僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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DC:ニューフロンティア

DC:ニューフロンティア 上 (DC COMICS)

DC:The New Frontier
著:ダーウィン・クック
刊:DC ヴィレッジブックス 全2巻(上下巻)
アメコミ 2015
収録:DC:THE NEW FRONTIER #1-6(2004)
☆☆☆☆

 

1953年、赤狩り朝鮮戦争をへ経て、アメリカは新たな時代へと突入しようとしていた。その一方で、戦後、わずか一握りを残して姿を消したヒーロー達にも、新世代が生まれようとしていた。アメリカが向かう新時代とは、その時代を担う新たなヒーロー達とは……時代は今、新たな地平へと向かって動き始める。

 

1960年、米国大統領選挙に立候補したジョン・F・ケネディのニューフロンティア演説に絡めてDCコミックスのシルバーエイジを描きアイズナー賞、ハーベイ賞を受賞。

 

アメコミにおけるゴールデンエイジは1938年のスーパーマン初登場から戦前くらいまで。世界初のスーパーヒーローの登場とその後に続くバットマンワンダーウーマンのヒットに伴い、他社もそれに倣い、次々とスーパーヒーローを誕生させ、後にコミックの黄金時代と言われるほどにブームを巻き起こす。

 

が、第二次大戦辺りでスーパーマンバットマンワンダーウーマンらのメジャーヒーロー以外はほぼ姿を消し、スーパーヒーローコミックは一時的に下火になり、戦記物等他のジャンルに活路を見出そうとするも全体的に業界が沈んでいく。

 

その後1953年の「フラッシュ」をきっかけに「グリーンランタン」等、ゴールデンエイジ時代のヒーローを人物設定含め全てをリニューアルして新しい時代のヒーローとして再生させ、再度スーパーヒーロー物がコミックの中心に返り咲いていったというのがシルバーエイジ。

 

丁度この頃に後のライバル関係になるマーベルの方でもスタン・リーが「ファンタスティックフォー」を皮切りに「スパイダーマン」や「ハルク」等を次々と生み出し、新しいファン層を獲得していきました。DCだけでなく、そういった他社の台頭も含めてコミック業界やアメコミ全体の流れとしてゴールデンエイジやシルバーエイジという呼称、分類分けが後の時代になってからつけられた。・・・だったはず。
その辺の解説は確かマーヴルクロスに載ってましたので、詳しく知りたければ中古本を探そう。

うん、まあ今ならネットで調べた方が早いし情報量はずっと多いとは思うけど、90年代からアメコミにハマった人はまずマーヴルクロス読んでそこで勉強した、というだけの話です。コミックだけでなくそういう解説やコラムも充実してたので。

 

でもって今回の「ニューフロンティア」はそんなヒーローコミックの復権という時代だったシルバーエイジのDCユニバースと、現実のアメリカの1950~60年代に実際にあった事などを重ねて描いた作品。

 

解説にも明確に書いてありますが、映画で言えば「ライトスタッフ」とかで描かれたあの辺の時代。フィクションのヒーローを現実の歴史に合わせるという意味では何と言ってもやはり「ウォッチメン」なわけですが、実際やってる事は割と近い部分はあります。近いアプローチはありつつも(ドィームズデイクロックまで出て来ますしね)向かっていた時代やそれに伴うテーマ性、作風は勿論別物。

 

JFKがこれから大統領になるぞっていう所でのニューフロンティア演説がこの作品の最終章に重ねられて来ますので、JFK暗殺が物語の冒頭に来る「ウォッチメン」は時間軸的にはこの後。続けて読むのも悪くない気はしますが、そうすると暗い未来になっちゃうので、まあそこは分別をつけて楽しむ所かな。

因みにニューフロンティア演説というのは、要約すると地理的な面での開拓はもう頭打ちでこれ以上に開拓していく場所は無い。けどそういう地図の上での開拓では無く、政治や経済、科学や人権問題とか、いくらでもこれから解決していかなけれならない問題はいくらでもある。今度はそっちをアメリカが開拓していくんだ、みたいな感じです。

 

時代性という意味では、9.11同時多発テロが2001年ですので、その直後はやはりコミック業界も落ち込みました。現実でこんな悲惨な事が起きているのに、コミックでヒーローが悪人を倒すだけに何の意味があるの?所詮絵空事じゃん。という風になってしまい、クリエイター側も何をヒーローコミックで描くべきなのかわからなくなる。

 

で、そこから2~3年経って少しは感情を抑え気持ちも冷静になり、現実を救う事は出来ないけど、スーパーヒーローコミックなりに描ける事はあるはず。ヒーローは希望を描く象徴になりえるはずだ、というような流れが生まれ、この作品もそういう流れを作った中の一本・・・のはず。ヒロイックエイジって呼称を使ってたのはマーベルだけだったっけかな?とにかく、ヒーローがヒーローらしく再生していった時代。

 

ヒーローの復権という部分で、作中のシルバーエイジと現実世界でのコミックの流れとでリンクしている作品になっていて、そんな同時代性?が高く評価された要因の一つになっているのかなと思います。作中は古い時代の話ですが、今の世の中ともちゃんと通じるものがある、という事です。ただのノスタルジーじゃないよ、っていう。

 

当時は黒人ヒーロー居なかったけど、歴史の表に出なかっただけで、裏にはちゃんと居たよ、っていう設定の改定とかも今の時代に合うように作ってあるし、その代わりではないんでしょうけど、スーパーマンは象徴としてあまりいじれない分、ジョン・ジョーンズをもう一人の異邦人、裏のスーパーマン的な位置付けにして、空から人々を見おろすのではなく、地面に足をつけて下から空を見上げるキャラクター配置になってる辺りがとても面白い。ってかジョン・ジョーンズがかわいい。確かアレックス・ロスもジョン好きなんでしたっけ?愛されキャラですよね。

 

明るく楽しいバットマンはとりあえずスルーしたり、ワンダーウーマンは女性の人権問題の象徴としての役割もある分、ちょっと特殊な描き方をされてたり、ライトスタッフを描くならそりゃハル・ジョーダンを話に絡めたくなるよね、と面白い部分が沢山あります。

 

1巻が戦記コミックのヒーローとかを中心にしてあって、レトロ風味なだけの話なのかな?と最初は心配しましたが、ちゃんと2巻でこれぞスーパーヒーローコミック!という展開になってくれました。

 

アニメ版もあるので、そちらもいずれ見てみたいと思います。

DC:ニューフロンティア 下 (DC COMICS)