僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

TOVE/トーベ

www.youtube.com原題:TOVE
監督:ザイダ・バリルート
フィンランドスウェーデン映画 2020年
☆☆☆☆☆

 

世界中で愛される“ムーミン”を生みだしたアーティスト、トーベ・ヤンソン
彼女は、いかに自由を愛し生きたのか――。

大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかってるってことだよ。
――スナフキン(「ムーミン谷のまつり」より)

 

<ストーリー>
第二次世界大戦下のフィンランドヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。

やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいくのだが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。

そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

 


数年前にトーベ・ヤンソンの伝記映画を作ってるらしいよ、という情報があってから、ずっと楽しみにしてました。やっとこちらでも公開されたので早速観て来ました。

 

私はトーベさんのファンで、影響を受けているというか、あこがれの人でもありました。なのでまずは映画の前に、私とトーベ・ヤンソンの出会いから語らせて下さい。


ムーミンの昔のアニメはそんなに見てた記憶は無いのですが、流石にキャラクターは知ってました。でもホントにそれくらい。

で、大人になってから、私はアメコミが好きだったのもあって、その延長で海外コミック全般を集めてたりしてたんですね。当時は大した数は出てませんでしたし。その中で「ムーミン・コミックス」に出会って、そちらも読みあさりました。映画だとちょこっとしか出ませんが、ムーミンコミックスはトーベさんの弟のラルス・ヤンソンとの共著です。トーベの分とラルスの分で半々くらいかな?絵柄もちょっと違うのですが、違和感がある程でも無く、そこはあまり気にせずに読めますが、絵の端の方にサインが入ってるので、どっちが書いたのかはわかります。

 

これも映画の中に出て来ますが、ムーミンコミックスって新聞連載なんですね。横長のコマを4つくらいに区切った奴が1回分。それを何十回か繋げて一つのストーリーを作ってました。日本で言うとね、「コボちゃん」みたいな4コマ新聞漫画を30回分繋げると一つの話になってるとかそういう感じ。

流石に4コマの起承転結とかで毎回オチがあるとかそういうのではないですが、読者の興味を引くような流れって言うのは意識して作ってあったようで、(週刊誌連載漫画で1回1回ちゃんと興味を継続させる作りにするっていう手法と近いはず)そういう所が面白いなと感じたし、多分、漫画研究の分野でもこのトーベさんのテクニックってあんまり注目されて無いと思うんですけど、個人的には結構凄い事をやってるなぁと思うので、いつかその分野でも新たな評価を受けても良いんじゃないかって、私はずっと思い続けてます。

 

で、そんなコミックスからのとっかかりなのですが、一応ムーミンはそこよりも児童小説の分野で評価されてる物だろうという事で、そっちも全集で全部揃えて読んでみたわけですよ。そしたらやっぱり物凄く面白かったと。刊行順に読んで行くと、最初はやっぱり子供向けに書いてるんですけど、後半になるにつれて、完全に大人向けで観念的な話になっていくんですね。「ムーミン谷の十一月」なんてそもそもムーミン出てないし。


これがね、シリーズ序盤は序盤で子供向けながら面白いし、後半の完全に児童小説とか忘れて書いてるだろっていう部分も面白い上に、そういう変化していく感じもまた独特の面白さがあるんですね。

 

そんな感じでコミックスと小説と、全部制覇した頃にはすっかりムーミンファンです。関連書籍も読み漁り、ああトーベ・ヤンソンって風刺作家だったのか、だからアナーキズムみたいなものが作品から出てるのね、っていうのが面白くて、今度はムーミン以外の小説なんかも集め始めました。

 

トーベ・ヤンソンコレクション(全8巻)っていうのが出ていて、これもブックオフ巡りで足を使って全部揃えました。最後の一冊を見つけてコンプリート出来た時は嬉しかったなぁという記憶があります。あれは確か今はもう無い鶴岡のブックオフだったっけ。で、こちらの方も全部読みましたが、こっちはムーミンと比べると正直とても読みにくい部類です。1冊だけ文庫化もされた「誠実な詐欺師」がやはり一番好きで、いつか映画化されないかなぁと思ってたりします。

 

この変になると、もうすっかりトーベ・ヤンソンという人のファンになっていて、自伝的小説の「彫刻家の娘」とかも含め、当時出ていた関連書は全部読んでるはず。今回、パンフを読んでたら著作が網羅されていて、その中に2冊くらい持ってない奴もありましたが、それはその後に出てたっぽいので、2000年前後くらいですかね、私がハマってたのは。トーベさん、2001年に亡くなられているので、その訃報を聞いた時には、凄く悲しかった記憶があります。

 

私がトーベさんに惚れこんだのは、そのアナーキズムと、あと晩年はトーベさんって無人島で一人暮らししてたんですよね。勿論、友達が訪ねてきたり(トゥーティッキさんとか!)、月に一度だか週に一度だか生活用品や食料を買いに街に出てたりましたので、禁欲的な生活だとか、全ての関係を断って殻に閉じこもってたとかではないのです。スナフキンと同じで、人が嫌いな訳ではないけれど、同時にそれと同じくらい孤独って良いよね、と孤独を愛した人でもあって、私もそこに憧れたのでした。自分もトーベさんみたいになりたいって思ったんですよ。

 

だから私にとっては、富野由悠季とか大槻ケンヂとか、スタン・リー、クリストファー・リーブとかと並ぶような、影響を受けてる人達のなかの一人にトーベ・ヤンソンさんも入ってたりします。勿論、どの人達に関しても盲信的な視点では見ていないけれど。

 

まあ、そんな感じで、元々トーベ・ヤンソンであったり、ムーミンそのものにそこそこは詳しい人の視点での感想と思って下さい。

 

たまにと言うか、割とと言うか、ムーミンのトートバックとか持ってる女性とか結構居るじゃないですか。「へぇ~ムーミンとかお好きなんですか?実は私も好きなんですよ。原作者の全集とかも全部読んでいて・・・」とか声かけても、良い反応とか返ってきた事一度も無いけどな!そんな孤独を味わってはや十数年。

つーか何でムーミングッズとか使ってるんだよ。キティちゃんとかよりは使いやすいとかそんなんなのか!?

 

ムーミンってほのぼのしてて良いよね、その作者の映画なの?ぐらいの感覚で見るのにはオススメしません。ムーミンはこうして作られた、みたいな制作秘話部分はほとんど出て来ませんし、そもそも御当地のフィンランドで作られてる映画なので、それなりにトーベさんを知ってる前提で作られてる感じはします。

 

つーかyoutubeでも3本くらいしか感想上がって無くて、町山ですらムーミンの作者ってこんな人だったってビックリした!みたいな感想だったのですが、そもそもムーミンなんてアナーキズムの塊みたいなもんです。ああ、アナーキズムつっても本来の意味の無政府主義じゃなくて、何からも自由であれっていう精神的な奴です。

 

逆に知ってる人は、じゃあ今回の映画は今更驚かないのかと言うと、研究書とかだと割と晩年のまだ生きてる時期の話とかが多かったので、映画だとそこじゃなく、若いころのトーベさんの話だったので、そこがね、凄く新鮮で面白かった。大まかな流れくらいは知っていても、そこをドラマとして見れたのはホントに新鮮で、半端に知っていたつもりになっていた人物のまた違う部分が見れて、すごく嬉しかったんですよ。ぶっちゃけ私はそれだけで100点でした。

 

作り手もあくまでこれは劇映画であってドキュメンタリーでは無いよ、って言ってるのですが、そこはね、ムーミンファンとしては「ムーミンパパの思い出」を読んでれば、自伝というのがいかに脚色されたものなのかを知ってるわけです。(「ムーミンパパの思い出」はパパが自伝を書く話なので)

 

映画としては、挫折と自由みたいな所が軸でしょうか。トーベさんがレズビアンっていうのは勿論知ってたのですが、同時にスナフキンは昔の恋人がモデルっていうのも割と有名な話。個人的には、要はそこも、男であるとか女であるとかにもあまり拘らない自由さだと私は思ってたんですね。

 

だからヴィヴィカに恋い焦がれたんだけど、自由奔放なヴィヴィカに翻弄され、というのは結構意外な描き方に感じました。むしろトーベさんこそがこの映画のヴィヴィカみたいな感じなのかな?って思ってたくらい。あと、画家としての挫折っていうのは確かにあったと思うけど、お金の為にあんまり乗り気じゃ無いムーミンを描いたっていうのも、う~んどうなんだろう?っていう気はした。

 

ただこれ、映画内だとお父さんが亡くなるくらいまでの時期の話で、その時系列だとまだムーミン小説の後半は出て無い時期なので、その後の変化とか、晩年くらいまで描く映画も続編として作ってもらいたい気持ちもある。後半でムーミンママの精神がおかしくなっていくとことか、ドラマとリンクさせやすい気もしますし。

 

逆を言えば、今回は変化するまでを描いた作品とも言えそうで、よくヒーロー映画1作目のオリジン(ヒーロー誕生譚)ストーリーってあるじゃないですか。何かしらのきっかけで特別な力を得たけれど、そこからトラブルに巻き込まれてしまう。で、物語の最後に成長して、変化して得た力そのものではなく、成長した姿こそが本当のヒーロー誕生なんだ!で終わるのが1作目の基本パターンですよね。

 

それと同じで、トーベ・ヤンソンが色々なしがらみから解放されて、本当の自由とは何かを改めて知る事が出来た、真のトーベの世界はここから始まっていくんだよ、という話になってたのかもとも思う。

 

戦争の終わり、スナフキンやビフスランとの恋、父親の重圧、芸術家としての夢と自分がやりたい事。自分のコントロール下におけない竜や嵐の前に挫折も経験したけれど、そこを乗り越えた先に、本当の自由を得る事が出来た。それがトーベ・ヤンソンという人なのだ、という事を描いた作品なのだと思えば、いやもうこれ私は100点しかないです。

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