僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

ゴジラ-1.0

『ゴジラ-1.0』 3枚組 [DVD]

監督・脚本・VFX:山崎貴
日本映画 2023年
☆★

 

いやこれは酷い。
公開当時は町山と岡田以外の評論家は誰も褒めて無かったですし、まあそういう作品だろうと思ってたけど、その想像以上にヤバかった。映画好きな人はちょっとこれ見るのはやっぱりキツイわな。

 

山崎映画=画面を見なくてもわかるように全部を口に出して何度も説明するという客を完全に馬鹿にした作りですが、勿論それは映画館で見る為では無く、TVでスマホをいじりながら見るというのを前提に作ってるという客層の想定。

 

ドラマがとにかく苦痛で苦痛で、神木きゅん異世界転生ゴジラとかいうギャグ映画だったのかこれ?とか思いながら我慢して見ました。

 

多分これ、監督がキャストに演技指導とか全くして無いですよね。プロの役者に自由にのびのびやってもらうみたいな方針なのでしょうか?おかげで、マンガや特撮みたいな現実感の無い誇張した演技や喋り方をする人も居れば、逆にリアルにやる人も居るし、戦後という時代設定に合わせて少し古めかしい感じを出そうとする人も居つつ、まるで現代人が60年前にタイムスリップしたような今風のイントネーションや喋り方をする人も居ると言う、全く統一感の無い演技。

 

演技・喋り方・たたずまいや思想、そういうものを全てリアルに表現してほしいとか言ってるわけじゃないのです。現代の視点から見た時代劇みたいなものだって別にあって良いと思うし、そもそも今回の企画が戦後にゴジラを置いてみるという、一応は今の視点でもある作品でしょうし。だったらさぁ、作品のカラーを統一しようよ。今回はこの路線で、っていう指示をするのが監督だし、その完成されたビジョンを持ってるのが監督だけなんだから、例えどんな名俳優が凄い演技をしようと、監督の求めるものと違ったらそれはリテイクになるの当然の話。普通そうなんだけど、今回はビックリするレベルでみんなバラバラ。こんなの今まで見た事無いし、違う意味で面白いっていう。

 

そして政治的思想の希薄さ。いや薄っぺらいと言った方が良いかもしれない。私、「ALWAYS」見て無いんだけど、多分昭和や戦後のディティールとかそういうのにこだわりがあるのであって、思想とか社会とかそういうのには興味無い感じなのかなと想像してしまいます。

 

戦争、戦後、特攻兵とかそういうものの描き方が、戦後民主主義の教科書通りと言うか、決して戦争を賛美する右翼的な描き方では無いんだけど、特攻なんて無駄な命を散らし方をするべきではないとかいう、リベラルにしても薄っぺらい表層的な人道主義しか描いてない。で、それが戦争で生き残った事にある種のトラウマを抱えているとかいう物語なんだから、どこの世の中知らない中学生が考えた戦争観だよ、とあきれてしまう。っていうかディテール以外は多分そもそも興味無いんでしょう。

 

やっぱり戦争に対する切り口が教科書通りの「被害者」なんですよ。大二次大戦、日本は被害者であると同時に、それ以上の「加害者」ですよ。日本が侵略戦争を仕掛けたんですから。今の感覚を入れるのなら、そういうのが無視されてるのがやっぱり違和感を覚えてしまいます。この作品が戦争と向き合ってるとはとても思えない。

 

多分、小学生や中学生が見る映画としては決して悪くないと思うんですよね。こうい作品も。話題作だからこういうのを見て、戦争や戦後なんかを知る本当に一歩目というか入口になる。実際にあった過去の戦争とかなるべく避けたいし、普段触れる事も無いけど、こういうのを見ると避けちゃいけないんだなぐらいに思う切っ掛けとかになれば、ぐらいの感覚ならね、まだ許せる部分もあるというか。

 

でもさぁ、私は昔っから大嫌いなんですよね。戦争を描いているから、社会問題を描いているから、ジェンダー問題を描いているからこの作品は価値がある、みたいな安易な考え方。どの中でどう描いているかだけでなく、表面だけでそれで価値があるみたいな思考停止してる人、昔っから山ほど見て来ました。

 

いや昔は自分もそういう部分ありましたよ。中学生どころか20代前半くらいまでは狭いオタク知識しか無い薄っぺらい人間でしたから。このままじゃヤバいなと思ってそこから世の中を必死になって勉強したしその一環で映画も沢山見るようにしてきたけど、そこで気付いたんですよね。志の高いテーマだけど、ステレオタイプな描き方だし、ちょっとこれは安易な発想では?みたいな作品でも、その表面のテーマ性だけでこういう問題を描くことに価値があるみたいな評価の人が意外と多いんだなと。丁度「シンゴジラ」なんかもそうですよね。

 

「この世界の片隅で」と「窓ぎわのトットちゃん」と「ゲゲゲの謎」は評価するけど「シンゴジラ」も「ゴジラ-1.0」も評価しません。なんだったら最初からコメディーとして作った「大怪獣のあとしまつ」の方が幾分映画としてはマシだと思います(そっちも決して褒められたものじゃないけれど)

 

ゴジラが暴れるシーンは絵的には悪くないです。これまでだとやっぱりリスペクトもあるのか着ぐるみ感とかもどの作品もどこか意識してた気がしますが、今回はCG畑出身で人間には興味無いけどCGは専門分野の山崎貴監督ですから、ゴジラの顔をどアップで見せるとか、新しい視点があってそこは流石だと思います。

 

ただ、ゴジラそのものがテーマ性をもっておらず、単純に恐竜的な巨大生物な所もあれば、戦争をという暴力そのものだったり、戦争も関係無く理不尽の象徴(船をビルの上に乗せてたのは津波の象徴としてですよね)神木君のトラウマだったり、場面によってまちまちの演出をしてあるのでやっぱり監督的には中には興味無くて表層上のビジュアルだけが全てなんだろうなとせっかくの見せ場も薄っぺらく感じてしまいました。

 

完璧な作品なんて無いし、どこか一つでも光る部分があれば十分な価値があるというのも映画の一つの見方だし、それを否定はしないけど、その一つを見る為に残りの9が苦行というのもそれはそれで結構ツライです。

 

私の中では話題作で話のネタにもなるから、以上の価値は無かったです。

 

あ、米国アカデミー賞の視覚効果賞をとったのは大変に素晴らしいと思います。10分の1とか、下手すればそれ以下の予算でこのビジュアル作られたら、あっちの人は一体どんなマジック使ったんだってそりゃあなるわな。しかも日本人が英語の演技の善し悪しがわからないのと同じで、例えば昔からシュワちゃんとかスタローンの演技がバカにされ続けてきたの、日本人には「?」ですよね。今回はその逆で、字幕なり吹き替えなりで向こうの人が見る分には多分ノイズが相当に軽減されてるはず。レーティング重視で血が出ない演出とか、海外に売るための戦略とかも見越した上で作ってある感じでしたし、そこでちゃんとヒットさせたのは流石です。

 

そういう意味では、作品重視では無く、あくまで売るための商品として作っているという商業主義に染まっている感じを恥ずかしげもなく、え?映画ってこういうものでしょ?と開き直っている事こそが一番の現代性なのかもしれません。

www.youtube.com

 

関連記事

 

curez.hatenablog.com

 

curez.hatenablog.com

curez.hatenablog.com

 

curez.hatenablog.com