MOBILE SUIT GUNDAM 0080 War in the Pocket
監督:高山文彦
シリーズ構成:結城恭介
脚本:山賀博之
OVA 1989年 全6話
☆☆☆☆
クリスマスにはシャケを食え…じゃなかった、クリスマスと言えばの「ポケ戦」
いやもう30年以上前の作品ですよ。でもこれが今の時代にでもクリスマスにはXのトレンドワードで入る凄さ。
「水星の魔女」或いはその前の「閃光のハサウェイ」辺りから初めてガンダムを見たよ的なVチューバーさんとかが結構居て、クリスマスには「ポケットの中の戦争」を見ろってやたら言われるから初めて見るよ、みたいな同時視聴動画が何気にいっぱいある。(今回私もそれ絡めて見てました)
単品で完結してるのと、全6話という短さが手を出しやすいというのもあるのでしょう。ガノタ的には昔からの定番ではありましたが、今の時代にもそうやってクリスマスと言えば「ポケ戦」というムーブが更にまた浸透していく。この辺の流れもまた面白いなと思います。
元々がね、初の非富野ガンダムです。勿論、MSVとかアニメじゃない形なら富野監督が特に関わってはいない外伝物とかはありますが、アニメではこれが一番最初。
高松信司とか中には富野の弟子筋の人も関わってたりはしますが、監督の高山文彦とか脚本の山賀博之とかはガンダム系譜の人じゃないし、これまで富野由悠季の描いてきたガンダムとは全然違うスタイル。
一人の少年とジオン兵の視点が軸ながら、後の「0083」や「MSイグルー」の今西隆志みたいに、ジオンマンセー!連邦は全員クズ!みたいな描き方じゃないし、ガンダムの世界間だけを使った独自の戦争映画という趣。
MSの活躍は少ないし、当時としてもやっぱり異色の作品で、評価は決して当時から悪くは無かったけど、結構皆困惑したというか、これはこれで。あくまで「外伝」ものだから、みたいなポジションだったと思う。
でもね、それがこうして30年経った今でも愛されて、他のシリーズともまた違う独特の位置を確立しているというのだから面白い。
そもそもね、1年戦争物はタイムスケジュール的にソロモン戦がクリスマスでア・バオア・クー戦が大みそかですよね。何なら「エンドレスワルツ」とかもクリスマスの話です確か。
劇中でクリスマスシーズンの描写が入るし、サンタのダミーバルーンとか実際に使うので、イメージとしてポケ戦=クリスマスっていうのがより強いんでしょうけど、それでも実際の現実でも当日トレンドワードに「ポケットの中の戦争」が上がるとか、もはや季節の風物詩みたいになってる。そんなガンダム他には無いわけです。
子供の視点から見た戦争、という部分で昔からスピルバーグの「太陽の帝国」が元ネタだと言われてましたが、そういえば私まだ見た事無いな。いつか見てみよう。
ああ勿論「ポケットの中の戦争」の方は初見なはずもなくもう何度も見てますよ。でも今回、久々に観ましたが「嘘だと言ってよ、バーニィ」もある意味重ねの部分だったんだなと今更気がつきました。
5話のサブタイなので、コロニーから逃げると言ったバーニィに対して、「嘘だと言ってよ」というタイトルなんだな程度にずっと思ってましたが、シュタイナー隊長から「嘘が下手だな、バーニィ」って言われる部分が最後のアルに対してのバーニィのビデオレターが、そもそもあれバーニィの本心じゃなく目をそらして嘘をついてるバーニィなんですよね。
そこら辺は昔から知ってましたが、そもそも中立のはずのサイド6で新型ガンダムを作ってるというのもある種の世間に対する嘘ですし、1話の時点でアルが連邦のMSを見た事があるとか、おもちゃ屋で売ってる嘘の階級章とか、そういう細かい積み重ねを物語全体を通してやってる。EDの歌詞にまで「嘘をついた夜には~」とか入ってますしね。
アレックスのチョバムアーマーだって、本体を隠すための「嘘」とも言えるわけで、アルの今後の人生だって、おそらくは真相を明らかにする事もなく、ずっと嘘をついて、ポケットの中に真実をしまい込んで生きていくわけですよね。
嘘も方便とでも言うか、そういう事を憶えていくのが大人になっていく事なんだよ、という物語にしてあるのはやっぱり上手いなと改めて感じる。
バーニィの最初の任務が民間船に偽装してコロニーに侵入する事。名前やID、積み荷やや書類も嘘。嘘が下手なバーニィがピンチの時に隊長が来てくれて、上手く嘘をつき通す。百戦錬磨のシュタイナー隊長は嘘を使いこなせるんですよね、それは大人だから。逆にアルも嘘が上手で最初は警察を騙したりするけれど、逆に後半は狼少年的に思われて、どうせお前の話は嘘なんだろうと相手にされない。全編に渡ってテーマとして忍ばせてあるんだなと、今更ながらに気付く。
ガンダムシリーズにはお約束として仮面のライバルキャラみたいなのを出すじゃないですか。それって自分を偽る嘘の仮面を使いこなしてるとも言えるわけですが、バーニィはそうなりきれないんですよね。嘘が下手なバーニィっていうのは、アルから見たらバーニィも大人かもしれないけれど、決して大人にはなりきれていない青年。ここが他のガンダムシリーズとは違う「ポケ戦」ならではのオリジナリティだと思う。
今はぶっちゃけ非富野ガンダムの方がもう数でも上回ってますが、最初に触れた通り「ポケ戦」当時はこれが最初の富野以外が手掛ける他者の手によるガンダムだったわけですよね?ある意味、本家では無い「偽りのガンダム」という視点でも見られた中でね、そんな嘘のガンダムでも意地を見せてやるよっていう意気込みが作る方にはあったんじゃないかと思うし、だからこそ「嘘」というテーマをあえて描いたんじゃないかと思えるくらい、作品の根っこにそれが見える作品なんだなと、今回久々に見返していて初めて気付きました。
人気のあるカイ・シデンくらいならともかく、今はキッカのその後を主人公として描く物語まであれば、果てはククルス・ドアンどころかフラナガン・ブーンを主人公にした話まである。これもう名前あるキャラ全員主役になるんじゃないかって勢いです。
そんな中でね、成長したアルがネオジオンに入って、アル専用ザク3に乗るとか作られかねない。いやそれ本編の冒涜レベルでしょって話ですが、絶対にないと断言までは出来ないぐらいに今のガンダムって隅から隅までしゃぶりつくすみたいな感じになってるじゃないですか。
でも30年過ぎた今でも、とりあえずまだそこに手はつけられていないって事は、まだ「ポケットの中の戦争」はみんなに大事に思われてるのかな?みたいな気はします。
クリスが主役のはダムAで今やってるし、アレックスはその後トリスタンに改修されたとか変ないじり方はもう多少されてはいますけども。
数あるガンダムシリーズの中でも、人気が上位とは決して言えないものの、愛されてる作品だと思うし、他には無いポジションを獲得するに至った「ポケットの中の戦争」。やっぱり独特の魅力がありますね。
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