BLACK JACK
原作：手塚治虫
シナリオ原案：山石日月
漫画：中山昌亮
刊：秋田書店 SHONEN CHAMPION COMICS EXTRA 全１巻 2012年
☆
手塚治虫没後も他の作家の手で定期的に描かれ続けた非手塚ＢＪの一つ。
作画は「不安の種」の中山昌亮で、シナリオは単行本では山石日月となっているものの、少年チャンピオン連載時は、あの「寄生獣」の岩明均が原作担当という形で発表されたシリーズ。
岩明先生と言えば、短編も名作ぞろいですし、作画は違えどあの岩明版のブラックジャックとか、超面白そうじゃね？と、私も当時期待しましたが、いざ連載が始まってみると、なんかよくわからないで終始終わってしまった印象。
作品の経緯としてはこんな感じらしい
秋田書店の編集者が声掛けして、おそらくは2000年代前半の色々な作家がオムニバス読み切りのＢＪをやってた時に、岩明先生も書いてみませんか？的な感じだったのでしょう。その時は、面白いけど今はやれないな、という返事だったにも関わらず、数年後に脚本を出してくれたと。
勝手な想像ですが、作画までは出来ないのであとは自由に使ってもらってもかまいません的な感じで、編集者にまかせたんだと思う。（岩明先生は自作が映像メディア化する時は、自由に作って下さいというスタンスの人なので）
で、そのプロットを元に中山昌亮先生が漫画化したと。
ただ、評価は正直よろしくなかった。
岩明先生も、画は悪くなかったと思うけど、作画家との意思疎通が十分にとれず、シナリオの意図が表現されない駄作になってしまった的な評価を自ら下す。で、単行本化の際に名前も伏せてほしいとして「シナリオ原案：山石日月」というわかる人だけわかる形になってしまったと。
岩明先生、多分完璧主義者です。昔はアシスタントも使ってたけど、納得いかず背景まで全部自分でこだわって書きたい、と全部を一人でやるようになって、連載のペースがメチャメチャ落ちました。それでも昔は隔月くらいには載ってて、背景がラフのままの線で、単行本を出すときに長期休載で、単行本の方ではきちんと背景も仕上げてたような感じ。（「ヒストリエ」の事です）
が！遂に先日、このままでは完結まで無理なので制作スタイルを見直しますと事実上のギブアップ宣言が出てしまった。
「キャプテン翼」の高橋陽一先生も同じ感じの事を少し前に言われてましたよねぇ。
ここは岩明先生も妥協して、ラフのコンテぐらいまでにして、実質の作画は他の人にまかせる形でも良いのでは？
今回の「ＢＪ青き未来」みたいな意図せぬ形になりかねない可能性はあるものの、その後同じく原作のみを担当した「レイリ」はこれと同じ編集者だったりするので、上手く行かなかったからただ切ったっていうものでもないはずですし。
「青き未来」じゃなく「ヒストリエ」の未来を心配してしまう私。
随分前置きばかりが長くなってしまいましたが、こっからＢＪの話。
まさかの壮年ＢＪという、「ヤングブラックジャック」の逆パターン。これがチャンピオンで連載された頃にはヤングＢＪの連載は開始してましたが、プロット作ってる時点ではまだ形にはなってなかったはず。
腕は衰えていないものの、加齢から来る発作で強壮剤を服用しないと長時間の手術は不可能という状態。うん、これ岩明先生本人じゃないすか。
まあこれを手塚先生と考えても、ＢＪはキャリア後期のヒット作で、話は面白いけど線が震えていて絵的にはもう全盛期を過ぎてるというのが手塚マニアの概ねの評価だったりします。
ただ、多分そこは味付けの変化の部分であって、おそらくはですけど、テーマとしては独裁者の命を救うことで、国は延命されるしものの、同時に独裁国家が続くことで犠牲者、命をおとす者も増え続けるジレンマ、みたいな所をテーマとして描きたかったのかなと思う。
悪人であろうと命は命だっていう人道的な部分と、金の為にそんな存在を救うのか？じゃあその独裁者の為に失う命は関係無いのか？的な感じ。
だからその失われる弱者の命の方をクロエは救おうとする、みたいな話ですよね。ＢＪを違う方向からサポートするっていう。
そんなクロエの正体は・・・っていうとこだけが結果としてこの作品のフックとして読者には残る部分だったという感じかなぁ？
あのまま成長できなかったピノコも、時代が変われば人工的な身体も技術が向上して作れるんじゃね？サイボーグピノコ誕生・・・ってか「どろろ」みたいね。
悪人の命を救うジレンマとかは手塚ＢＪ本編でも何本かあったと思うし、これが連載１０話とかだからイマイチなのであって、超圧縮して読み切り１話とかなら実は良かったんじゃないかという気がします。
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