MOBILE SUIT GUNDAM THE ORIGIN V
Clash at Loum
総監督・絵コンテ・キャラクターデザイン:安彦良和
監督:今西隆志
脚本:隅沢克之
原作:矢立肇・富野由悠季『機動戦士ガンダム』より
漫画原作:安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』より
OVA 2016年 全6話
☆☆☆★
コロニー落とし、ブリティッシュ作戦発動。
人類は総人口の半分を失う。
いやこれね、TV版だとオープニングのアバンでさらっと流してただけじゃないですか。あんまりリアルに捉えると、色々と不都合な部分も出て来ちゃうし、そういう設定っていうだけで後は流してね、ぐらいだったんだと思う。
今の人には通じない凄い老害ガノタっぽい話をしましょう。私もガンダムなんて基本SDガンダムから入って、大人になってからやっとレンタルビデオでTVシリーズとか見れるようになって、本格的にハマったのってそっからです。
で、その冒頭の「総人口の半分を失った」っていうモノローグが途中からやたらと気になるようになったんです。ジオン国民の半分なのかな?とも思ったけど、それだと言い方が違うし、総人口というのは全ての人類の事で、今回も説明が入ってましたが、コロニー落としの二次被害まで含めた総数が人類の半分が死んだんだと。
これをもし現実に当てはめて考えたら?人類史始まって以来の最大の悲劇ですよねこれ。人類が宇宙に進出してニュータイプへの覚醒うんぬん以上に、この規模の悲劇って、人類史におけるターニングポイントに十分になりえますよね?むしろ違う意味での人類の革新に繋がるんじゃないかって私は思うし、ここを境に本当なら全く別の歴史が生まれると私は思ってます。
なので、当時も今も私はジオンをカッコいいとか言ってる人の気持ちが1ミリも理解出来ませんでした。人類史上最も最低な愚行を起こした人達ですよ?
私がミリタリーに物凄く偏見持ってるのは、あなたたちは人が死んだり殺したりするのを楽しいとかカッコいいとか思ってるんでしょ?みたいな勝手な押しつけがあるからです。勿論!実際はそんな事は無いだろうし、それこそ愚かな考え方というのは自覚してます。
何かの記事にも以前書いた記憶があるけれど、私が知ってる限り、ネットや書籍でその人類の半分を失ってうんぬんを真面目に考えてるのを当時は一度も目にした事が無かったし(ネットの全てを知ることなんか不可能なので、探せばきっと私と同じように思う人も中には居たかもしれないけれど、少なくとも一般論では無かった)
その後「ガンダムUC」の原作小説の連載が始まった時に、劇中でバナージが言うんですよね。彼ら(ジオン)にも理由があったっていうけど、もしそれにいくら正統性があったとしても、人類の総人口の半分を死に至らしめた人達を自分は感情としては認めたくない、みたいな感じの事。
私はそこで初めて、自分と同じ考えを持った人も一応は居たんだな、福井晴敏もそう思ったのかってそこで本当に初めてそういう意見にようやく出会えてビックリ&ちょっと嬉しかったです。
それはお前の世界が狭すぎたんじゃないの?と言われたらその通りだと思うけど、そういう議論とかする人居なく無かったですか?当時居ました?
なんかねぇ、そこくらいからガトーとかをカッコいいとか言うのは自分はどうかと思うな、みたいな意見が少しづつ出てきた印象。今の時代は割とジオンの悪行は気になるって言うのが一般化して、歴史の節目というか、流れがいつの間にか変わったなと感じています。
例えば今だと「アベンジャーズ:エンドゲーム」で全ての生き物が半分に間引きされた世界がどうなるのか?みたいなのが描かれてたじゃないですか。
あそこで描かれたような事がリアルで正しいかどうかもわかんないですけど、これまでと大差無い日常には流石にならないんじゃないの?と思う。何度も言うけど、そこはあんまり真面目に突っ込むポイントじゃないけど、一つの物の見方としてはありじゃないでしょうか。
で、ようやく今回のオリジンの話に戻す。
このブリティッシュ作戦を、まるで反戦映画みたいに描いてるじゃないですか。
レギュラーキャラではないユウキという男の子と、ファン・リーというガールフレンド。名もなき一般市民の代表として、そこにあえてスポットライトを当て、恐ろしい悲劇をわざわざ演出する。
デギン、ギレン、ドズル、ランバ・ラル辺りを通して、いかに非人道的な事をしているか、いかに愚かな行為なのかを感情移入させずにフラットに描き切る。
ここは俯瞰視点、歴史の傍観者という安彦さんらしい視点、オリジンの特色みたいな部分が存分に描かれてるんじゃなかろうか。
ドラマやエンタメとしては感情移入を拒むこのやり方って、見てて正直つまんないですが、逆にそういう俯瞰こそに意味がある場面では物凄く生きてくる。
オリジンでは総監督という立場で安彦さんが居て、現場監督としては今西さんが「監督」というクレジットついてますよね。今西さんと言えば「0083」「イグルー」で徹底的にジオン視点でガンダムを描いてきた人です。今西さん、何を思ってこれ作ってたんだろうなというのが個人的には凄く気になる。ガンダムエースでも一度か二度くらいは今西さんのコメントとかあったかもしれないけど、多分そんなに深く突っ込んだのはなかったはずですし、そこはどうなんだろうなと思う。
カイとアムロ(とハヤト)とか、またもや悲劇に見舞われるセイラさんとか色々な部分を描きつつも、私はその前半のコロニー落としをこう嫌な感じ、意図して不快にさせる感じで描いてくれたのは、何気にオリジン全体でも最も価値があるシーンなんじゃなかろうかと思った。
しかもね、これは意図したものじゃないでしょうが、ユウキ君の声が小野賢章なんですよ?宇宙世紀の未来でテロリストになる彼が、ここではテロによって幸福や未来を無残に奪われる存在を演じている。ちょっとグッと来る部分です。
ファン・リーの方は瀬戸麻沙美さん。こっちは水星の魔女に出たりはしてるけど大きい役では無い。キュアフラミンゴの人なのでプリオタの私としては嬉しい。それだけ。
MSのアクション的な見せ場は次の最終章へ向けての小休止っぽい感じはあるけど、先に書いた通り、コロニー落としの、ジオンの異常さをこれでもかと描いてくれただけで特異な魅力のある1本、という感じでした。
次がラスト、ルウム編後半 「誕生 赤い彗星」に続く。
関連記事