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機動戦士ガンダム バンディエラ

機動戦士ガンダム バンディエラ(1) (ビッグコミックス)

MOBILE SUIT GUNDAM BANDIERA
著:加納梨衣
刊:小学館 ビッグコミックス(スピリッツ) 全6巻 2020-22
☆☆☆☆

 

「サンダーボルト」「アグレッサー」らに続く小学館ガンダムコミック。
最近は集英社ガンダム連載始まったし、井上敏樹脚本のものも始まったりと何か色々収集付かなくなってます。

 

時代背景は1年戦争時、サッカーのスター選手だったユーリー・コーベルがジオンのプロパガンダとして利用されながら、1年戦争を生き抜くといった話。

ガンダムとサッカーという一見異色な組み合わせで、読み始めた時は私もちょっとこれはどうなんだろうと思いましたが、実際読み終えてみると、メチャメチャ面白い作品でした。

 

因みにバンディエラとは、イタリア語で『旗手』『旗頭』を意味する言葉で、サッカーにおいては、そのチームを象徴する選手みたいな意味のようです。

 

宇宙世紀においてもサッカーのプロリーグ(ギャラクシーリーグ)があって、サイド3のオクラント・レプスのエース選手だったユーリー。しかし、チームの他の選手が皆戦争の犠牲になり、一人生き残ったユーリーがジオンに入隊。MSパイロットとなり、仲間の無念を晴らす為に彼は戦う、というストーリーをつけられて宣伝に利用されて行く、と言う流れ。

 

ただの素人では無く、一流のアスリートなので、戦場でも空気の流れや動きを読んだりと、ニュータイプに近い働きをし、ただの虚像とは思え働きをしていくと。いくつかの任務の先に、連邦の中に物凄い気迫で迫ってくるジムと遭遇、それはかつてのサッカーでのライバル的存在でもあるシモン・バラだったと。

 

え~!そんな都合良い展開ある?とは思うけど、まあそこは漫画ですし、劇的な流れがあってナンボです。かつての恩師(監督)とまで戦場で肩を並べて戦うとか、そこら辺はリアリティうんぬんではなくどこまでもドラマチックに。

 

最初は、ただ作者がサッカーが好きだから、自分の得意分野を生かしつつ的なものかと思ってたのですが、テーマの抽出が上手いし面白いなと。

 

わかりやすい所で、マ・クベが結構大きなポジションで話に絡みます。
マさんって皆さんどんな印象をお持ちでしょうか?私はガンダムに入ったので何気にSDガンダムの影響が大きいので、マクベと言ったらよくわかんない壺がセットで、SDガンダム界隈だとどちらかと言えばギャグ的な使われ方をしていて、そのイメージが強かった。

実際TV版なり劇場版なりを見ても、ツボがうんぬんって当時はあまりピンと来ませんでした。


で、後年になってですよ、安彦先生がジ・オリジンを書いてる中で、やたらとマ・クベを褒めてたんですね。こういう存在を仕込んでいる富野はやっぱり侮れないと。

もしかしてマさんにもモデルとか居るのかどうかまでは私把握してませんけど、ジオンって普通に第二次大戦時のドイツ軍がベースにあるわけですよね。いかにも戦争をしたい人っていう中で、所謂文官的な匂いを持つマ・クベというキャラを置いておくこのセンス。

 

普通に考えると、他の後の外伝とかもそうですが、同じ軍の中でも幅を持たせるのならタカ派ハト派みたいに描きがちですよね。でもそういうのとも少し違う視点を入れてあるという斬新さや視点の面白さ。安彦先生もそこが気に入ったから映画版「ククルス・ドアンの島」でもマ・クベにそれなりに尺使ってたわけで、そういう視点がこの「バンディエラ」という作品にもある。

 

ククルス・ドアンの島」の感想の時にも書いたけど、TV版のドアンって戦争の一面を描く中での脱走兵の話も作れるんじゃないかっていう感じで描かれたと思うんですけど、映画版の方ではそこから更にアレンジを加えて、残地諜者というあまり聞き慣れない役割を描いた。

「戦争」といっても、色々な側面や視点、テーマはいくらでも設定できるわけです。ただドンパチやるのだけが決して戦争じゃ無い。それは多種多様なテーマを掲げた戦争映画が色々あるのと同じで、ガンダムだって描き方は無限にあるはずですよね。

 

少し話はズレますけど、韓国って徴兵制度があるから、少し前にニュースで人気のアイドルグループの徴兵が免除されるか否かみたいなのやってましたし、そういうのは昔から韓国の映画俳優なんかでもそういう問題は見てきました。まあ別に韓国は戦争してませんけど、見知った人気俳優とかが従軍して銃を構える。そういうの見た時に、どんな気持ちになるものでしょうか?

もしこれが日本なら?と考えてみた時にどうでしょう。あこがれのスターが祖国のためとか言いながら、人を殺すのを、支持するものでしょうか?勿論、右傾化してる日本だから支持する人が多いんでしょうけど、そこまで極端に傾いてるわけでもないので、そういうのはあまり好ましくないな、と思う人も中には居るのくらいは理解できるのかなと。


この「バンディエラ」の劇中でも、サッカーチームの同僚が、自分はこの戦争には賛成しない。サイド6(中立地帯)に亡命して反戦運動に参加するつもりだ、なんて言うシーンもあるんですよね。この辺りが凄く面白い。

 

徴兵やプロパガンダとか、面白いテーマなのにガンダムではそこまで踏み込んだりしてないですよね。そんな一面が入ってるだけでも十分に面白いし、それこそマ・クベが出るのは文化としてのサッカーとかにちゃんと理解がある、という役割です。

 

それでいて、ユーリーの心の変化なんかもちゃんと描かれるし、ヒロイン的ポジションのセリダが実はユーリーのメンタルケアの任務を受けていたという最初の登場から、正直そこ上手く設定として機能して無いな、これキャラ立て失敗して無い?と思わせつつ、終盤はまさかメンタルってそっちの方かよと結構ビックリ展開でした。ヒロインが上手く生かせなかったから予定変更したとかじゃないよねこれ?最初からそういう意図で仕込んでたのなら、上手く構成を考えてあると感心します。

 

対する連邦のライバルキャラ、シモン・バラ。単行本の表紙にもなってるけど、何とこいつがテム・レイに近づいて、フルアーマーガンダムに乗る事になると。
う~ん、ガンダムが出てくるのはインパクトあるけどさ、せっかくジオンがメインでやってるんだから、ガンダムの大安売りみたいなのはやめてほしかった。個人的にね、外伝系にはガンダム無しでやってほしいと思ってる方です。

 

ただどうしても連邦側はラスボスとかライバルポジションのMSが居ないのが難点。ガンダムとジムの間に何かキャラ立ちした高級量産機みたいなのが居れば良いんですけどねぇ。ジオンだったらゲルググとかMA、或いはカスタム機とかで十分にボスっぽく出来るんだけど、連邦はどうしてもガンダム系になってしまう。ただのやられメカではなく、鬼神の如き強さを保ってくれたので格を下げる事もなく、決して描き方は悪くないのですが。


MS話をすると、ユーリの最終機体がヅダの改良機。
劇中でも説明されますが、統合整備計画でしたっけ?汎用部品の企画を統一する事で整備性を上げるってやつ。そのおかげでミキシングビルドみたいな物も作れるようになったらしく、ヅダをベースにしながら、マ・クベからの特別支給という形なので、手足がギャン。しかも普通のギャンじゃなく、肩の形状がギャンクリーガーになってたりする。


ギャンクリーガーはゲームの「ギレンの野望」シリーズが初出で、ゲルググとギャンのコンペでギャンの方を選ぶと発展型として作れる機体。歴史のifにしか存在しないMSなんですけど、本編中でも、ギャンの試作機の完成の後、更に改良型まで制作中だったものの、コンペに負けた事で製造途中で破棄。それを流用したのがヅダ改「レプス」とか考えるとちょっと面白い。

 

その上、脚部の外装が何故かイフリート改のものになってて、そこにビームサーベルを仕込んである。サッカー選手だから足技が得意という能力に合わせての物だろうけど、いやサッカーって相手への物理攻撃の為に蹴るわけじゃねぇだろとか思いつつ、まあ器用な足技である事に違いはないし、そもそも脚部にビームサーベルを仕込むって宇宙世紀に何か他にあったっけ?形状は違うけどイージスにジャスティスガンダムとか、クロスボーンガンダム系が脚部にヒートダガーを仕込んでるくらい?今更だけど、意外と斬新じゃね?とかちょっと感心してしまった。

 

イフリートついでに、終盤出てくる強化人間用の機体が、サイコミュ試験用ザク風でちょっと違うけどこれ何だ?どっかで見た事あるような?と思ったら何とガンダムエースブルーディスティニーに搭乗していた、マリオン用の「サイコミュシステム初期試験型ザク」というやつがそのまま出てくる。流石に許可はとっただろうけど、コミック用に設定された奴なので、そこのリンクはちょっと意外性がありました。フラナガン機関にあったやつなので、マリオンが使えなくなった後に持てあましてた感じでしょうか?

 

メカで言えば、前半は普通のジムやザクっぽいけど、後半のズゴックがオリジン版だったり、FAガンダムやジムナイトシーカーもMSDっぽかったり、結構世界感がどこの世界線かよくわからんかったりはする。まあFAガンダム持ちだすと、とたんに信憑性が疑われるのはこれに始まった事では無いけれど。

 

そんな宇宙世紀の整合性うんぬんなんていう下らない部分に拘るよりも、テーマの選び方や面白さだけでもそんな犬も食わない整合性の百億倍くらい価値があると私は思うので、「バンディエラ」素直に良い作品でした。

機動戦士ガンダム バンディエラ (6) (ビッグコミックス)

 

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