HISTORIE
著:岩明均
刊:講談社 アフタヌーンKC 2024年
(連載2003~ 既刊12巻)
☆☆☆☆☆☆
マケドニアに、フィリッポス王に暗雲が迫る…!
という事で先月出ました、何と5年ぶりになる新刊。
11巻、どんな話だっけ?蛇が人間の頭を丸飲みにするとこ?そんなんもっと前だっけ?もはや部屋を探しても簡単には前巻が出てこない。まあ話覚えて無くてもとりあえず12巻まず読もうかって読み始めたら・・・
いやちょっと待てと。こんなに面白かったっけか?
私の中ではアラン・ムーアとかに匹敵するヤバさだ。
せっかく新刊が出たものの、ペースがあがらず落ちる一方なので制作体制を一度見直すみたいな事が本誌アフタヌーンの方に載ってたようなのですが、ここは思いきって絵は他人に任せてネームだけで良いのでは?完結しないよりはその方が良い気がするし・・・なんて単行本を読む前は思ったのですが、いやそうじゃなかった。
絵にもこだわるからペースが遅くなるのはそうだけど、こだわって描いてる絵だからこそこの人の漫画は面白いんだなって再確認させられた。目の描き方は昔から物凄く拘ってましたけど、目だけでなく表情、ちょっとした間とか、そういう1ミリレベルのこだわりこそが、唯一無二の面白さを引き出しているんじゃないかと。
これがもし例え下書きくらいまでは自分でやって、あとは他人の手に委ねたとして、もしかして岩明テイストは他の作家では表現しきれないのでは?とか今回読んでて思ってしまった。
私は自分で絵を描いたりはしないので、作家・漫画家の思考がどうなってるかはよくわからない部分はある。でも文章とかもそうですけど、こんなつたない感想ブログとかでも、自分の頭の中を、自分でそれなりに納得出来る形で言語化したりやってるわけじゃないですか。私にとってはそれってそんなに難しい事でも無いのですが、人によってはそんな自分の思考のアウトプットすら難しいと感じる人もそれなりの数居るらしい。
漫画家の中でも、自分の頭の中に思い描いたものを100%かはともかく、それなりに自分を納得させられるレベルでアウトプット出来てる人って、結構少なかったりするんじゃないのかなぁと。
よく言われるのは「進撃の巨人」の諌山先生。初期の頃は、作者が描きたいビジョンに画力が追いついていないとかよく言われてたじゃないですか。ああいう感じでね、思考を100%に近い形でアウトプットするって多分結構難しいものなんだと私は思うんだけど、岩明先生は多分そこになるべく近付けたくて、背景一つとっても明確なビジョンがあるんだと思うし、空気感みたいなものまで漫画で表現しようとしてるから時間がかかるし、他人の手に頼ると、思考がちが~う!ってなっちゃうんだと思う。(アシスタント使わないのは指示したりとか面倒みたいな事も以前に言ってた気はするけど)
今回の12巻、話が物凄く動くっていうのもあるんだけど、あまりの面白さになんか一つの極まったものを垣間見た感じで、結果としてもしこれ以上続刊が出なくて実質の最終巻になったとしても、これは凄いものを見たっていう気にさせられるものがあった。
岩明漫画って、先の読め無さ、登場人物が独特の思考ルーチンで動いてると言うか、表現もそうなんだけど、先が読めないからこそページをめくるワクワクがとまならないという、漫画の基礎中の基礎みたいな楽しみがあって逆にビックリする。
で、その独特の思考ルーチンが故に感情移入とかはしずらいんだけど、じゃあ感情移入出来ない物語がつまらないのかと言えば、そうじゃないのがこの人の面白さ。感情移入ってね、相当な武器だし魅力の一つですよ。自分を重ねたり出来る物ってやっぱり特別に贔屓目で見ちゃったりするもんですし。でもそれをさせない所に特異性があって、感情移入出来ないから面白くないのかと言えば、全くそうではない。
ある意味、それこそ歴史物、歴史の俯瞰の物語でもあるんだけど、いや今回ビックリしました。そんな歴史からも踏み外してくる描写がある。
え?アリストテレス先生、死者を復活とかさせられんの?とか、あの心臓もってった人誰よ?とか、この踏み外してくる感じがやべぇ。
フィリッポス退陣からのアレクサンドロス大王の誕生という歴史のまさにターニングポイント。それでいて第7王妃エウリュディケと第4王妃オリュンピアスのやりとりとか、今まで見たことのない表現で描かれるのがホントに凄い。
じゃあそんな歴史の目撃者、記録者である主人公エウメネスがどう動くかっていうのも、単純に読者の目線にしないで、これまたエウメネスという独自の思想がまた面白いと言う。
今回、話数的には10話分になってるけど、連載の2020年から22年までの隔月連載3年分17回分を収録。最近の漫画の単行本ってねぇ、収録を減らして1巻分薄い奴が多いんですよね。5年ぶりの新巻とは言え、ボリュームもあって、話も割と山場と区切りの良いとこまでなので、満足感がありました。
改めて思う、「寄生獣」も最高だけど「ヒストリエ」もそれに並ぶレベルの最高の漫画だなと。
さて、13巻の感想を書く日がいつか来るのでしょうか。
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