MOBILE SUIT CROSS BONE GUNDAM SKULLHEART
漫画:長谷川裕一
刊:角川書店 角川コミックス・エース 全1巻 2005年(掲載2002-04)
☆☆☆☆☆
本編に続いて短編集のスカルハートです。
ってか「ダスト」でクロボン堂々の完結とか言ってた割に、早速次の連載の「X11」の告知が先日ありました。
作者自らが「蛇足」だの「屑」だのとあえて自虐としてネタにしてたゴーストもダストも面白かったので個人的には大歓迎ですし、クロボンはやっぱりトビアの物語で締めて欲しいというのはあるので嬉しい限りですが、まあ好きじゃない人にとってはいつまで続けるんだよ、という感じもあるのかなとは。(ただ、次の「X11」は単行本1~2冊の短めの予定だとか)
そもそも今回紹介する短編集の「スカルハート」も、きちんと綺麗な形で完結していたクロスボーンガンダムですが、GFFとかフィギュアの商品展開に合わせてプロモーションとして編集部側からの要望があって読み切り短編として描かれたもの。続編に関しても同じような経緯です。
無印での最大の売りであった「富野由悠季原作」というのもこれ以降は富野は関わって無いですが、設定集のインタビューにあった通り、長谷川本人も「誰も得しない企画」であったら断る事は出来たはず。決して自分から売り込んだ企画では無く、編集部からの要望があるなら考えてみましょうか、っていう形だと思われます。
それで毎回面白いものが描けるんだから、やっぱり凄いわけで、クロボン嫌いな人は大概「絵が受け付けない」ってしか言わないんだけど、確かに流行りの絵では無い事は否定しないけど、そこを踏み越えて読んでみてもやっぱり面白く無かったって言うのかなぁ?というのは気になる所。
まあ、漫画は絵を見るものだと思ってる人は少なからず居るのは理解してますし、それこそ「ガンダム」そのものが、カッコいいMSの活躍があればそれ以上なんて求めてないよ、という人も多く居るのが現実かなぁというのはある。
でも私はそれ以上を求めてるので、やっぱりそういうニッチな人向けなのが長谷川ガンダムなのかな、という気はしないでもないです。
今回の短編集もそうなんですけど、MSだけじゃなくて、ガンダムの世界なりテーマなりのこういう部分に今回は切り込んできたのか、っていうのが長谷川ガンダムの凄く面白い部分。そんな切り口や踏み込み方があった上で、さらにそこにロジックとかを入れた上で話を作るから、やっぱり漫画として面白い物になる。
なかなかね、そういうレベルのガンダム漫画って他にはあまり無いから、またクロボンやるのかよ?というよりも、今度はどういう所に踏み込むんだ?っていう期待の方が私は大きいのです。
新作が発表されると、「どんな話なのかな?」と同時に「今回はどこに踏み込んでくるかな?」っていう期待なんですよね。私にとっての長谷川ガンダムはそんな感じ。
能書きはこの辺にして、ここからは各話の軽い感想。
■UC 0079 バカがボオルでやってくる!
タイトルは山田洋次「馬鹿が戦車(タンク)でやって来る」のパロディーという事はわかるけど、私その映画見て無いので、タイトルだけのパロディーなのか、お話としても共通する部分があるのかどうかなどはわかりません。
ウモンじいさんの若かりし頃を描いたボールをガンダム顔にした「機動戦士Bガンダム(改名の可能性アリ)」の話。
クロボン本編での、1年戦争の時にボールでドムを6機落とした、って時のやつですね。
ウモンじいさんが本当にNTだったのかどうかはこの話でもわかりませんが、クロボン本編中の描写でも結構キンケドゥはウモンじいさんの事を頼りにしてるんですよね。オールレンジ攻撃を一応よけるだけはよけられたりしてましたし。
今回の話の中だと、ボールでキャノンの反動を利用して、予測不可能なとんでもない動きを見せたりして、まるでそれがNTの動きのようだ!ってなってるわけですが、よくよく考えるとボールの頭についてるキャノンって当然そもそもが無反動砲だと思うのですがどうでしょう?いちいちキャノン撃つ度にクルクル回ってたら使い物にならない気が。
偶然の動きなのに、相手がNTの尋常じゃ無い計算された動きだって感違いしてしまうというギャグになってるわけですが、まあそこはBガンダム部分の余計な重量が本来なら無反動のものの重量バランスが狂ったと都合のよい解釈にしておきましょうか(そもそも無反動砲ってそういうものじゃない気はするけど)
そんな面白要素をやりつつ、ハッタリなんぞ戦士の誇りを傷つけるものだっていう敵に対して、戦争で誇りも恥もねーよ!と言い放つ所が最高にカッコいい。戦争を描いてる作品で、武人だのカッコよさだのとか求めてるのって、それはそれでどうなのっていう部分はやっぱりちょっとあるよね?という自己反省的なテーマを堂々と描く面白さ。
それでいてオチもあれば、後のクロスボーンガンダムにもドクロレリーフとかそれはそれでハッタリも意味はあるよ、という設定にまで繋げてある辺りが面白いポント。
■UC 0133 星の王女様
こちらはサン=テグジュペリの「星の王子様」が元ネタかな。
「大切なものは、目に見えない」みたいなのも含めて、割と引用される事の多い作品ですが、大人になってから読んだ事はあるけど内容は正直憶えていない。
木星軍に利用される可哀相な女の子・・・と見せかけておいて、っていう価値観の反転というドラマが面白味。
ただそれも、単純に実は敵でしたっていうのじゃなく、アンバランスな価値観というのがちょっと独特な部分ですよね。
あとは今回の戦闘シーンで、ペズ・バタラを武器として使うシーンがメチャメチャカッコいいし、こういう発想の転換こそがクロボンの良さだと思う。
■UC 0135 海賊の宝
ここからがクロボン本編時系列より後のアフターストーリー。ついでにF91のカラバリとしてハリソン機もこの辺りから割と重宝されるようになっていった気が。
ストーリーはともかく、両腕を縛られた状態からそれでも活躍するスカルハートが非常にカッコいい。
時代劇評論家の春日太一が言ってたけど、富野が殺陣には並々ならぬこだわりを持っていて、そこがガンダムのアクションの面白さにひと役買っていると分析してて、同時に実は銃撃戦だと殺陣のバリエーションを作るのが難しいというような事を以前言ってました。
それ聞いてね、ああ~っ!カッコいいポーズ決めてビームを撃つだけのガンダムが見ていてつまらないのはそう言う事だったのか、と目から鱗でした。接近戦の方がアクションにバリエーションを持たせ安いし、感情もそこに乗るんだと。
まさにそれって接近戦特化型のクロスボーンガンダムのコンセプトにもバッチリ合うじゃないですか?今回みたいに両腕を縛られても脚部にヒートダガーを仕込んであるし、なんならそこから足でスクリューウェッブをコントロールしてしまうと。
読んでる方は、おっ!そう来たか!っていう驚きや発見がある。だから読んでいて面白いという感情が生まれるわけです。そういう所にもちゃんと面白さの秘密や秘訣みたいなものがあるんだよな、と改めて気付かされますね。
そして「海賊の宝」。今回のストーリーでは描かれない彼らのその後をたった1コマで演出する粋な計らいが素晴らしい。
■UC 0136 最終兵士(前後編)
読み切り短編集の中でも顔となる一作。
後の「Vガンダム外伝」にも繋がる木星じいさんグレイ・ストーク登場。(時系列的にはVガン外伝の方が後ですが、作品が発表されたのはVガン外伝の方が先)
木星版クロスボーンガンダムとして作られたアマクサ。そのコントロールにはあのアムロ・レイの戦闘データをコピーしたバイオ脳が使われていたと。
ファーストガンダムのラストでアムロが乗り捨てたコアファイターを回収って確か他のガンダム漫画でもそんな話はあった気が。近藤和久の何かでしたっけ?よくは憶えてないけど、そんなの読んだ事がある気がする。
最強のニュータイプとされるアムロの戦闘データコピーに木星じいさんとトビアは果たして勝てるのか?っていう。
つーか「ガンダムF90」でもシステムARとシステムCAとかありましたし、しばしばアムロとシャアの遺産みたいなのはネタにされますね。そういうかつての英雄を技術的に蘇らせて、それと戦うっていうのは必然的にメタ要素として読めるわけで、じゃあそんな偉大な「ファーストガンダム」という作品に対して今を生きる主人公はそれにどう対峙するのか、どんな意味を持たせるのか、っていうテーマになってくる。過去作品でその辺を扱ってる作品は大概そうでした。
が!そこはクロボン。まあ短編っていうのもあるのかもしれませんが、そこからはちょっと捻って描いてあるのが面白いですよね。
戦闘に関しても、1年戦争時のアムロのデータなら、1年戦争時には無かった武器を使えば流石に初見でいくらかは反応が遅れるのでは?という展開になって、おおっ!確かにアンカーとかあまり他のMSでは見かけない武器だよなと一瞬思わせておいてからの、直接アンカーを打ち込むのではなく、相手のハンマーガンを絡め取るという。
おそらくはこんなのと同じシチュエーションは過去に経験した事は無いだろうって形成に持ちこむのが凄い。そうか確かにアンカーで攻撃とかだとヒートロッドと同類かもしれない。この外し方がやはり面白味。そしてバトルの面白さかと思えば、更に違う方向でオチを作る。この予想を裏切る感じが長谷川節よね。
■UC 0136 猿の衛星
タイトルは勿論「猿の惑星」から。でも内容的にはそこじゃなく「2001年宇宙の旅」がオチになってる。あの有名な映画史におけるの最大級の時間跳躍演出と言われるアレ。
それでいて「博士の異常な愛情」っぽいシーンもあったり、セガールとアンソニーとか変なとこからもネタ持ってきてたりするけど。
かつてのジオン軍が、兵士不足を補う為に猿にMSの操縦を仕込ませていた、というトンデモ話に思わせておいて、実はニュータイプは人類の進化では無いのではないか?という踏み込んだテーマを描いてある所が最高に面白い。
宇宙世紀じゃないけど「ガンダムX」でもイルカのNTとか居たっけか。言葉を発しなくても伝わる感覚って、そりゃ場合によっては動物の方が優れている部分あるかもね。わざわざ「動物的な勘」とか言うわけですし。
で、こういう「別の形での進化」は後の「ゴースト」のフォント君にも繋がるわけですが、この辺りのアプローチの仕方もまさしく長谷川節という感じでメチャメチャ面白い。それでいて表層上はバナナとか使ってお茶らけて描いて見せる手腕。
MS06MS(モンキースペシャル)バルブスとか子供がミキシングビルドで作りそうな足も手というバカバカしい期待ですが、これが後の世のジオとかナイチンゲールの隠し腕に繋がるのかもしれない。(お、オフィシャルではござらぬぞ)
という事で「スカルハート」久々に読み返してみましたが。どの短編も語り甲斐があって面白いし、ひと捻りふた捻り考えてある描写、そしてバカバカしいと思える描き方の裏にあるきちんとした深いテーマと本当に長谷川裕一凄いなと思わせてくれる非常に楽しい1冊です。
次は「鋼鉄の7人」!
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