僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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少女マンガのブサイク女子考

少女マンガのブサイク女子考

著:トミヤマユキコ
刊:株式会社左右社
2020年
☆☆☆☆

 

発売当時に「アトロク」で特集をやってて、それがおもしろくて気になってた本。

www.tbsradio.jp

マンバ通信連載「トミヤマ先生!少女マンガにとってブサイク女子ってなんなんですか?」の2017~2020年の記事に加筆修正を加え、巻末には能町みね子との対談を追加してまとめたもの。

 

ルッキズムという言葉がここ1~2年で凄く浸透してきた印象。
言葉じたいは昔からありますし、意識高い系の人とかはともかく、ラジオでお笑い芸人みたいな人が、最近はルッキズムと言って人の容姿をいじったりしたらダメなんですよみたいな事を言ってて、あれ?お笑いの人とか芸人とか人を差別して笑うのが常だと思ってたのに(だから私はお笑いの人が嫌い)、そういうとこにまで浸透してるんだなぁと感心した憶えがあります。

 

東京オリンピックの開会式の時に、渡辺直美を豚扱いしようとして問題になった、辺りから色々と世間にも浸透したのかなという気がします。

 

でもってそんな容姿についてもそうですが、少女マンガと言う文化の中で、「ブサイク女子」はどんな描かれ方をしてきたのか?を具体的に27作品取り上げて、様々な角度から分析、考察してあるのがこちらの本。
作者のトミヤマ先生、実際に大学教員として少女マンガ研究の講義なんかをされてる方のようで、年代的にも昭和時代の少女マンガの初期の頃から、近年まで幅広く取り上げられてるし、少女マンガをほぼ知らない私でも知ってるような、庵野モヨコ、岡崎京子山岸涼子萩尾望都鈴木由美子とかのメジャーどころから、絶版でプレミア価格でしか手に入らないマイナー所まで、相当な幅があって、まさしく研究者という感じが素晴らしい。

 

しかもね、ちゃんと分析や分類してある所や、ストーリー的な部分への追及もあれば、絵として少女マンガはどういう描き方をすればブサイクになるのかの研究とかもあって、非常に面白い。
鼻の描き方について突っ込んでる所もありますが、それって少女マンガに限らず、鼻の描き方って日本の漫画文化そのものにおいても面白い部分なんですよね。リアルに近付ける劇画路線ならともかく、一般的には漫画の絵ってディフォルメありきなので、鼻の描き方はおそらくそれだけで1冊の研究書が出せるくらい面白い部分。

 

そして何より個人的にこの作者は信用できるなと思った部分が一つ。世間一般的にはトンデモ漫画として解釈されているけれど、別の視点で見た時にギャグでは済まされない無い価値が見えてくるので、再解釈されるべき的な主張をしてる作品があって、そういう発想が私的にはメチャメチャ響きます。
そそ、大衆なんて所詮は思考停止の右ならえしかしないのが大衆なんだから、ちゃんと自分で考えて、自分のロジックやエビデンス(根拠)を堂々と主張して、こんな視点はどうですかと問いかけるのは私も日頃から意識してやってる部分なので、共感&信頼度が一気に高まります。世間の評価なんて言う曖昧な物に騙されちゃダメですよ。

 

単純にね、ブサイクだけど心は綺麗だとか、努力して見返してやるとか、なんとなく少女マンガそういうのなのかな?みたいなイメージでついつい知らない分野は自分の中で消化しがちですが、そんな単純なものだけじゃなく、ちゃんと少女マンガも、少女マンガなりに色々向き合ってきたんだよというのが凄く伝わってきて面白いなと思ったし、ここで取り上げてる作品を読んでみたくもなります。

 

対談でのみ少し触れてるけど、少年漫画におけるブサイクヒロインの描かれ方や、その代表たるドラえもんジャイ子とかにも触れてある辺りが面白いですし、この中では触れられてませんが、ドラえもんならしずかちゃんの描かれ方ですよね。今はどうなってるか知りませんが、毎回のようにおふろを覗かれて、それ今の考え方からいくとやっぱ問題あるよねというのは素人目にもわかりますし、逆に恐らくは実際に女性でないと美醜に関してのある種の世間がかけた呪いの実感みたいなのはわからないだろうなとも思うし、そういう面に関しても色々と興味深く読めました。

 

男だってね、だって所詮は「ただしイケメンに限る」なんでしょ?みたいな風には思いつつ、そこじゃない価値観はいくらでも見いだせるけど、女性は自分の中の納得とかより、世間が(或いは男性が)それを強いるみたいな所での肌感覚での違いはきっとあるだろうなと。

 

本の中で触れられてる部分ではありませんが、いわゆる女性芸人のブサイク枠みたいなのあるじゃないですか?あれってさぁ、個人的には、キャラクターとしてそういう枠を演じてるだけであって、実は世間を手玉に取るクレバーさや頭の良さがあの人達にはきっとあるんだろうなって、私はずっと昔から思ってました。


それは逆にルックスだけで男を手玉に取るアイドルとかそういう人達に対しても、キャラとして演じてるだけで、何で世間はそういうのに騙されちゃうのかな?私はそいういうの信じないようにしよう、というのを子供の頃からずっと思ってるタイプでした。逆に、自分は世間みたいなバカ共とは違う人間なんだぜとかすぐ言ってしまうようなタイプでそれはそれでアレな人ではあるんですが。

 

そんなこんなで、単純にルッキズムの問題だけでなく、文化としての少女マンガの多様さの面白さもあれば、研究書としての視点の面白さもあるし、実際それをどう受け入れて行くのかとか(勿論道や考え方は一つじゃない)伝説の「エリノア」という漫画の存在感とか、色々と読んで良かったと素直に思える面白い本でした。