僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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コンプリシティ 優しい共犯


『コンプリシティ/優しい共犯』本予告

原題:Cheng Liang
監督・脚本・編集:近浦啓
中合作映画 2018年
☆☆☆★

 

技能実習生として来日するも、劣悪な職場環境から逃げ出し、不法滞在者となってしまった中国人青年チェン・リャン。彼は他人になりすまし、蕎麦屋で働き口を見つける。口数が少なく不器用な蕎麦屋の主人・弘は、実の息子との関係も悪くどこか心に孤独を抱えていた。厳しくも温かい弘の背中に父を重ねるチェン・リャンと、彼の嘘をつゆ知らず情を深めていく弘――二人はまるで親子のような関係を築いていく。しかしはかない嘘の上に築いた幸せは長く続かず・・・。

 

山形県大石田町山形駅で撮影されたというこちらの作品、同じ山形県民としてこれはチェックしておくべきかなと思い、見てまいりました。

私は公開から2週目に見てきたのですが、映画館の窓口で席を選ぶ際に、あれ?結構埋まってる?半分とまでは行かないものの、3分の1くらいは埋まってるんじゃないの?と驚かされました。
だって私がいつも見てる時って多くて10人。通常4~5人がせいぜいってのが大半。その前に多いな、と思ったのは「天気の子」とか「ガルパン最終章2」ぐらい。その時は、今の客層ってこーゆーのなのね、なんて思った記憶があります。勿論、今回の「コンプリシティ」がそーゆー客層なはずもなく、今回の客層はほぼ白髪の年配の方々。私も十分おっさんな年齢ですが、それでもおそらく劇場内では一番若いんじゃなかろうか?という客層でした。ちなみに「新聞記者」とそのドキュメンタリー版の「i」の時もそうでした。私が普段好んで見てるタイプの映画が一番客層薄いんか~い!なんて思ってしまったり。
「007」なんかも初めて映画館で見た時は、年齢層高めで、なるほど何十年とやってるシリーズだから、 昔からのファンがたまに映画館に見に来るきっかけにもなっているのだなぁとその時は新鮮な発見があったものです。

 

おそらくはこの「コンプリシティ」もきっと、地元で撮影した映画をやるぞって事で、「んだら見に行ってみっべ」的な感覚で劇場に足を運ばれたのかなと勝手に想像。撮影された大石田には映画館が無いので、私が今回見た「フォーラム東根」が撮影場所から一番近い映画館なのです。
そんな環境でしたので、おじいちゃんおばあちゃん字幕読める?大丈夫?話の意味とかわかってるかな?わかりやすい娯楽作とかじゃないから退屈してない?とか余計なお世話もいいとこな想像を勝手にしながら見てきたのでした。

 

外国人労働者の話なのですが、ここ数年、やたら増えたなと実感してます。私の仕事の取引先でも住み込みの外国人労働者いらっしゃいますし、プライベートで私は東北全県&北関東辺りをよくまわっているのですが、夜中のコンビニとか結構な頻度で外国人労働者を見かけます。今はこういう時代なんだな、ぐらいにしか思っていませんでしたが、今回の映画を見て、なるほど当たり前の話かもしれないけど、彼らにも彼らなりの人生やそのバックボーンがあるんだなと改めて思い知らされました。

 

ポン・ジュノケン・ローチジョーダン・ピール、是枝弘和らが同時多発的に「貧困」をテーマにした映画を発表した事で話題になりましたが、この作品もまたそれらに連なる系譜の一つと言えるかもしれません。今は世界的にそういう時代なのでしょう。
ただ、同じ貧困の時代を描いてあっても、作品としてのアプローチは当然それぞれに違ってきます。

 

リュウを名乗る中国人の青年と、蕎麦屋を営むお父さん。それぞれ血のつながった本当の家族とは共に多少の問題を抱えている。言葉はあまり通じないながらも、人種や血のつながりをこえた疑似家族が形成されていく。ここまでは多分、多様性の一つとして他の作品でも描かれる事の多いテーマかと思われます。

 

でもこの作品で他の作品では見られない面白い部分だなと思ったのは、リュウ君の誠実さです。
冒頭の、外に設置された給湯器か何かを盗む際、彼は必死に工具を使ってきちんと外そうとしますが、もう一人は蹴りかまして壊してでも盗もうとします。まずここで彼の生真面目さがわかります。中国人労働者の集まりみたいな所で、悪行を語る仲間達に対し、彼はあまり納得していない様子が伺えます。喫煙可能な飲食店で、隣の客(後に関係者とわかる)に煙草の煙に対して小言を言われた際、斡旋業者の日本人はルール違反なんかしてねーぞと悪びれるものの、彼は煙草を消します。
そう、彼は誠実な人間なのです。

 

「優しい共犯」とタイトルにありますが、それが蕎麦屋の親父である事はもう予告の時点でわかってしまいます。心を通わせた蕎麦屋は不法労働者である彼をかばう。それが優しい共犯であるのだと。

でも私は思うのです。それと同時に、やさしい共犯者はリュウと名乗るチェン本人もまたそうだったのではないかと。

 

作中、何度も何度も「嘘」が出てきます。身分の嘘だけでなく、故郷の家族にも彼は嘘をつきます。逆に、不幸があった際にも言うなと言われていたと「嘘」をつかれます。嘘をつくのは決して蕎麦屋や主人公だけではなかったはずです。

 

ムーミン作者のトーベ・ヤンソンの小説に「誠実な詐欺師」という作品があります。「誠実さ」と「詐欺師」という相反するような二つの言葉。
コンプリシティもまた「誠実が故の嘘」が主題だったように思えます。

 

物語のラスト、大ヒット映画のタイトルに絡めて彼のアイデンティティが問われるシーンがあります。そこで彼が見出した答えは何だったでしょうか。彼はどこまでも誠実である事を選びます。

私も割と生真面目なタイプなので、そういう面でぐっとくる作品ではありました。

 


・・・なのであの美大生みたいなヒロイン、うん、あれはやめといた方が良い。自己満足みたいな絵を描いてて、自分勝手に海外へ自分探しに行く女にロクなのいません。そんな奴が自分なんて見つけられるわけない(うわ!超偏見!)
「あんたまだそこに居るの」ってお前に言われたくないわ!

 

そうそう、山形駅から車で戻るシーン、一瞬だけでしたがあれ多分新庄市ですよね?地理的におかしくない?それに大石田から海まで自転車で行くって絶対に不可能とは言わないけど流石に遠すぎ・・・なんて言ってはいけません。だってホラ、そこは映画だから・・・などという優しい嘘つき。