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やなせたかし ―「アンパンマン」誕生までの物語

やなせたかし ──「アンパンマン」誕生までの物語 (ちくま評伝シリーズ〈ポルトレ〉)

Yanase Takashi [1919-2013]
著者:筑摩書房編集部
刊:筑摩書房 ちくま評伝シリーズ<ポルトレ>
2015年
☆☆☆

「傷つくことなしに正義はありえない」
奇想天外・前代未聞の
心優しいヒーローが生まれるまで。

 

NHKの朝の連続テレビ小説「あんぱん」がこの春からスタート。
それに合わせて・・・ではないです。

 

去年も映画「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」が大人にも響く作品として話題になってましたが、それに絡めて・・・でもない。

 

まあそこで思い出したってのもありますが、何の回かは忘れましたが、私が有料メンバーシップに入ってまで見てるマクガイヤーチャンネルで実はアンパンマンって日本の自己犠牲型ヒーローの原型になってる所がある、というような話をしていて、ああそれは確かにその通りかもと。

 

自分の顔を差し出してお腹が減っている人に分け与える。それは戦後の復興で貧乏していた時期に、自分が食べる物さえままならないのに、それでも困っている人に手を差し伸べる人こそが本当のヒーローなんだっていう価値感で生まれた的な事を言っていて、ああなるほどと結構納得したのでした。

 

丁度プリキュアシリーズで「ヒーリングッどプリキュア」の時に、自己犠牲は必ずしも正しい事ばかりじゃないよ、自分を犠牲にまでする必要は無いんだよ、という一般的にはちょっと珍しい主張を描いた作品で、そこは時代に合わせたアップデートだと私は感じたのですが、意外とファンの間でも賛否のあった部分でした。

 

ヒープリ、あるいはプリキュアという作品におけるフェミニズム文化との関連性は切っても切り離せない部分なので、ヒープリについてはその辺も抜きにしては語れない部分ですし、そもそも今回はここで語る事はしませんが、そういった背景もあった上で、「アンパンマン」の描く自己犠牲というのは面白い部分だな、いつかその辺掘り下げてみたいなと思ったのでした。

 

そんな流れで手に取ったのがこの本。
やなせさん自身の手による自伝とかではなく、他者の手による伝記本です。

 

いや私全然知らなかったんですが、戦後どころか、普通に戦争に兵士として参加してたんですね。そこは水木しげると同じか。

 

日本の侵略戦争、中国で虐殺の限りを重ねた日本軍ですが、やなせ氏は上海への配属で、小規模な戦闘しか経験しなかったそうですが、それでもそこで日本兵も中国兵も多くの命が失われるのを目にしてきた。そしてそのまま終戦を迎えたそうな。

 

日本軍の侵略戦争チアン・ウェン監督の映画「鬼が来た」とかも見ましたし、日本映画だと「野火」とかかな。野火で日本兵が人間を食ってたみたいに、中国全土へ侵略の手を広げたあげく、戦闘での死傷者以上に病死や餓死が多かった。

亡くなられた人には申し訳ないと思うけれど、自業自得というか、日本が「五族協和の王道楽土」とかを唱えてね、侵略戦争を仕掛けた加害者なのに、私が子供の頃は戦争=日本は被害者みたいな論点ずらしを普通に思ってたのが情けない。侵略された側では無く、侵略した側が餓死するっていやそれもうどこかで破綻してるよね、と思う。

 

勿論やなせ氏は思想家でも政治家でも無く、それは国の命令に従っただけ。戦争で弟は失ったものの、運良く生き伸び、戦後の経済成長にまたも巻き込まれて行く。

 

本人は漫画家志望ながら、そちらの部分で評価される事も無く、デザイナーや記者をしながら、何故かTVの世界で活躍する。人当たりの良い人で、周りの人から頼み事をされると断れないタイプだし、それなりに器用に色々な事に対応出来る力があった。したこともない衣装デザインから、何故か永六輔に気に入られ舞台美術までやる事に。結婚もしてタレントまがいの事までして収入は安定している。ただし本人は漫画や絵が自分の最もベースにあると感じつつ、そこではこれといった結果は残せない。

 

そんな中で、創作活動の一つとして詩を書いていた流れで、
またもや頼まれて断り切れずに歌の歌詞を作る。
「ぼくらはみんな生きている」

生きているから歌うんだ 生きているからかなしいんだ
みみずだって おけらだって あめんぼだって みんな生きている。

おお~、これやなせさんだったんですね。
なんの為に生まれて何の為に生きるのか、とやたらと深い「アンパンマンのマーチ」の歌詞にも通じる物がありますね。

 

そんな中で、今度はドラマの脚本まで書かされる。色々な方面で名前が売れて行く中、手塚治虫にアニメを手伝ってほしいと声をかけられる。あこがれの手塚に、漫画で何も結果を出せていない自分が?と葛藤するも、当然引き受け「千一夜物語」というアニメ映画を手伝う事に。その仕事が成功し、手塚にお礼にウチで1本アニメを自由に作ってくれて良いですよ、という流れで作ったのが「やさしいライオン」という作品。その作品の絵本版も関連作として出版。後のアンパンマンに繋がるフレーベル出版である。

 

1960年代の仕事の中で、ドラマの脚本や短編童話で何度か描いた事のある「あんぱんまん」だったが、かつて絵本になる前に描いた時はさほど話題になる事も無かった。

でもやなせ氏の中にはちゃんとそこに理由付けやテーマがある。
かつて戦争を体験した身として

強くて敵をやっつけるのが果たして「正義の味方」なのだろうか。
強い正義は容易に変質する。本当の「正義」は、常に変わらず小さな人達の
生活を守る存在ではないか。派手で強いヒーローではなくて、お仲を空かして
泣いている子供のところに駆けつけるような正義の味方が描きたい。

 

1973年、「あんぱんまん」が絵本として出版される。出版社、編集からは全く良い反応は得られなかったが、2年くらいしてから図書館や幼稚園で人気になっているとされ「それいけ!アンパンマン」として再出版される。

ミュージカル用として敵役のバイキンマンを生み出し、そこから様々なキャラクターを追加して行く事になり、人気を高めて行く中で、1988年ついにアニメ化。老若男女誰でも知っている作品になる。

 

そうか思った以上に後なんですね。今では誰もが知るって感じですが私が子供の頃はまだ無かった気がします。絵本くらい読んだ事あったのかな?1989年に元号が昭和から平成に変わるので、アンパンマンは実質平成作品みたいなものなの?え~ちょっとビックリ。

 

やなせ氏その時で70過ぎ。やっとそこで本当の代表作と呼べるものが生まれるって凄く無い?でも栄光を掴んだその先も結構生きて、亡くなられたのが2013年で94歳。なんかそこ考えると長く生きるのも悪く無いかもねと思ってしまう。結婚して無い私は晩年はそんな長く生きてても仕方ないとか思ってしまう方なので。まあ周りに迷惑かけずに自分で動ける内はね。

 

「ヒープリ」での自己犠牲を美しいものと思わない方が良い、という描き方になるほど確かに自己犠牲を美化する弊害もあるわなと思った所で、その源流として「アンパンマン」があるのではと思ったけど、意外と誕生は遅いし、それこそ「鉄腕アトム」の時代からアトム本人が世界を救うために太陽に突っ込むラストですよねあれ確か。

仏教のお布施の逸話でも、飢えた旅人に器用で頭の良い猿とか狐は食べ物を探して来て与えたけど、非力な兎は何も用意できず、自分を食べてくれと焚火の中に身を投じた、みたいな話がありますし、恐らくは世界の神話みたいなものの中にも源流とかはあるのでしょう。

 

それこそ戦争に絡めれば、特攻隊とかもそうだし、そうでなくても犠牲になった人達がただ無駄に命を落としたのではなく、何かしらそこに意味や価値はあったのだと思いたい、みたいな感情だってきっとあるはず。勤勉で真面目な人が多いとされる日本人の気質に合いやすい考え方なのでしょう。

 

でもヒープリはジェンダー問題に絡めた描き方で、女性は自分の身を擲ってでも誰かに尽くすべきみたいな古臭いいかにもな男性社会的思想への問題提起でしたし、作り手は違うけどヒープリの次のトロプリで古い仕来たりなんか知恵と勇気で乗り切って新しい世界に変えちゃえば良いのよ、という描き方をしたのには本当に感心したし、私はそれを支持したいと思った。

 

と考えるとアンパンマンアンパンマンで一つの考え方や物の価値だし、古い価値観で悪影響を与える作品許すまじ!とか目くじらを立てるようなものでも無いのかとは思いました。

 

あくまで児童書ですし、本人ではなく他者が書いた伝記でしかないので、そんなに深い部分までは踏み込めていなかった感じはしますが、まあ百聞は一見に如かずって奴ですね。読んでみればなるほどと思える部分はありましたし、まずは勝手な想像であれこれ言うより知る事が大事って感じでしょうか。

 

私は朝ドラは見ません!もしそっち関係で検索してここ引っかかったらそれはゴメンなさい。

 

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