原題:A Private War
監督:マシュー・ハイネマン
原作:マリー・ブレナー「Marie Colvin's Private War」
アメリカ映画 2018年
☆☆☆★
<イントロダクション>
英国サンデー・タイムズ紙の特派員として、世界中の戦地に赴き、レバノン内戦や湾岸戦争、チェチェン紛争、東ティモール紛争などを取材してきた女性記者、メリー・コルヴィン。その後、スリランカ内戦で左目を失明し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながらも、黒の眼帯をトレードマークに、世間の関心を紛争地帯に向けようと努めた“生きる伝説”は、2012年、シリアで受けた砲撃で命を落とす――。
真実を伝える恐れ知らずのジャーナリストとして戦地を駆け抜けながらも、多くの恋をし豊かな感性で生き抜いた彼女の知られざる半生が今、語られる。
戦場記者のメリー・コルヴィンを描いた伝記映画。伝説的なジャーナリストで、スリランカ内戦で爆発に巻き込まれて左目を失い、その後は黒い眼帯がトレードマークとして有名になった女性記者。
彼女は、何故こうしてまで危険な取材を重ねたのか?みたいな所が大まかなテーマにはなってるんだけど、劇映画らしく、彼女の本質はこうだったのだろう、みたいに安易に何かしらの一つの答えを提示して無い辺りがなかなかに重厚な作り。
わかりやすい所だと「ただ数字では犠牲者の本当がわからない。だから現地に赴いて、生の声を拾いたい。戦争という曖昧な言葉で無く、その人の人生、その人の身に何が起きたのかが本質なんだ」みたいな部分はある。大局の中では個人の声はかき消されてしまう、でもその個人の声こそが伝えるべきものだ、的な考え。
まさにジャーナリズム・・・って言って良いのかなこれ?実はジャーナリズムとはこうあるべきだ、みたいな考えを私は持ってるわけではないので、そういうのが正しいかどうかはわかりません。
いや、正しいような気はするのですが、あまりに個を追いすぎても、それこそまさしくプライベート・ウォーなものであって、それはそれで意外と本質は見えてこないのでは?という気がしないでもありません。
そこはメリー・コルヴィンが考える一つの答え、あくまで彼女の信念的なものかな?そこにこそ真実があるし、それを伝えたいというのが彼女の考えだったんだと思う。クライマックスの爆撃がリアルタイムで行われている中での中継とかは、これこそが真実なんだ、それを伝えなきゃならないんだという感じで非常にグッと来るものがありました。調べて無いけど、多分この実況レポートは実際に残っている報道を再現したんだろうなと思われます。
そういう、ジャーナリズムとは何か?みたいな事を描きつつ、同時に彼女の破天荒な生き方も描かれてて、私は「ハートロッカー」なんかを思い返してしまいました。
沢山の死や残された者達の嘆きを目の前で幾度となく見てきた。本人はそれは兵士がなるものだと認めなかったものの、明らかにPTSD症状に悩まされて、酒や煙草、男に溺れる日々も描かれます。それでも彼女はまた戦場に赴く。左目を失い、危険な目に何度も合いながらも、それでも安全な後方には満足出来ず、危険地帯の最前線へ足を運ぶ。
まるでそこに居てこそ自分の存在意義があるのだと。
上司は幾度となく止めようとするのよね。それでも散々悪態をついて、自ら戦場へ戦場へと、その生き方を止める事をしない。最優秀記者として表彰され、皆に称えられても、それでもまた再び危険な戦場へ足を運ぶ。
恐れを知らない女・・・でも無いのかな?PTSDって事は多分、身体や心はどこか拒否反応を示してるはずなんですよね。それでも彼女は歩みを止めない。
戦場取材でも、彼女は常に高級なブランド物下着を身につけている。もし死んだときでもみじめな女と思われたくないから。
う~ん、何だろうこれ。死と隣り合わせのスリルの中で生を実感している、みたいなメンタルでは無いような気はした。(少なくとも映画の中では)かと言って、ジャーナリズムに準じたっていう正義感みたいなものだけでも無いような気がする。正直言ってよくわからない。
でも、そのわからなさこそがやっぱり本質な気がします。こう、色々な物が重なり合って、単純に一つの形や答えだけが真実じゃないし、その複雑でグチャグチャしたものこそが人でしょ?という感じがしました。
そしてやっぱり伝記物のお約束。ラストは実際のその人の歴史が紹介されます。2012年のシリア内戦の取材中に亡くなられているんだけど、近年ですし、有名な人なので実際に彼女のインタビューや映像が残ってて、それが最後に挿入される。
伝記物のラストはやっぱりこれよね、と凄くワクワクさせられます。コルヴィンを演じたロザムンド・パイクも相当に残っている記録から研究して見た目や喋り方を近づけたらしいですけど、おお~本物はこういう人なのか!と。
もし、ご本人があの世からこの映画を見たら、何て言うんでしょうね?よく出来てるって褒めてくれるんでしょうか?うん、やっぱり悪態つきそう。
なかなかに強烈な作品でした。