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機動戦士ガンダム ヴァルプルギス

機動戦士ガンダム ヴァルプルギス(1) (角川コミックス・エース)

MOBILE SUIT GUNDAM VALPURGIS
漫画:葛木ヒヨン
脚本:冬海レイジ
刊:角川書店 角川コミックス・エース 全10巻 
2018-22年(連載2017-22)
☆☆☆★

少女を乗せたジ・Oが白きガンダムになる!!

 

2018年からガンダムエース誌でスタートした「ヴァルプルギス」もようやく完結。何故かわかりませんが、設定面が詳しく明かされないまま終わったとういうのもあって、前日譚の「ヴァルプルギスEVE 覚醒前夜」がその後短期連載スタート。ていうか何だこのタイトル。作者の人「まどマギ」とか好きなんでしょうか?

 

作画の葛木ヒヨン氏的には、作中の時代背景こそこの後の時代の話になりますが「アクロスザスカイ」「ラストサン」に続いて3つ目のオリジナルガンダム長編。ただ前2つと違って、今回は脚本は別の人なのですが、その差もあるのか割とドラマとしては読みやすくなった印象。

 

連載時は流し読み程度しかしておらず、正直あまり良い印象は持ってなかったのですが、単行本で纏めて読む分には結構読みやすく、先の読めない展開や、ドラマとしてはそんなに悪くない感じではありました。

 

ただねぇ、設定としてこれはちょっといかがなものかと。
グリプスアクシズ戦役(要は「Z」「ZZ」の時代)が終わった直後。シロッコの生まれ変わりらしき人や、何故か死んだはずのハマーンが出てきて、え?これはどういう事?という感じで話をひっぱる。

 

何これ、死んだ霊を呼び出すイタコ降霊術ガンダムなのかこれ?
ガンダムUC」で福井がトチ狂って言いはじめた「ニュータイプの正体は時間操作能力スキルを持つ超能力者。これで過去のガンダムの全てのつじつまが合います」という、トンデモ言説の延長にある作品なのかなこれ?という感じでしたが、その前の段階でした。

 

フル・フロンタルがシャアが宿れるようにした器としての強化人間だったように、今回のシロッコ風の少年はシロッコが万が一の為に用意していたクローン体でした、という話。ハマーンの方も当然本人では無かった。

 

本編に出ていたあのサブキャラがこっちの話とリンク枠は、シロッコの副官のハイファン。まあ、あのシロッコに艦長を任されてるくらいの人でしたし、確かに本編では特に生死が描かれるわけでもなかったので、そこが残党を率いるという発想はわからないでもない。

 

でも、ネオジオンの方ならまだしも、シロッコ木星船団がクローン技術を使っていたとか、「体を通して出る力だと?そんなものでMSを倒せるものか!」っていうシロッコがオカルティックな準備をしていたとか、ちょっと考えにくい。

 

しかもガンダムタイプを作ってたというのも微妙な所。一応、劇中では本来はティターンズガンダムマークIIを作ってたわけで、それを象徴としようとしていたのを奪われたので、シロッコにもガンダムの制作を依頼したっぽい的な事が若干触れられてはいる。

 

ただこれがねぇ、ジオの外装の中からガンダムが出てくると言う謎のおもしろ仕様。ドムの中からビルドバーニングガンダムが出てきた!みたいなオーバーボディ方式なんですよねこれ。ジオがガンダムに変形するんじゃないんですよこれが。でもその割に、顔だけフェイスガードが閉じてアンテナも収納してジオ顔にも変形するという中途半端さ。メッサーラとの合体も含めて、ビルドシリーズなら面白いメカだけど、宇宙世紀としてはこれどうなの?感が否めない。

 

細身のキュベレイとか、デンドロビウムがMS形態に変形とか、ギャプランガンダムとか(それもう「AOZ」にも居るけど)、ビルドシリーズのネタとしてはカッコいいし面白いデザインなんだけど、なんか色々とぶっ飛んでるなぁと感じます。

 

と言っても、私は設定重視とかするタイプでもなかったりするので、こういうの笑って済ませられるし、テーマやドラマが面白ければそれで十分ではある。思ってた以上には読めた作品ではありましたが、手放しで喜べるかと言うとう~んこれはちょっと。


意外と面白くはあったんですよ。途中で死ぬ死ぬ詐欺かまして結局何とも無いセイン大尉とか、描いてる内に作者の思い入れが深まって筆が乗っちゃった結果だろうなというのは読んでて楽しい部分です。前半のZIIの活躍とか凄く良かったですし。後半のデルフィニウムもね。

フレドリカ艦長とか、ファーヴニルパイロットで強化人間のアリーゼとかも、話を作っていく上できっと勝手に動いちゃったのでしょう。そう言う所は素直に面白い。

 

たださぁ、アクシズショックを合理的に解釈しようとした「UC」と同じで、あのジオの動きを止めた奴をグリプスダウンとか称して技術的にどうこうとか深堀りするより、やっぱりどこか浮世離れ足したシロッコとは何だったのかを再解釈するみたいな話の方が面白かったんじゃないかという気がします。多分、シロッコってどんな人?と質問して、こういう思想の人だったよねって説明できる人は少ないと思う。いや、もしかしてそれをやったつもりなのかもしれませんけど。

 

カルト集団とかじゃなくてさぁ、例えばシロッコのモデルは中東の石油王なわけじゃないですか。「石油」じゃ無く、宇宙世紀らしく「木星のヘリウム採掘」にしてあるけれど。
ドバイの高層ビルとかもそうですし、政界、経済の世界とかでも色々と影響力あったりするわけじゃないですか?現実の世界でも。なんかそういうのと絡めて、現代的なシロッコの再解釈とかあればそれはそれで凄く面白いキャラだとは思うんですよ。実はシロッコにはこういう側面もあったっていうだけでも面白くないですか?

 

例えば「ジョニー・ライデンの帰還」でゴップの有能さに焦点を当てたじゃないですか。あれ、斬新だし私の中でも凄く面白い部分だったんですよね。
これまでは無能な官僚の象徴みたいな人でしたけど、実際の政治ってこういう人の方が多くてそれが実状だったリするし、そこにリアリズムや現実との接点を感じられて凄く面白かった。

 

カルト教団もある意味、今では時事ネタみたいなものではありますが、こういう漫画的なものではなく、現実の社会と結び付いた問題として描いてくれた方がずっと面白いんですけどねぇ。

 

そもそもヴァルプルギスってドイツとか北欧の文化で、キリスト教圏で行われている行事じゃないですか?そうじゃなく、そこでイスラム文化とかやった方が面白いのになぁと思ってしまう。ガンダムという狭い世界の中の設定遊びでしかないよりも、そういう社会や文化を重ねるだけでぐっと深みが増すと私は思う方なので。というか富野がそういう事をやってるわけですし。

 

設定遊びは設定遊びで面白い部分はあるんですけどね。私もガンダムオタクですから。今回、実は私が一番盛り上がったのはサイコフレアという秘密兵器でした。おお!何これプロトタイプエンジェルハイロゥじゃん!そうか木星人の発想なのかあれ、っていう感じで面白いネタでした。

 

元々、最後のタイタニアIIは予定外で入れたそうですし、無理矢理入れたものより、最終決戦感があって良かったです。
そもそもタイタニア「2」って何だよ?タイタニアって「Gジェネ」で設定されたジュピトリスの最終MSですけど、その後何かの作品で消化しましたっけ?2って名前にしちゃったらどっかに1も居る事になるじゃん。後々他の作品で使えるようにわざと残したんでしょうか?

 

最初に書いた通り、前2作と比べると思ってた以上には面白かったんですけど、良い部分悪い部分両方ある感じの作品かなと。

 

公式外伝として始まった「ラストサン」がその後ほとんど拾われて無い気がしますが、オーヴェロンはゲームにも出たみたいですし、そこそこの分量もあるので(劇中の時間はさほど長くないのですが)
U.C.0089「ヴァルプルギス」
U.C.0090「ジョニー・ライデンの帰還」
U.C.0092「ムーンガンダム
と並びも良い感じなので今後上手く生き残っていく可能性はありそう。
単純にメカデザインはカッコいいと思いますし。

 

機動戦士ガンダム ヴァルプルギス(10) (角川コミックス・エース)

 

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