僕はこんな事を考えている ~curezの日記~

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くじらびと

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LAMAFA
監督・撮影:石川梵
日本映画 2021年
☆☆☆★

 

<ストーリー>
インドネシアの小さな島にある人口1500人のラマレラ村。住民たちは互いの和を何よりも大切にし、自然の恵みに感謝の祈りを捧げ、言い伝えを守りながら生きている。その中で、「ラマファ」と呼ばれるクジラの銛打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。彼らは手造りの小さな舟と銛1本で、命を懸けて巨大なマッコウクジラに挑む。


予告編を見て、面白そうだなぁと思ってたのですが、予想してたのとは若干違ってました。ナレーションとかはあまり入れずに、メッセージ性とかはあえて入れずに、どちらかと言えば見たまま感じたままを体感してほしいっていう作りかな。

 

当然クライマックスにくじらとの戦いの映像があるのですが、もうそこは何じゃこりゃっていう見た事も無い物でしたが、作品全体としては大きな流れとして、文化とか宗教感みたいな所が軸かなぁ?宗教つっても、ナントカ教とかそういう方向じゃ無く、自然と人間の関わり方、生き物を殺して成り立つ生活、というのはいかなる事なのか?というような。

 

クジラとかイルカ漁に関しては、生物愛護の観点からどうのこうの、日本の捕鯨文化としてうんぬんかんぬんって言われがちですけど、そこはひとまず置いとけと。それについては一切触れられません。まずこういう村があるんだ、それを見てくれと。

 

作品として触れて無い物に関してここで言っても仕方の無い事ですが、私個人のスタンスとして、森達也「虐殺のスイッチ」という本を読んだ時に書いた感想で触れてる所がやっぱり大きいです。日本の鯨食文化ってすぐ言うけど、あれは戦後のたんぱく質食料不足を補うために安い鯨肉が一時期使われるようになったってだけの話で、文化とか言う程歴史ねーから!捕鯨文化は以前から多少はあったとしても、決して昔からの大衆食とかそういうのじゃないぞ?っていうのがインパクトありました。

 

うん、まあ「うなぎ」みたいに高級食材だけど1年に1度くらいは食べるとか今はそんなん無いですしね。日本人の大半が鯨なんか1年に一度も食べないのが今の現状だし、多分これからの人は一生に一度も食べないままで終わる人だって普通に居るでしょう。そんな風に言われたらまあそうだわな。

 

で、今回のドキュメンタリー映画は、監督こそ日本人ですが、取材してるのはインドネシアの漁村。そこは文化として鯨漁が残ってて、それで生活が成り立っている世界。しかも現代的な捕鯨船とかじゃなく、手作りの船で、人間がジャンプして鯨に古典的な銛を打ち込んで殺して捕獲すると。

 

倫理がどうこう言う以前に、現代でもこういう生活を当たり前にしている人達が居るんだっていうのが軽いカルチャーショックです。

 

しかもね、こんな事を思うのも変かもしれませんが、まるで「ワンダと巨像」みたいな世界。鯨の種類にもよるんでしょうけど(私はそこは詳しく無いので間違ってたらゴメンなさい)鯨って海洋生物の中でも最も巨大なものじゃなかったでしたっけ?「ジュウオウジャー」でも海の王者としてジュウオウホエールってのありましたし。

 

そこに対して、まあ流石に人間一人って事は無く、数10人でですけど、生身で戦いを挑む。銃器とか近代兵器でなくて銛一つ裸一貫でですよ。何だこの世界って思いました。

 

しかもビジュアル的にやっぱり海が鮮血に染まって赤くなるってなかなかショッキングで、まるで神話の中の世界みたいでした。(か、先ほど言った通りゲームの世界か)

 

400年の歴史があるって言ってたかな?いやその歴史の始まりってどこにあるんでしょう?魚を釣るっていうのとは、明らかに違う文化ですよねこれ。自分の身長体重の何十倍何百倍もある巨大生物で、しかも海という明らかに人間には適さない相手側に有利なフィールドで狩りを行う。これってどこから来た発想なのか、想像もつきません。

 

大きい獲物の方が、より多くの人達に行きわたるっていう発想まではわかるんですよ。でも普通に考えたら無理ゲーって奴ですよね。それを攻略しようとした最初の人の発想が凄い。

 

そして手作りの木で作られた船。これも結構面白くって、釘とか一本も使われて無いそうで、左右も非対称。鯨の衝突にも耐えられる作りになってるそうなんですが、その漁の為に作られてるものなので、独特の構造で、いわゆる機能美みたいなのが感じられて、そこは面白かった。倒されにくい構造なのと、10人が乗り込む船で、おそらくは乗員が振り落とされないようにと、格子状に手すりみたいなのがついてる。それでいて予備の銛なんかもストックされていて、どことなく海上の戦車的な様相もある。いや、対鯨用にカスタマイズされた形と言うかね。

 

面白いのは船に目がついてる所。その船には魂が宿っているからだと。劇中、銛を打つ役割の人がマンタ漁で亡くなってしまって、海に引きずり込まれたので遺体も上がってこなかったっていう風になる。葬儀が行われるのですが、大きな巻貝を一度海に落として、それを拾う事で遺体の寄り代としてその貝で葬儀を行うっていうのが描かれてました。それもまた、魂が封じ込めてあるという事なのでしょう。灯篭流しみたいな事もってましたし、色々な物に魂が宿るっていうのもちょっと日本人に近い感覚なのかなと思えて、凄く興味深かった。

 

勿論それは鯨に対しても同じで、彼らはただの食糧、商品として見てるわけでもない。自然、あるいは海の象徴としての鯨であったりマンタであったり鮫であったり。巨大な生物=自然そのものの化身みたいな感覚があるのかなぁと。そんな自然に抗い、殺し、それを食べたり商用材料にする。それが人が生きるという根本にあるもので、鯨漁とはその自然と人の向き合い方を知る儀式でもあるのだ、というのが伝統として、宗教として今も残っている、という感じに私は見えたかなぁ。

 

ただの圧倒的な自然と、見た事の無い凄い映像っていうだけでも十分に観る価値はありそうですし、それで良いのかとは思うのですが、ここから世界の在りようとはいかなるものなのか、みたいな事を想像するのも悪くないかも。

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