原作:手塚治虫『ブラック・ジャック』より
漫画:時丸佳久
協力:手塚プロダクション
刊:マイクロマガジン社 TC COMICS 全1巻
2020年
☆☆
タイトル通りにあのブラックジャック先生がおとぎ話の世界に迷い込むというギャグ物。ベースになってる話は「北風と太陽」「金の斧」「おむすびころりん」「桃太郎」「白雪姫」他多数。
スターシステム採用なので、他の手塚キャラ多数出演。
一応、全体を通して「実はこうだった」的なストーリーラインの仕掛けとかあったりして、割と拘って描いた感もあるんだけど、中盤以降は正直ごちゃごちゃして読みにくかったかも。
1話目の桃太郎、巨大な桃の中に居る人間を手術のテクニックで取り出す、みたいなシンプルなバカバカしさで最後まで通して欲しかった気がします。
中盤のBJとピノコが別行動して火の鳥がどうのって辺りからちょっとゴチャゴチャしてしまって読み難い。
「サファイヤ」とか「バンパイヤ」とか「ばるぼら」とかわかるキャラはわかるんだけど、マッチ売りの少女も何かのキャラでしょうか?手塚漫画は普通の人よりはまあまあ知ってる方だと思うけど、マニアと言うほどは詳しくもないのでわかんない部分もある。
BJが異世界転生!?そんなバカな・・・いや本編でも幽霊とか宇宙人とか荒唐無稽なファンタジーの話もあったしまあ良いか、みたいなネタはわかりみがある。
キリコが女体化したところで、へぇそういう話なんだ、くらいなのが私の中では手塚ファンって感覚ですよ。
ああ、やっぱり美味しいキャラなのでキリコは今回も出ます。242話中9回しか出番無かったのにとかマニアックなネタもある。というかユリさんも出てるので、すっかり存在を忘れてた私よりは作者の方が手塚愛は勝ってるとは思う。ボンカレーはどう作っても上手いのだ、とかやっぱりいじりたくなる部分なのは凄くわかる。
ああ、因みに「異世界物」ね、流行ってるけど私は興味無いですし、ブックオフとかでも今は専門コーナーになってるから、逆にチェックしなくて良い所になってて個人的には助かってます。
ただ、社会学的な視点から見ると、そこはもう現実の無理ゲー社会を肌で体感してるからこそ、もう現実のこの世界では幸せになんかなれないんだ、だったら異世界だろうがゲームの中の世界だろうが、そういうのに逃げるしか自分達の幸せなんか感じられない時代なんだよ、みたいなものが今の時代の人気ジャンルになってる要因なのは明白。
昔からね、逃避としての世界というのはあったんです。それこそ有名な「ネバーエンディングストーリー」とか、主人公がいじめられっ子で、本の世界に没頭する時だけが自分の大切な時間だったわけじゃないですか。で、そんな本の中の冒険で学んだ勇気や知恵を持って現実に戻りなさいよ、今度はそっちで頑張りなさい、というのが昔のお決まりのメッセージだったんですけど、今はこんな世の中だから、現実に戻ったって良い事なんかないんだよ、努力したって無駄無駄。だから異世界にでも転生しなきゃ俺らは幸せになんかなれないし、そっちの世界に浸って無いとつらいんだよ!っていう空気になってる。
こういう世の中を作ったのは社会構造なので、それを変えるには社会に目を向けて政治にも関心を持つとかが現実の解決策だと思うのですが、まあなかなかそこまで考えたりはしないんだろうなと思いつつ、ジャンルとしてこういう「異世界転生」が定着してしまえば、間違いなくその中には、そういう仕組みをメタ構造として作品内に落とし込んで、そこから何かしらのメッセージを発信する作品というのが、必ず出て来ますので(そこは過去のジャンルの定着や衰退や革新という流れがどんなものにもあるので)そういうのがいつか出てくるのだけを楽しみにしてます。
今回の「異世界ブラックジャック」も定着したジャンルに既存のキャラを落とし込むという、もう一番最初の段階からは進歩したフェイズ2的な発想だと思うので、数ある屍・・・と言うか礎の一つと思えば、正直そんなには面白くなかったものの、気持ち的にはなんとなく許せます。
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