SUPERMAN:AMERICAN ALIEN
著:マックス・ランディス(作)ニック・ドラゴッタ他(画)
刊:DC 小学館集英社プロダクション
アメコミ 2018年
収録:SUPERMAN:AMERICAN ALIEN#1-7(2016)
☆☆☆★
これは我々が知るスーパーマンの物語ではない。まだその名で呼ばれる以前の、カンザスの農場に住む少年の物語だ。故郷を追われ、地球にたどり着いた最後のクリプトン人カル=エル。クラーク・ケントという名を与えられ、地球人として育てられた少年は、周りの子供たちとは異なる強大な力を持つがゆえに、苦悩と葛藤のなかで成長していく。
映画「クロニクル」の原案・脚本を手がけたマックス・ランディスがライターを務めたミニシリーズ。いわゆる単発の読み切り作品で、通常のDCユニバースとの設定や世界観との繋がりは無い。
とは言えロイス・レーンやレックス・ルーサーといったスーパーマンのレギュラーキャラだけでなく、バットマンやグリーンランタンの他、デスストロークやらロボやら結構色々なDCキャラは出てきます。
まずは映画「クロニクル」について。私は子供の頃はよく空を飛ぶ夢を見ていたのですが、その時の感覚が見事なくらいに映画で表現されてて結構ビックリしました。それでいて、超能力的なスーパーパワーに目覚めた少年が、その力をどう使っていくのか、ってのがリアリティ抜群に描かれてて、とても面白い作品でした。結構暗い方に話が進んでいくので、割と最後はポカーンでしたけど。作者は元々スーパーマンの大ファンだったということであの映画もクラーク・ケントが実際に居たらどうなるだろうか的な所が発想の元になっていると思われます。「ブライトバーン」とも全然違うので、見て損は無い作品でした。
そして本作「アメリカン・エイリアン」1エピソードではなく、幼少期から年代ごとに章が分かれ(年代ごとにアーティストも変わります)オムニバス形式でクラーク・ケントの成長が描かれていきます。ほのぼのとしたものからシリアスなものまで様々。
まず最初の幼少期、友達と一緒にスピルバーグの映画「E.T.」を見ます。そしてクラークは気付く、自分もまた地球人ではなく異星から来たETなのだと。
全てのスーパーヒーローの祖であるスーパーマンが誕生して以来、しばらくは単純に悪と戦う正義の味方でいられました。しかし時代が進み、設定やテーマの掘り下げが行われていくと、異星人である彼が何故アメリカ、あるいは人類の味方なのか?といった所が肉付けされたり、そこに焦点を当てた話が作られたりしていく。
スーパーマンはクリプトン人のカル=エルである以上にクラーク・ケントというアメリカ人であるという事。同じくスーパーマンになる以前を描いたTVドラマ「ヤングスーパーマン」ではシャイで心優しい少年として描かれていましたが、こちらの「アメリカンエイリアン」では割とやんちゃもしている感じに描かれる。「クロニクル」にも通じる部分でマックス・ランディス的には、こんなスーパーパワーもってたら普通こうじゃない?という感覚なのかと思います。個人的な好みで言えば、私はヤンチャ少年みたいなのは正直好きではないです。
とは言え、敗北や挫折、失敗を繰り返しながらもその中で自分を確立していく姿はグッとくる作品になっています。この作品における「スーパーマン」とは世間から見た彼の存在がスーパーマンなのであり、本人の意識としてはあくまでクラーク・ケントであろうとする。異星人としての自分を自分自身で受け入れ、カンザスで育ったアメリカン・エイリアン。
そして何より素晴らしいのがこのカバーアート。老若男女、胸にあのSマークを秘めている。そう、人は誰でもスーパーマンになれるのだ。そんな風な想像を喚起させてくれるこの表紙だけでも100点。
人はその行いしだいでスーパーマンにだってプリキュアにだってなれる。そういう事ですよ!(興奮気味に)
ああそうそう、ブログでDCを取り上げるのは今回で初めてですが、映画は全部見ててもコミックの方は全然追い切れてません。日本語版の刊行点数が少なかった昔はマーベルもDCも両方全部おっかけてたのですが、こう毎月何点も刊行されるようになると全部は無理なのでマーベル優先になってしまっているのが現状。とは言えDCも全然嫌いとかではないので、新旧問わず今後も取り上げていく予定です。