原題:NIGHTMARE ALLEY
監督・脚本・制作:ギレルモ・デル・トロ
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
アメリカ映画 2021年
☆☆☆☆
<ストーリー>
ショービジネスでの成功を夢みる野心溢れる青年スタンがたどり着いたのは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座。そこで読心術の技を身につけたスタンは、人を惹きつける才能と天性のリスマ性を武器に、トップの興行師となるが、その先には想像もつかない闇が待ち受けていた。
ギレルモ・デル・トロの新作が公開という事で早速見て来ました。最近は忙しくてほとんど映画館行けて無いので、予告編すら遭遇しませんでしたが、まあギレルモ・デル・トロなら外す事は無いだろうと、内容さえよく知らずにとりあえず見ておくか的な感じです。
ギレルモ・デル・トロと言えば私的にはやっぱり「パンズラビリンス」ですかね。公開された年の年間ベストにした記憶があります。
「ヘルボーイ」で注目して、多分、ギレルモの監督作は多分全部見たんじゃないかなぁ?「クロノス」とか「ミミック」とか初期作品はレンタル落ちのVHSを探して見た気がする。昔はギレルモじゃなくてギジェルモ表記だったような?内容までは正直憶えていないけれど。
「パシフィックリム」も「シェイプオブウォーター」も面白かったし、オタク界隈では絶大な信用を得てる監督ですし、J・A・バヨナの「永遠のこどもたち」とかプロデュース作品も割と面白いの多い。脚本書いてる「ダーク・フェアリー」とかちょっと微妙なのも中にはありましたけども。
でも、ああこういうのが好きなのね、こういうのがやりたいんだね、っていうのが見えるので、基本的には信頼度は高め。
そして今回の「ナイトメア・アリー」企画としては、ギレルモ作品常連で、これ素のままに赤く塗っただけだろう?と「ヘルボーイ」で思った(実際は特殊メイクでした)盟友ロン・パールマンがこれを映画化したんだけどって原作小説を持ちかけたのが発端のようで、一度1954年のモノクロ作品「悪魔の行く町」として映画化されているそうです。(そっちは見た事ありません)
ファンタジー要素ありそうで実は無いという、ギレルモ・デル・トロには珍しい感じの作りでしたが、前作「シェイプオブウォーター」でまさかのアカデミー作品賞受賞で、キャリアとしては一つステージが上がったのを踏まえての新境地みたいな部分もあるのかなと。
そういう意味ではエドガー・ライトが「ラストナイトインソーホー」でオタク作品から次の段階に進もうとしていたのと似ている状況かもしれない。
ただ今回、2時間半の長尺で、最初の見世物小屋のシークエンスで1時間くらい使っちゃってるんですよね。ドラマの方を見せたいのなら、後半のサスペンス部分?の方だけでも良かったのでは?と思わなくもないのですが、でも最初の1時間の奇妙な見世物小屋部分こそが世間が求めるギレルモ・デル・トロらしさなわけで、そこを減らしちゃうと監督らしさは薄まってしまうのかも?とも思わなくもない。
ポスターに出てる通り、ああ今回ケイト・ブランシェットが出てるのか、と思ったらこれが後半パートにならないと出てこないので、途中までは、ん?どういう事?と思ってしまいましたが、終わってみればなるほど、こういう話だったか。
見世物小屋で読心術を身に付けた主人公が、ああ世の中の人なんてこんなに簡単に騙せるんだと増長し、やがては一線を越えてしまい、破滅に向かう話。
ケイト・ブランシェットは心理学者の役で、主人公のある意味インチキマジックと対立する立場でありながら、心理操作という面では実はそんなに大差無いのでは?という発想が素晴らしい。
日本でも、ちょっと前に炎上してた某メンタリストさんとか居ましたし、そこまでの専門職でなくとも、今時のyoutuberとかVtuberとか炎上したり、まあ炎上しなくても、インフルエンサー的なそういうのが人気だったリしてるのを見ると、私は思いっきり興醒めしちゃうタイプです。
そういうのでお金を稼いでる人もそうですし、逆にカモにされてる大衆みたいなのも含めて、ああ~残念な人達だな、っていっつも思う。
いや、羨ましいなっていう嫉妬も内心あるかもしれませんよ。自分はそんな大衆みたいなバカじゃないって言い張りたい虚栄心もあるかもしれない。ただ私は昔からそんな感じで流行り物とかに乗らずにわが道を行くっていうのをずっとしてきたタイプなので、醒めたふりして自分は違うって気取ってきた面は正直少なからずある。
しかも私は凄く理屈っぽい人で、分析して理論を構成するというのがある種のクセみたいな所もあるので、実はそれで女性に嫌われちゃった、みたいな失敗もあったりします。メンタリストみたいなちゃんとしたものじゃないけど、相手の行動や心理を読んで、それで上から目線でコントロールしようとするみたいな形になっちゃって、そこで見事に嫌われる、みたいな。
なので、今回の主人公を見てて、ちょっと「うわっ」ってなっちゃった部分もある。まあ嘘とか人を騙すみたいなのは嫌いなので、そんな犯罪じみた悪い事はした事ありませんが、他人が自分の予想通りに動いたりする事に対しての優越感みたいなのはね、正直に言えばあるとは思う。
まあそんなに思い通りになんか行かないのが世の中の常というもので、そんなのを上手く出来る人ならこんな最果ての辺境でチラシ裏ブログなんかやってねぇよ、という話。自分にはこれくらいが身の丈に合ってて丁度良いとも思いますし。
何を言いたいのかと申しますと、インフルエンサーとか売れっ子Youtuberとか、それは努力の賜物なんだから素晴らしい事だとは思うけど、天狗になっちゃいけないよ、と思うんだよね、という話です。
因果応報というか、今回の話も、最後は落ちる所まで落ちる主人公。行きすぎた増長は人ならざる者になってしまった、という教訓めいた話でオチがついたのは、ある意味ギレルモ・デル・トロらしい部分ではあったのかなと思います。
ベッドタイムストーリーっていうんでしたっけか?子供が寝る前に読み聞かせるおとぎばなしみたいな奴。ギレルモ・デル・トロってそういうの好きだと思うんですよね。(確か「ダークフェアリー」もそんな話だったし)
それをファンタジーとして美しい物語として昇華させたのが「シェイプオブウォーター」だとしたら、現実はこうだよねって教訓話でリアリズムに寄せたのが今回の「ナイトメア・アリー」だとすると、それは単純に物事の裏表というか、決して全く違う方向のものでは無いような気がします。そういう意味じゃ今回もギレルモ・デル・トロらしい作品と言えるかもしれない。
いやしかし、ケイト・ブランシェットもそうですけど、トニ・コレットとかウィレム・デフォーとか、ギレルモの新作?出たい出たい!ってきっとすぐ乗ってくれたんだろうなというのが想像できて面白いですよね。「俺達のオタク監督」的な人がこうやって巨匠の域になっていく様を見ると、こっちまで嬉しくなってしまいます。