著:鐘弘亜樹
刊:講談社 講談社キャラクター文庫018
2015年
☆☆☆
「闇の力のしもべたちよ!」
「とっととおうちに帰りなさい!
書きおろし小説プリキュアシリーズのスタートを飾る第1弾!
“光の園”の選ばれし勇者メップルと希望の姫君ミップルが伝説の戦士プリキュアとしてパートナーに選んだのは、ごく普通の女の子。ベローネ学院女子中等部2年の美墨なぎさと雪城ほのかは、キュアブラックとキュアホワイトとなってプリズムストーンを狙うジャアクキングの手先たちの攻撃に立ち向かっていく。ほのかの祖母さなえとミップルの間におきた、遠い昔の出来事の秘密が明かされる……。
このシリーズは「マックスハート」以外は出た時に普通に買って読んでますが、入院中に5冊ほど持って行き再読。ブログに感想残しておきたかったというのもありますしね。
小説プリキュアシリーズがどういった位置付けのものなのかは過去記事を参照にして下さい。
いわゆるメディアミックス展開で、TV放送中にノベライズ版が出るという普通の形では出ていないので、終了してしばらく経ったものを、しかもメインターゲットではないもっと上の層に向けて出すと言う、プリキュアにしてはちょっと変わったタイプの商品・作品。結果として、シリーズ半ばにしてストップしてるわけですから、上手くは
行かなかったというのが厳しい見方ですけど、売れない=価値が無いわけではないですしね。
シリーズの第1弾として出たのはやっぱり初代。
時系列的にはTVシリーズ前半戦。ポイズニー&キリヤ編のアナザーストーリー的な位置付け。
あらすじとかもそうですし、この作品を紹介する時によく言われるのは「さなえおばあちゃんの若い頃の話」と言われがちなんですけど、そこの部分、決して分量が多いわけでもなければ、なぎさとほのかの話とも基本的にはリンクしてこない。終盤でちょこっとだけ時空が歪むみたいな形で多少はクロスするんですけど、そこがこの本のテーマあだとか、クライマックスという感じでもないので、この本の特徴の部分ではありつつ、意外とそうでもないよ、という、若干説明はしにくい。
さなえおばあちゃんね、まるでほのかがプリキュアである事を知っているかのような描写もあったりして、当時から実は先代プリキュアの、言うなればキュアシルバーなんじゃないかってのは昔からよくネタにされてたっぽいけど(CVも野沢さんで強そうだしね)流石に設定上それはないです。
ファンにとっては有名なエピソードですけど、こうシリーズが続くと初代を見て無い人も居るでしょうから、一応説明しておきましょう。私も別にリアルタイムで見てたわけじゃないですし。初代「ふたりはプリキュア」の28話。本放送日は8月15日の終戦記念日、さなえおばあちゃんの若い頃の回想が入って、それがモロに戦争で街が焼け野原になってしまったっていう話なんですよね。
「プリキュア」で「戦争」をテーマにする。今考えても相当に攻めてるなと。逆に考えればそういう攻めの姿勢がプリキュアらしさとも言えますし、当然ながらただ作り手が急に自分の主張をしたいから戦争の話を入れたとかじゃなく、日常の大切さであったり、どんなに絶望的な状況であっても、希望に向かって歩いて行けば、きっと晴れる日も来るというプリキュアが伝えたいテーマと共通するものがあるからこそ、そういう話を作ったのでしょう。
これね、単純にマーケティング論だけで作ってたら、女児向けの変身ヒロイン物で実際の戦争に触れるとか、誰が考えたってあるわけがない。それをやってくる作り手の矜持、気骨とか、やっぱりプリキュアって初代は特に少し異質ですよね。
さなえさんの若い頃の話という意味ではそこからの流れなのですが、今回はそこで描写された「戦後」の少し後、高度成長経済期にあった都市開発に絡む話。仲よくしていた幼馴染の男の子が、大人になるにつれて距離が離れ、ちょっとまずい事に手を染めるようになっていく、という話。どっちにしろ、何でプリキュアでこれをやるんだ?感は結構あったりします。
過去じゃなく現代の方では、キリヤが「僕には人間がよくわかりません」とかほのかに言ってたりする辺りなので、そこにさなえの過去話をテーマ的にオーバーラップさせる事で、深みを出そうとしてるのかなとは思う。基本的には人の「倫理」についての話なので。
タイムライン的にはポイズニー&キリヤ編ですが、展開としてはTVシリーズとも少し違う描写もあったりしますので、その辺りを楽しめれば、という感じかなぁ?初代で一番盛り上がる部分なので、そこをそのまま決着がつく所までノベライズとしてやってくれても良かった気はしますが、まあこれはこれで。
因みにこの本、小説プリキュア1冊目というのも関係してるのかどうかは定かではありませんが、文体が物凄く普通の一般小説。
具体的には状況描写・背景描写というのかな?
ベローネ学院女子中等部2年桜組の教室で、雪城ほのかは本を読んでいた。開け放たれた窓からはセミの鳴き声と、緑や土の匂いを含んだ夏らしい空気が流れ込んでくる。たまに熱っぽい風が吹いてはクリーム色のカーテンがはためき、光と影が交互に外側の席を染めた。
とか、ラノベとかではあまりやらない普通の小説っぽい文体が物凄く多い。いや私は小説とかあまり読まないし、そちらの文化に関しては全然明るく無いのですが、私にとってはこういう細かい描写こそが「一般小説」っていうイメージが物凄くあったりする。
ぶっちゃけそこめんどくせえなとか思いながら読むタイプの人なんですけど、例えラノベとかでも、物語の最終ページの締めくくりって、そういう背景描写で終わるのがセオリーだし、それが小説っぽさだと素人ながらに思ってるんですけど、これ伝わるかなぁ?
とまあ、なかなか手ごたえのある1冊という感じです。
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