僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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メアリーの総て

メアリーの総て [DVD]

原題:Mary Shelley
監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール
アイルランドルクセンブルクアメリカ合作映画 2017年
☆☆☆★

 

<ストーリー>
19世紀、イギリス。作家を夢見るメアリーは、折り合いの悪い継母と離れ、父の友人のもとで暮らし始める。ある夜、屋敷で読書会が開かれ、メアリーは“異端の天才詩人”と噂されるパーシー・シェリーと出会う。互いの才能に強く惹かれ合う二人だったが、パーシーには妻子がいた。情熱に身を任せた二人は駆け落ちし、やがてメアリーは女の子を産むが、借金の取り立てから逃げる途中で娘は呆気なく命を落とす。失意のメアリーはある日、夫と共に滞在していた、悪名高い詩人・バイロン卿の別荘で「皆で一つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ちかけられる。深い哀しみと喪失に打ちひしがれる彼女の中で、何かが生まれようとしていた──。

 

フランケンシュタイン」の作者、メアリー・シェリーの半生を描く文芸伝記映画。「フランケンシュタイン」自体は読んだ事無いですが、まあドラキュラとか狼男とかと並んで誰でも知ってるメジャーな怪物の一つ。それらと同じくハマーフィルムの怪奇映画みたいなもので世の中に知れ渡った、みたいな印象でしょうか。

 

そこらへんのゴシック物をまとめた「悪魔城ドラキュラ」辺りが私にとって最初に触れたフランケンなのかな?(ドラキュラシリーズは最初の作品からずっと好きなフェバリットゲームの一つです)それとも「怪物くん」とかもっと先に触れてるかもしれませんが、そういうのがわからないくらいにはもう当たり前の物になってた印象。ハマーフィルムのフランケンは未だに見てませんが、ビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」とかはBDが出たくらいのタイミングで見た記憶があります。

 

あとはこの映画では特に意識されてませんが、諸説はあるもののSFっていう文脈でも世に出た初めてのSF小説、という見方もあるようです。筋肉は電気信号で動くという科学的根拠がある上での人造人間物、人工的に作られた人間が自我を獲得するうんぬんするというエクスマキナ的視点で「初のSF小説」というような語られ方もあって、SFオタクとか男の文脈で語られがちだけど、SFの元祖は女性が書いたんだよ、みたいな語られ方をしてるのを見て、へぇそうだったのかとここ最近思った事がありました。

 

その元祖SFっていう要素は映画としてはあまり触れられてないですが、今回初めて映画見て知ったのは、初の吸血鬼小説も実は同じ所から生まれていたという所。「ディオダティ荘の怪奇談義」ってその辺りの文脈に詳しい人にとっては、有名なエピソードらしいです。


そうか、ドラキュラってブラム・ストーカーがメジャーにしただけで、別に元祖とかいうわけではなかったんですね。ドラキュラ伯爵もフィクションの中ではその前の真祖的な物が出てきたりする事も多いので、その辺りの背景込みでやってるのかも。

 

でもって映画の方ですが、フランケンシュタインの怪物を生み出した彼女の人生も孤独や悲しみ、波乱に満ちており、それがフィクションのベースになっていた、的な話。

 

出てくる男がことごとく下種。というかメアリーが若いのもあってか、割と簡単に愛を信じちゃうような部分があって、相手はえ?自由恋愛つったじゃん?一人だけ愛するとかじゃなくお互い自由にやろうよ、みたいな所で傷ついていくだけならまだしも、出来た赤ちゃんまでもがそれに巻き込まれ不幸な結末を迎えてしまう、というのは見ていて辛い。

 

でもって後半になってディオダティ荘の怪奇談義のシーンが出てきて、遂にメアリーは「フランケンシュタイン」を書きあげる。が、時代が時代だけに、出版にこぎつけるのが難しい。やっと話をとりつけたものの、作者の名前は出さないという条件。この辺りは史実としても面白く話の流れできちんと押さえてあり、女性の人権というテーマ性も含めて描かれる。

 

ゴシック、恋愛、歴史、テーマ、ドラマと色々と詰め込まれてて文芸作品としては重厚な半面、やや散漫な印象。怪奇色は1シーンのみ。歴史に残る名作にはこんな背景があった、みたいな所を主軸に主演のエル・ファニングのみならず、全体的にビジュアルが美しい映画ですが、作品背景を調べると色々面白い部分がありましたので、監督とか
脚本によってはまた違うアプローチで映画化できそうなネタでした。

 

「野生の呼び声」の時に、100年前の物語がどうのと書きましたけど、「フランケンシュタイン」って1818年の発表なんですね。200年前の小説が今に至るまで色々な形で引き継がれているって考えるとなかなか凄いです。


【公式】『メアリーの総て』予告編 12.15公開