Docter KIRICO White Ghede
原作:手塚治虫
脚本:藤澤勇希
漫画:sanorin
刊:秋田書店 ヤングチャンピオン・コミックス 全5巻
2016~2019
☆☆☆
手塚治虫「ブラック・ジャック」に登場するライバルキャラのドクター・キリコを主役に据えたスピンオフ作品。
秋田書店は手塚先生没後も、今の時代の作家に自由にブラックジャックを描かせるという企画を定期的にやってきてました。直近ではBJ先生の過去の若い時代を描いた「ヤングブラック・ジャック」がそれなりにヒットしていましたので(その後アニメ化もされた)更なるスピンオフ作品をっていう感じの企画なのかなと思われます。
原作での出番は実はそれほど多いわけではないものの、先日のドラマにも性別改変されて出てきてましたし、過去のドラマやアニメ化されてきたさ際にもほぼ毎回に近いくらい引っ張りだされてくるという超人気ライバルキャラのキリコ。
世間的にはというか私もそうでしたが、ネット黎明期くらいでしたかね、自殺志願者に自死用の毒を送ってくれるドクターキリコ事件なるものがありました。私はその時まだブラックジャック読んで無くて、そこで初めてキリコって名前を知った気がします。多分。
ただ、劇中で描かれるキリコは死神という異名で呼ばれつつも、助かる見込みの無い患者に、ずっと苦しみが続かないよう安楽死を与えるという、あくまで救済の為に処置するのであって、自殺幇助をするわけでもなければ、BJ先生と違ってきちんと医師免許も持っていて、助けられる命は助けるというスタンス。
今回のスピンオフの方でも、ほぼ毎回死の依頼を持ってくるものの、いや自分はそういうのじゃないから、みたいなパターン。
オリジナルのブラックジャックと同じく全て1話完結のオムニバス。これまた本編と同じく、元の作品にあった医療ドラマとしての話だけでなく、SFとかファンタジー風味の話もちょこちょこあったりして面白い。
勿論、基本的には安楽死とかを巡る話になるんですけど単行本全5巻。話数的にはオムニバスで30話。正直物凄くデリケートで扱いの難しいテーマでこれだけの話数をちゃんとしたクオリティで描いてあるのは凄いです。
手塚先生のオリジナルブラックジャックも200ちょいくらいの話で、キリコの話は10話無いくらいでしたが、多分扱いが難しいからでもありますよね。オリジナルに匹敵するくらいの大傑作だとは言わないまでも、どの話も丁寧に作ってある印象で、それでこれだけ描けたのは凄い。
ああ、同時期にやってた「ヤングブラックジャック」はスターシステム(手塚作品でお馴染みのメンツが出てくる)を採用してましたが、こちらはそういうの基本は無し。そこは手塚ファンなら物足りなく感じる部分でしょうが、そこまで手塚に詳しくない人なら気にはならないでしょう。
レギュラーキャラが主人公のキリコ一人では幅を持たせにくいと感じたからなのか、BJに対するピノコみたいな感じで、序盤で関わった話で親を失い孤独になった少年がキリコになついて勝手に家に押しかけて住み込みで家事をしたりと、家族になる。また別の話でその少年と同級生の女の子の話があって、そこもちょこちょこ顔を出してセミレギュラー的な位置と、あとはそことは全く別で、キリコを商売として利用とする悪役キャラみたいなのが一人居て、その辺りが一応の座組み。
後は私も忘れてたけど、そういえばキリコに妹確かに居たなと、妹のユリの話が1本+ラストにあったり、じゃあBJ本編にたまにキリコが出た感じで、こっちのキリコの話にBJがたまにゲストで出たりしないのかと思ったら、そこは無し。ただ1本特別編として、オリジナルのキリコ初出話の「二人の黒い医者」と言う話をキリコ視点でリメイクしてあって、その話にだけBJ先生は登場。
手塚版だと基本は安楽死がキリコのテーマだったと思うけど、こちらは今風の視点として、自死や殺人ではなく自然死として処置するような形にする事で、保険金を遺族に残したりする事が出来る、みたいな話がいくつかあったりして、そのあたりに踏み込んでいるのは確かオリジナル版にはなかった要素ですよね。色々と考えて話を作ってある感じは素晴らしいと思います。
ただ普及点・・・以上は十分にあるとは思うけど、飛びぬけてこれは是非読んでおくべき名作だ!と言えるまでのものではないのがちょっともどかしいかもしれない。
媒体の違うものを比べたって仕方ないけど、今回これを読むきっかけになった(確保ま前からしてたけど積んでたので)ドラマ版だと、あっちは正直変な部分・気になる部分もあるけど、特別感やインパクトはあったわけで、良い仕事という面ではこちらの方に軍配が上がりそうだけど、なんか普通と言えば普通、みたいに思えてしまうのが勿体無い気はします。悪目立ちするものよりは、地味だけど丁寧に頑張ってるみたいな方を心情的には応援したいけれど。
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