MOBILE SUIT GUNDAM THE ORIGIN I
Blue-Eyed Casval
総監督・絵コンテ・キャラクターデザイン:安彦良和
監督:今西隆志
脚本:隅沢克之
原作:矢立肇・富野由悠季『機動戦士ガンダム』より
漫画原作:安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』より
OVA 2015年
☆☆☆
全国で順次展開中のガンダムシネマフェスという企画で、ファーストガンダム劇場版3部作、逆襲のシャア、閃光のハサウェイの5作が限定上映中。まだ詳しいスケジュールは出てないけど、それが今月に地元に来る予定です。
劇場のスクリーンでファーストと逆シャアが見れる!
こんなに嬉しい事は無い、ガノタならわかってくれるよね。
DVDや配信ではいつでも見れるから・・・
という気持ちです。はい、私は30年ガノタやってますが、ファーストも逆シャアも劇場で見た事はありません。1週間上映っぽいので、果たして4本も見れるのかという感じはしますが、せめて「めぐりあい宇宙」と「逆シャア」だけは何とかしたい。可能なら「哀戦士」も、でもそこまでいくなら1も見るべきじゃね?という感じでいます。
先日は「劇パト1」も初めて劇場で見れました。私のオールタイムベスト映画の「ゾンビ」も日本公開版という形でしたが、それでも1度は劇場鑑賞出来たのはメチャメチャ嬉しい体験。いつかは「イデオン」も発動編だけでも良いから、劇場で体験してみたいものです。
好きな作品は山ほどあれど、劇場では見た事が無い、スクリーンでは見ていない、という作品はいっぱいあります。当たり前の話ですが、映画は劇場のスクリーンで見るように作られているものです。全ての作品をスクリーンでとは言いませんが、自分の好きな作品、こだわりの作品くらい、本来あるべき形で見たいじゃないですか。
そこに対しての前哨戦としての「オリジン」を今回から観ていく。
ああそういえばこのオリジンも2話繋げた劇場版になるっぽいですね。申し訳ありませんが、そこはスルーで。
基本、私は富野信者(元と言った方が良いけど)なので、原作漫画のオリジンの時点から、ありがたいけどちょっと残念、みたいな気持ちでいました。
それはこちらのアニメも同様。リリース時にレンタルで全話視聴済み。良い部分悪い部分両方ある。あくまでこれが本来のガンダムの姿と言うよりは、あくまで安彦アレンジ版みたいな感覚。それを言えば小説版とかだって富野アレンジ版みたいな感覚です。
散々言われてますが、本来はここからTV版リメイクまで繋げたかったようですが、成功例だった「ガンダムUC」程の利益は生み出せず、TV序章の6章で完結。話が違うじゃないのと詰め寄るも、じゃあ最後にもう1本だけ自由に作って良いからと手切れ金みたいな形で作ったのが「ククルス・ドアンの島」でした。
同時期に富野に対しても「Gレコ」5部作構想に対して、成績悪いから5本目の予算は無し。まとめて4作と5作出してあとは終わりね、という、作品の生みの親だろうが功労者だろうが、利益出せない奴はバッサリ切る、クリエイターより株主の方が大事だよ、という方針をとってたのは、大人の視点から見ると時代が変わったなと思わざるを得ませんでした。
いやこの「オリジン」もですよ。OVA6話を作って、それをバラしてTV放送版13話に再構成。今度はそれをまた映画3部作にする、という少しでも利益を絞り出す方式。「サンダーボルト」とかも、配信版をまとめて劇場版にして、今度は再びTV放送用にバラすとか、特撮のスーツ改造かよ!と突っ込みたくなるコスりっぷり。なんか逆に笑えて来ますね。もはやガンプラの金型流用バリエーションみたいなもんでしょうか。
それはともかくOVA第1章「青い瞳のキャスバル」
ジオン・ズム・ダイクンの暗殺からザビ家の台頭。
シャア・アズナブルの少年時代の覚醒を描く。
一応ですが、知らない人の為に初心者講座みたいなものも書いておきましょう。
安彦良和は言わずと知れたファーストガンダムのキャラクターデザイン兼アニメーションディレクター。その後も「巨神ゴーグ」「クラッシャージョウ」「ヴイナス戦記」といったアニメ作品の監督もしましたが、やがてはアニメ業界から身を引き、漫画の方に軸足を置く事になる。大ヒットとまで言われるものは無いものの、基本的には歴史物を(それこそ古代史から近代史まで)ずっと描き続けてきて、一定の評価は受けている。
その中でファーストガンダムのリメイク漫画を描いて欲しいと言う角川の依頼で最初は断っていたものの、わざわざその為に雑誌まで立ちあげるという事で(ガンダムエース)始めたのが「ジ・オリジン」。
自分の得意分野の歴史物のフォーマットでガンダムを再構成という感じですので、視点が基本的に俯瞰なのです。
ハッキリ言ってしまえば、オリジンがつまらない理由はそこが全て。アニメ全6章で言えば、シャアを主人公にこそ置いてはいるものの、シャアの感情に軸足を置いたドラマではなく、シャア・アズナブルという人の伝記物みたいなものだと思った方が良い。
こんな事件が起きました、こんな風な行動をとりました、こんな結果になりました。どう?面白いでしょ?歴史ってドラマですよね、というのが恐らく安彦氏の感覚。
キャラクターの感情の動きとかそういうドラマでは無く、歴史そのものがドラマとして面白いと考えてる人なので、多分アニメを見る人、ガンダムが好きな人との感覚がずれてる。
富野由悠季の、誰もついてこれない狭い視点に対して、現場がそれは違いませんが?ここは分かりにくいですよね?とか言えないのと同じように、安彦良和も同様、誰も意見が出来ない状況。もし何か言っても、お前は何もわかってないと一蹴されるだけなので、怖くて意見も言えなくなる。まさに老害とはこういうものだっていうお手本です。
じゃあファンが求める物が正しいのかと言えば、実は必ずしもそうではない。ファンがファーストガンダムをリメイクとか言われて求める物って、開戦前ならそれこそジョニー・ライデンがこの場に居たとか、外伝のキャラがちゃんと本編の歴史に組み込まれたりする奴ですよね?私もそういうの見たいし。
多分、オリジンの漫画なりアニメの時にも、今はこういう後付けの設定があるのでそれを組みこめませんかみたいな事を言う人は居たと思うんですよ。でもオリジナルクリエイターである安彦氏は、いや自分が作ったガンダムにはそんなの居なかったから知らないし、そんなパチモノガンダムなんか入れるわけないじゃん!っていう所でしょう。
自分が関与してないものまで責任持てないっていうのは当然だし、例えばファンが望むとおりに、今の設定とかキャラとかを入れるなりしたとしましょう。これがまた10年後、もっと別のものが増えてて、今度はこれが居ないあれが無いだの結局はイタチごっこになるだけなので、そこは媚びなかったのはある意味正しいとも言える。いや外伝オール出演の1年戦争再構成とか私はぶっちゃけスゲー見たい&読みたいけどさ。
ニュータイプという概念が大嫌いな安彦氏ですので、まずジオン・ダイクンを神聖化せずに、頭のおかしい宗教家というクズに仕立て上げる。勿論これはファンに対する嫌がらせです。ニュータイプなんてインチキを信じてんなよお前らっていう。(これは「ククルスドアン」でアムロに人間を踏みつぶさせたのと同じ)
あくまで歴史物なので、誰かに感情移入させる気はサラサラ無いものの、逆にそういう客観性の良い部分というのもあって、男性女性に特別な差をつけて描く事はしないので、キシリアの感情を個別に描いたりとか、ハモンの自立性とかを描いたりも出来る。
例えばこれが富野なら「Z」の時にやたら戦場に女性を出して、シロッコにもこれからは女性の時代だ的な事を言わせたりしてたけど、あれはウーマンリブ運動とか、女性の自立みたいな時代背景を作品に取り込んでいるのであって、安彦さんの場合だと、歴史が前提としてあるので、その中で活躍してきた女性とかも沢山居るし、自分の歴史物でも描いたりしてるので、別に男だから女だからでは無く、個人の資質を描くだけという描き方の差があって、そこは面白い部分だし、特徴の一つ。
多分ね、これでもメチャメチャ妥協はしてると思うんですよ。OPに戦闘シーン入れたり、クライマックスで一応はメカ描いたりね。絶対本人はこれいらなくね?って思ってる。というか少なくともOPのCGパートは今西さんに丸投げしただけですよねこれ。
幼キャスバルに田中真弓さん使ったのだって、今の声優なんか知らないからゴーグの時に信用してる田中さん使っただけで、今の時代に田中さんを使った時の視聴者の受け止め方とか1ミリも考慮して無い感じが老害度120%な感じ。
ただ、だからこそ幼いキャスバルとアルテイシアがまるで世界名作劇場の主人公みたいに見えて、そこから見えるギャップが面白かったりもするので善し悪しではある。
と、あとはこの後もずっと続くけど、学生運動ムーブの茶化しかたですよね。渦中に居た富野と違って、安彦さん的には歴史と同じようにああいうのも俯瞰して冷笑してたのでしょう。この空気をね、今の人が見てどう思うのか?
正直、これは誰が望んだ作品なんだろう?誰が得したんだろう?とか思ってはしまいますが、世の中に出た以上は別に無視する必要もないし、こういうものなりの楽しみ方を模索して行くのが建設的なのかなと思います。
さて次はシャア・セイラ編後編「哀しみのアルテイシア」です。
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