である一番人気のウルヴァリン。確かに話題にはなる。けれど、そのミステリアスさという大きな魅力を失えば、逆に失速してしまうのでは?看板タイトルのX-MENが沈んでしまえば、せっかく持ち直した会社がまた傾いてしまう事になる。あまりにもリスクが大きい賭けだった。
それでもあえてこの企画が実現したのは、映画で先に自由に描かれてしまうよりも、コミックスの方できちんとやるべきだ、という声が上がったからだそうで。
例えば同じX-MENのローグの本名のマリーという名前も映画で設定されたものが後に原作にも反映されたという形になってます。
有名な所では、DCのハーレイクインがアニメ用に作られたキャラながら、人気が出てそれが原作コミックスの方にも取り入れられた的な例はいくらでもある。マーベルならそれこそウルヴァリンの娘的な立場のX-23(ローラ・キニー)なんかもそうです。
しかも今なら、映画もマーベルスタジオとして自社で作ってるので、そこからの逆輸入とかは普通にあるし(コールソンなんかもそう)、コミックを売ろう映画を売ろうと言うより、キャラクターIPとして全体的な効果が出ればそれでOKという風潮。
ただこの時は、まだその10年前。映画X-MENを作っていた20世紀FOXは今となってはグループ企業ですが、当時はまだただのライセンス契約の関係でしか無かった。コミックを作る方は、自分たちの作品が映画化されて嬉しい半面、コミックはコミックで負けてられないぞ、というライバル意識もあったのでしょう。
ついに禁断のネタに着手したのがこの作品という事になります。
結果としては・・・まあ実際に結構売れたっぽいですが、内容に関しての評価は正直微妙な所。私も日本語版を楽しみに待ってましたが、う~んこれはもしかして描かない方が良かったのでは?と正直思ってしまった。「ウエポンX」が凄く良かっただけに、え?こんな普通の話だったの?っていう。
勿論、そこは期待値が上がりに上がった状態。十数年待たされてこれ?という肩すかしになってしまったのは仕方の無い所かもしれません。
こうして今読み返してみると、結構考えて丁寧には作ったんだろうなと。派手さが全くないのが印象の悪さに繋がってるとは思うのですが、後のウルヴァリンには全く結びつかないひ弱で真面目そうなジェイムズ・ハウレット少年がある時、能力に目覚めて、数奇な人生を送っていく中で、徐々に我々の知っているウルヴァリンに近付いて行く、と、上手くは作られてる。
逆にウルヴァリンっぽい人が周りに居たり、最終的には悲劇的な結末になりつつ、でもそれがローガンの人生なんだよなと思わせてくれたり、最初に読んだ当時はガッカリしかなかったのですが、今読み返すと、結構涙が出そうになったりして、これはこれで決して悪くないなと思えました。
正直、その挑戦こそ評価されたものの、ここからの巻き返しはならなかった形ですが、映画よりも前にコミックの方でもアベンジャーズの人気が徐々に復活していく形で、そのきっかけがスパイダーマンとウルヴァリンの2人をアベンジャーズ入りさせるという感じだったのが色々と面白い。ピンで売れる二人だったので、あえてアベンジャーズ入りは避けてたけれど、もう成り振りかまってられんとばかりに。
ただそこから実際に一度は倒産した会社が世界一にまで登り詰めるというのがね、非常に面白い部分です。
これの日本語版が出た時もねぇ、邦訳アメコミほとんど出なくなってた時期なんですよ。それが今や、追いきれないほど出るくらいまでになって、マーベルというブランドがそれなりに知名度も出れば、集合物の事をアベンジャーズ的なって言われるくらいまで世の中に浸透したわけですからね。生憎ヒーリングファクターは持ち合わせてはいませんが、長生きはするものです。
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