僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ

『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ

著:金田淳子
刊:河出書房新社
2019年
☆★

これは、一人のBL格闘家(グラップラー)と「刃牙」との、
真剣勝負、殺し愛の記録だ――

 

少し前に話題になってた時に、これはこれで面白そうな視点だな、とは思って気にはなってた本。

基本的に私は同人誌とかは読まない分、公式とかは割と重要視する方ではあるんですけど、作者がこういう意図で書いてるわけないんだから、こういう読み方は間違ってるよ、とは思わない方。解釈やその作品のどこに価値を見出すかは、読者なり視聴者、ユーザーやプレイヤーが自由に受け取って良い物だと思ってます。

だって世の中に自分と同じ人間は居ないんだから、その人なりの感覚や感想って十人十色あってしかるべき、と考える方。

 

私も映画や漫画の感想とか沢山書いてますが、他の人と同じ事しか書けなかったらそれは嫌だな、少しでも自分の独自の視点や観点が出せれば良いなと思ってます。勿論、作る方は受け手側にこう感じてほしい的な所は意図して作ってるので、似た感想が多くなるのは当然の話なんですけど、その中でも違いは出せたら良いなと。

他人と違う答えを出すと、もしかして自分が間違ってるんじゃないか?的に不安になる人も多いとは思う。或いは逆張りで目立とうとする人も居るかもしれない。

 

でもそんな事をしなくなって、人は全員違うんです。その違いがあるからこそ、共通項を見つけられたときに親近感が湧いたりとかするわけで、最初から「みんなと同じ安心感」なんて見つける必要は無い。全員違う事が先に前提条件としてあって、その中から一部でも共通項をみつけたり、あるいは自分には無い視点だなって、他人だからこその面白さを見つける方が面白いんじゃない?という考え方が基本としてあります。

 


まず「グラップラー刃牙」について。
私は昔、プロレスや格闘技ファンだったのもあって、この手の漫画好きでしたし、割と昔からバキは読んでます。読み始めたのは地下トーナメントくらいからだったかな?実際の格闘技やプロレスの方を知らない人にはわからなかったと思うんですけど、モデルになってる実在の人物とかが何人か居て、(主人公のバキだって、当時活躍してた平直行という総合の選手がモデルですし)それらが一堂に会してトーナメントバトルをしたら誰が頂点に立つんだ?という作者なりのシミュレーション的なものでもあったわけです。

 

ただ私は全日本プロレス贔屓でしたので、マウント斗羽のモデルになってるジャイアント馬場さんが、本気になってパンプアップすれば(或いは若い頃の全盛期)こんなにガチで強いんだぞ!みたいな妄想には一切乗れなくて、馬場さんの魅力はそんな物理の強さじゃないし、誰が最強なのかなんて幼稚な事は言わない所。試合なんかしなくても、佇まいだけで人間の器としてどちらが優れているかなんて、言う必要無いでしょ?というスマートさにこそ魅力を感じました。

 

そう言う意味では、完全にバキに乗れてたわけでもなく、面白い興行だなくらいのスタンスでの楽しみ方。当時、割と漫画も沢山買ってましたが、「修羅の門」とか似たような格闘バトル漫画は単行本揃えてたけど、バキはぶっちゃけ立ち読みで済ませてました。地下トーナメントの次の死刑囚編までは、展開の読め無さもあって楽しく読んでましたが、アライJr.の変な使い捨て感(今思えばトーナメントの天内とかも同じだよね)とかに、ちょっと疑問を感じつつ、段々とネタバトルみたいになって、まさかの勇次郎との頂上決戦がエア味噌汁とかになって、もういいや、っていう。ピクルとか武蔵の頃も立ち読みで見てたけど、コロナ禍になってからの立ち読みが出来なくなると、もう読まなくてもいい漫画になってました。(なのでここ数年の事はあまり知りません)

 


昔はね、どんなに売れた作家でも、物語を完結させて、次の作品を生み出すのが普通でしたが、今は一人の作家が売れたものをどこまでも描き続けるのがどちからかといえばスタンダードになってる気がします。いやそれで商売が成り立つのなら全然OKなのでしょう。
よくよく考えたら高橋留美子とかあだち充とか、新しい連載をその度にヒットさせて代表作が何本もあるとかの方が異常なのではって思えてきた。一時期よくネタにされてた「1発屋」みたいなのもね、1回ヒットを生み出せただけでもそれは十分に凄いよね、と私は思う。

 

いやBLの話始まんねーな、これってBL研究本なんでしょ?
と思ってるあなた。正しいようでちょっと違います。

 

わたしも・・・この本はバキシリーズを読みこんだ作者が
その中にいかにBL要素やBLとの親和性を発見出来たのかを
書いてる本だと思っていた時期がありました・・・

 

うん、でも思ってたのと正直全然違った。

 

第1部「グラップラー刃牙」第2部「バキ」第3部「範馬刃牙」のそれぞれの序盤3巻分づつが無料公開されてたので、それを読んだら、BLっぽさを感じた(そりゃあ裸の男が二人でぶつかり合うわけですしね)

その限られた範囲だけ読んでもこの漫画はBLとしても読める感じがしたので、じゃあせっかくだから全巻読み進めていこう、という企画でした。

 

BL視点としてのバキの研究本とかじゃなく、BL好きだからついそういう目で見てしまうというだけで、あくまで基本は『バキという漫画の読書記』だったりしました。

今回は何巻から何巻までを読んだ。こいつとこいつ付き合ってるよね、みたいなのが、ネタ混じりに延々と書き記してあるだけ。

ん?思ってたのと全然違うし、無理矢理BL要素を引き出せなかった部分とかは普通の感想になっちゃってる辺りが何とも。

 

いや、私も映画とか漫画の感想をこうやってブログに書き記してるし、この人はこの作品にこういう感想を持ったのか、とかは内容にもよるけど面白いと思う。でもこれ、ただのバキシリーズの感想じゃね?とか思いながら最後まで読み進めていると、まだ2シリーズ目の「バキ」の途中までで終わった。

 

え?現行連載まで追いつけとは言わんけど、この本が出た2019年で出てる分はカバーしようよ。せめて購入分の3シリーズ分入れたら?

 

続きはブログでって・・・いやこれそもそも元がブログ記事だったものを書籍化したのか。


何故にこれを書籍化したの???当人も、別にその為に書いてたわけじゃないけど、編集者がこれを書籍として是非出したいっていう要望があったから、じゃあという事で形になった的な事があとがきに書いてある。

 

うん、個人のブログでやってる分には、全然良いと思います。
私も最近はVチューバーの映画同時視聴配信とかで、自分の好きな作品を初心者はどう反応するのか、どんな感想を持つのかとか見てて楽しんでますし。私自身のブログだって、似たようなものだと思ってます。でも、私はこのブログは収益化とか一切考えてません。タダで読むには良いけど、お金を払ってまで読むものではないと思ってますから。

 

裏事情はもちろんわかりませんが、作者の言う事を鵜呑みにするなら、これを書籍化しようとした編集者に私は文句が言いたい。こんなんで金とろうとすんなよって。

 

著者の金田淳子さんという方、素人ではありません。
「文化の社会学」「オトコのカラダはキモチいい」
とかの著書がある人のようで、多分ですがそっちはちゃんとした研究書なのかな?
やおいとか同人文化なんかに造詣の深い社会学者さんのようです。多分、編集者的にはそういう人が書くバキ論なら面白いし価値があると踏んだのかなとは思うけれど、内容的にはアデミックさとは程遠いライトなものでした。

 

おそらく単行本用に書いたと思われる、各所の合間に入るミニコラムみたいな所で、「バキSAGA」の後に生じる男の乳首の描き方の変化、とかそういう掘り下げが私はこの本の中で一番面白かった部分。

 

ぶっちゃけ、漫画史における男の乳首の描き方とかを研究しても面白いと思うんですよね。それこそ以前感想を書いた「少女マンガのブサイク女子考」みたいなああいうアプローチで。

 

「男なら誰しも世界最強の男にあこがれる」みたいなバキの思想の根幹にある部分を、最初からバカみてーだな、と言えるセンスは凄く貴重だし、そういう視点でこの手の漫画を語るのは新鮮だと思う。

 

バキの割と後のシリーズだったかと思いますが、世界最強の男のオーガにとっては自分以外の弱い存在は男も女も別に差はなく、蹂躙するのが当然の存在。力があるやつがこの世で一番偉いんだ、みたいな描き方をした時に、私はああこの作者終わってるな、何時代のマチズモ(マッチョイズム)だよこんなのっていう。

 

私もね、昔は自分自身が憧れたりはしないにせよ、最強の格闘家は誰だ?みたいなのに面白さは感じてたけど(誰が強いか決めたらええんや!って発言には当時からどっか冷めてましたが)なんかいつのまにかそういうのみなくなって、ぶっちゃけ私自身はフェミニストとか言うほど思想には染まって無いのですが、勉強したりでそちら方面の知識とかを身につけていく中で、色々と自分なりに思う部分は見てて来たし、そういうのが変化に繋がってるんだとは思う。

 

バキに対する思い入れも無いですが、もしお好きなら他人の読書記として楽しめるかもしれないし、何なら多分こういうのはバキ作者の板垣氏も喜ぶような気がします。

 

でも私はもっとアカデミックな内容を期待してしまったので、そこは全くの見当はずれになってしまって、ちょっと違うかなという結果になってしまいました。

 

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