僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

見たもの読んだものなどの簡単な記録と感想のチラシ裏系ブログ

LAMB ラム

www.youtube.com

原題:Dýrið
監督・脚本:ヴァルディマル・ヨハンソン
アイスランドスウェーデンポーランド合作映画 2021年
☆☆☆★

 

<ストーリー>
山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。
ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。
子供を亡くしていた二人は、"アダ"と名付けその存在を育てることにする。
奇跡がもたらした"アダ"との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく—。

 

と言う事で映画「ラム」予告を見た時からこれは面白そうだと期待してました。
そんなにソワソワしないで。

 

が!思ってたのとはちょっと違ったかな?もうちょっとホラー映画っぽい感じかと思ってたのですが、公式で言ってる「ネイチャースリラー」というのがなるほどしっくり来る感じ。怖いと言うより、得体のしれない不気味さとかが最初から最後まで続く感じ。

 

どこで耳にしたかは忘れましたが、昔はゾンビ映画が低予算映画として定番でした。モブに白塗りさせるだけでクリーチャーが成立するから。もちろんB級。ただこの映画はそれすら出来ない。人は集められないけど、羊なら掃いて捨てるほどいるぞ!という発想から生まれた作品だとかそうでないとか。なんかそれだけで120点あげたくなる映画です。

 

実際アイスランドは人口よりも羊の数の方が多いそうで、基本は食用だそうな。突如半身人間(顔と右手だけが羊)が羊から生まれ、かつて子供を失っていた夫婦は自分達の子供として育てる。

 

アダちゃん。正直怖いと言うより可愛いです。何だこれ癒しホラー映画なのかと思ってしまいました。ワンコとニャンコも可愛い。でもこれが結構ポイントな気がします。羊、普段から見慣れてるでしょうか?あんまり見慣れてないからこそ可愛いのです。

 

でも、羊飼い。食用として生産している。あるいはアイスランドという国そのものに生きてる人の感覚として、羊に囲まれてるからこそもううんざり、という感覚も何気にあるのかなと。或いは、羊を殺して肉にする為に彼らは働いている。その感覚を私らは果たして理解できるものでしょうか?羊なんてあんまり良く見た事無いけど、結構可愛いよねなんて思えるのはたまに見るからであって、自国の人はうんざりしてるみたいな感覚、あるような気がします。都会の人が田舎に来て、田舎良いよね!とか言うけど、実際田舎に住んでる人はそこにうんざりしてる的な。

 

けれど、視点を変えれば物事の見え方は異なる。半人半獣のそれは、傍から見ればバケモノそのもの、悪魔であり、親から見れば大切な家族であり、幸福をもたらす天使でもある。

 

世の中の物、全てに二面性はあると私は考える。喪失からの救済の物語でもあり、同時にこれは狂気の物語でもある。

 

アイスランドには何も無いと考えるか、アイスランドにしか無い物があると考え、それをアイデアにするかはその人しだい。これをB級ホラーにしたてあげるか、あるいはそんな予算すらないなら、不気味なものを不気味なままにしておく、というのも相反する二つの選択の結果な気がする。心理ホラー的な作品はここ数年のトレンドでもあるし、そこに上手く乗れた作品なのでしょう。

 

怖いもの見たさを期待すると、正直肩すかしをくらうと思われますが、逆に変な映画を見たと、これはこれで、というまさしく不思議な気持ちにさせられる。

 

日本人的には、よく屠殺場なんかは縁起が悪いだの何だの言われるケースがあるけれども、そういった所の怨念という解釈もあれば、今回は羊ですが例えば山羊頭の悪魔のバフォメットなんてのも居ますし、そういった悪魔の類という解釈もあるでしょう。あるいはもっと単純に因果応報的な話だとも。

 

羊が何を考えてるかなんか人にはわからない。母羊がまさしく母であったように、人間の親もまた親だった。しかし逆に人間もまた何を考えているかなんてわからない。命も、欲望も愛情も悲しみもその自然の中にただ消えて行く。この異常な物語もまたある意味自然の当たり前の営みなのかもしれない。